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ハルキオン

狂騒の後

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「……すっかり遅くなって、しまいましたね」

 落ち着きを取り戻したハルキオンが、窓から空を見上げながら呟いた。

「カイラさん、その、すみませんでした。……貴方の手をよっ、汚してしまった」

「良いんですよ。僕の方こそ、無関係なルネスタさんを巻き込んでしまいました」

 2人の会話は穏やかだ。

(この人となら、ずっと話していられそう)

 ルネスタが初めてそう思えたのは、ただの性欲か。

 それとも、身内以外で初めて自分に優しくしてくれた人だからか。

「ご自宅まで、わたくし、送って行きましょうか?」

「いえ、悪いですよ」

(死刑執行人であるこの人を連れてったらヴェルトさんになんて言われるか……)

 そもそも時間的に何があったのか問い詰められるのは確定なのだ。

 これ以上火に油を注ぎたくない。

「そうですか……」

 とハルキオンはどことなく寂しそうに返した。

「そうだ、あの、カイラさん」

「なんでしょう?」

「死刑執行人ハルキオン、という名前は、自分のほっ本当の名前を穢さない為に、あるんです。本当は身内以外に、自分の本当の名を明かす事は、ダメな事なんです」

 ハルキオンは一息ついて、ゆっくりと話し続ける。

 目の前の少年にならば、気を張る事なく話していられる気がした。

「なのでカイラ、さん。どうか、ルネスタという名前は2人だけの、秘密という事で。そして……もし。もし、ですよ。また2人で会う事があったら。ルネスタという名で、呼んでもらえませんか?」

「……えぇ、分かりましたルネスタさん。またどこかで会えたら」

 ルネスタは屈託のない笑みを浮かべた。
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