【R18】翼神のイタズラ PLAYER No.037 大橋道哉の場合

まめた

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DAY 28.

重なる

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 自分で気が付いていなかったんだが、
 腹が空いていたんだと思う。

 あかりが用意してくれた
 ホットケーキはあっという間に腹に収まった。

「足りなければ作り足しますよ?」

 あかりはいつもの様に言ってくれたけど、
 昨日動き回ったのはあかりも一緒だし、
 今朝一番で起きて真名ちゃんの相手をしてくれたのはあかりだ。

 流石に申し訳なくて、お礼を言って「足りたよ」と応じる。
 真名ちゃんは俺の皿が空いたのを見てガッツくように
 自分のホットケーキを口に運ぶ。

「真名ちゃん、ゆっくり食べてね?
 詰まっちゃうからね」

 あかりが何の気無しに隣の真名ちゃんを見て言った言葉に
 ぴたりと真名ちゃんは手を止めてあかりの顔を見上げた。

 なんというか・・
 人間に化けた宇宙人が、
 宇宙人とバレたシーンを古いB級映画で見たことあるんだけど・・
 そんな感じ。

 ピタリと止まった真名ちゃんはやっぱり、異質で・・
 あかりもそれに気がついたらしくて、顔がほんの一瞬固まった。
 それでもあかりは流石に大人で・・すぐに何でもないような顔をして見せる。

 真名ちゃんは自身を見返すあかりの顔を確認すると
 真名ちゃんはほんの少し間を開けて、ぷぅっと頬を膨らませた。

「大丈夫だもーーん!
 もっともっと早く食べられるもん!!」

 いかにも子供がやりそうな駄々こねに、
 あかりも合わせることにしたらしい。

「詰まっちゃったら苦しいよーー
 それに、よく噛まないとお腹壊しちゃうよー」

 真名ちゃんのほっぺたについたカスを取って、
 あかりは敢えて彼女から自分の皿のホットケーキに視線を移した。
 その瞬間・・ほんの一瞬、真名ちゃんは真顔であかりを見る。

 ・・まるで、の結果を気にする役者みたいだ。

(・・・・)

 俺はあかりが用意してくれた
 ホットミルクを飲んでいる振りをしながら、
 真名ちゃんの表情を見ていた。

(・・ちゃんと関われないなら・・
 関わるべきじゃないよな・・)

 ◇◇◇

「俺について理解して欲しいとか、頼んでないんだけど?」


 俺は中学時代に青木に言われた言葉を思い出してた。

 ーーーーー

 随分前のことだから、
 青木本人が覚えてるか分かんないけど・・

 当時、青木は結構ミステリーな存在だった。
 クラスの中で・・っていうよりも学校中で。

 ”大人しい男子”だったけど、
 色々とあって青木は超有名人だった。
 本人は否定すると思うけど。

 そんな超有名人の青木と喋るようになったころ、
 今の真名ちゃんと同じように、
 大人しい笑顔のあと、僅かな時間・・
 ゾッとするような真顔を見た俺が軽口を叩いたことがある。

 ゾッとっしてた癖に、怖さを紛らわせたかったのかもしんない。
 いつもの通り、軽い口調だったと思う。

「青木、何かあるんなら言ってくれな?
 その・・できることなら・・」

「何が?・・何も困ってないよ。俺」

 青木の真顔に一瞬でいつもの穏やかな笑顔が張り付いた。
 ・・その”いつもの穏やかな笑顔”を初めて怖いと思った記憶がある。

「・・・いや・・どしたの?何で怒るん??」

 青木は違うと言っていたけど、
 ビビり腰の俺に青木は確かに怒ってたと思う。

「・・・大橋は何にも分かんなくていいよ。」

 ビビっていた癖に、
 踏み込みたい衝動に何故か駆られたのを覚えてる。

「えと・・友達だし、
 俺がイロイロと分かってた方が・・青木も楽じゃね?」

 本当に余計な事を言ったと思ってる。
 あの時、確かに青木の声が唸るように急に低くなった。

「俺について理解して欲しいとか、頼んでないんだけど?」

 俺を殺してもおかしくなさそうな冷たい怒りの形相になった後、
 何かに気が付いた様に俺から視線を外して・・
 ふうぅーーーーーーっと 深く息を吐いた。

 映画だったら、
 この後、猟奇殺人に移行するんじゃないか・・って空気で・・
 完全に涙目になっていた俺に・・

 冷静さを取り戻したのか・・
 無表情になって、その後にっこり笑った。

 青木は色々と・・それはもう色々と、
 俺に罵詈雑言を浴びせた。

 本当にバカだった・・今もバカだけど・・
 俺は、ようやく人間ってどっかしら踏み入っちゃいけない領域があるって事を
 この時に学んだ・・というか学ばされたんだった。

 以降、俺は深いところに踏み込む人間はよくよく限定するようにした。

 今、俺が踏み込むのはあかりだけだ。
 家族に関しても多少は・・でも、他はどうでも良いと割り切った。

 特に大事でもない人間に踏み込んで、
 どこにあるかも分からない逆鱗に触れる必要はない。

 俺が変わっただけでなくて、
 青木との関係もあの時に変わった。

 対等だった・・いや、若干だけど・・俺が上位だったはずの
 俺と青木の上下関係が完全に崩れて、
 青木が上位になったのもこの時からだ。

 ◇◇◇

「みちやくん、
 ホットケーキ食べた!

 お皿あらおう!」

 俺の顔を覗き込む真名ちゃんの声に一瞬で現実に引き戻された。

 俺が上の空だったからか・・あかりが心配そうに後ろから見てる。

「・・・おう・・
 洗おうなーーー」

 4歳の女の子の真名ちゃんと
 12歳の男だった青木・・

 全然違うはずなのに
 妙に・・どうしても何か重なるし、
 俺は当時よりはさすがに多少・・成長したものの・・
 やっぱりバカで・・

 青木に失敗した俺はまた真名ちゃんに失敗しそうな気がする。

 それに・・俺は1週間だけ一緒にいる
 真名ちゃんの保護者だ。

 子供だから・・心配だから・・
 真名ちゃんを理解しようとする必要はない。

 真名ちゃんを心配するあかりに深入りするなと言うだけで十分だ。
 そうだ。
 真名ちゃんの不気味さを感じるのは1週間・・
 関わるべきじゃない。

(俺、意外とトラウマになってたんかな?
 青木のこと・・)

 あの温度の無い・・でも怒りを感じる真顔を・・
 随分久し振りに思い出して・・
 俺は振り払う様に立ち上がった。

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