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DAY 27.

お姫様はご機嫌斜め

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「・・・ふぅーーーーーーー・・」

 ダマリさんが長く息を吐きながら
 瓦礫を元の位置に完全に下ろした。

 ガラガラ!!

 途端にダマリさんの足元の瓦礫が崩れ始めた。
 真名ちゃんがいなくなったことで、
 瓦礫のバランスが崩れたのかもしれない。

 ダマリさんは瓦礫に足を取られながらも
 しっかりした足取りで
 俺たちのところへ走ってきた。

「道也さん!!
 真名を守ってく・・」

 多分、丁寧なお礼を言い始めた
 ダマリさんを止めた。

「疲れてるとこ悪いけど・・
 ダマリさん!すんません!!
 真名ちゃん抱っこしてあげて・・
 メチャクチャ痛い・・」

 予想以上に強く噛まれている左腕は
 肉が噛み千切られそうなほどに痛い。

「・・・おや・・」

 ダマリさんが一瞬で優しい顔になると、
 筋骨隆々とした腕を
 真名ちゃんに伸ばす。

 真名ちゃんは彼女を助けるために
 俺が彼女を押さえつけてたなんて
 知ったこっちゃないんだろう・・・。

 誘拐犯かなんかから救出された直後みたいな勢いで
 びぃびぃと泣きながらダマリさんに抱きついた。

 こんな嫌われると、
 なぜだかちょっと悲しくなる。

 ・・なんにしても、ごっついし、
 ゴリラ寄りの見た目のダマリさんに
 相当懐いているらしい真名ちゃんは、
 まるで木につかまるコアラだ。

 ぴったりとダマリさんに抱きついた。

「真名・・痛いとこはない?」

「あ゛ーーーーーーー・・・ううぅうぅう!!
 ・・・ひっく」

 何を聞いても言葉にならない音しか口にしない
 真名ちゃんを、ダマリさんは歩きながらあやした。

 見た目には擦り傷とか打ち身はありそうだけど、
 大きな怪我はない。

「ダマリさん・・手が出てた人は?」

 小さい真名ちゃんに
 聞かせるような話じゃないけど、
 助ける必要があるかどうかは重要だ。

 確か、真名ちゃんを見つけたとき、
 真名ちゃんは一人じゃなかった。
 下半身だけが瓦礫に埋まっていた
 真名ちゃんとは違って、
 ほぼ全身が瓦礫の下という状態で
 明らかな大人の手が一本瓦礫から出ていた。

 俺の質問にダマリさんは
 真名ちゃんの耳を塞いだ。

「脈を診たのですが、
 全く脈がありませんでした。

 ・・どちらにしても
 私ひとりでは、助けられません。」

「・・人間じゃなくて、
 人形だったってことは・・?」

 あれが、人形なら・・
 まぁ助けなくても罪悪感はない。

 ダマリさんは首を横に振った。

「小さな切り傷から出た血が
 一部固まってました。
 私が知る限り・・
 人形が傷ついても
 凝固する液体が流れ出ることはありません。」

 俺は、真名ちゃんの歯型がついて
 血がにじんでいる自分の腕を見た。

 僅かな血の雫が既に固まり始めていた。

 ◇◇◇

 ほどなく、
 あかり達が待つ場所に着くと、
 あかりがほっとしたように微笑んだ。

「・・こんにちは、真名ちゃん。」

 あかりがダマリさんに抱かれてまだ
 しゃっくりあげてる真名ちゃんに話しかけた。

 唯一おじさんでなく、女の子の格好をした
 あかりなら、怖がることもないかも・・と
 期待したけど、ひしっとダマリさんに
 しがみついて顔をその首元に埋めたままだ。

「・・・
 待ってる間、
 真名ちゃんも俺たちと潜伏した方が
 良いのか考えていたのですが・・

 これは無理そうですね。」

 青木が真名ちゃんの様子を見た後、
 ダマリさんを見て言った。

「こんなちっちゃい子に
 1週間近くもじっとして
 過ごせ・・なんて無理だろ?」

 子供は走るもんだ。
 どこで潜伏するのか知らんけど、
 1週間も隠れて過ごすなんてのは、
 あまりにも無理ゲーだと思う。

 無茶なコト考えてた青木に
 俺がそう言うのを、もともと渋い顔を
 更に渋くさせて聞いていた
 ダマリさんが俺をじっと見ていた。

「皆様には
 ご迷惑をおかけするかも知れませんが・・
 お願いします。

 真名も皆様と潜伏させてください。
 何とか真名を説得します。」

 かなり真剣な顔だ。

 ダマリさんが言うには、
 戦闘神官に負傷者が出なければ、
 真名ちゃんに関してはこのエロースの神殿で
 保護するつもりだったらしい。

 同じ『エロース』プレイヤーで、
 真名ちゃんと俺達の保護優先順位は違わない。
 ・・・とはいえ、
 18歳~19歳の俺達と4歳の真名ちゃん。

 身を隠せる場所で俺たちは少なくとも声を殺して
 じっとしていることができるけど、
 真名ちゃんに同じことは難しい。

 真名ちゃん1人であれば、
 戦闘神官に守られてここに居たほうがいい・・
 とサンドロさんが決断していたらしい。

 ・・とはいえ、状況が変わった。
 現時点で確実に負傷者が1名出ているし、
 サンドロさんとフィリップさんは
 無事が確認できていない。

 そもそも今日は1日、
 戦闘神官達が神殿内で安全と判断した場所に
 ダマリさんの旦那さんである
 ビオンさんと一緒に真名ちゃんは隠れていた。

 それなのに、その安全なはずの場所に
 何者かが・・
 恐らくその何者かは瓦礫の下で
 冷たくなっているあいつだろうけど・・
 その何者かが潜入して、
 ビオンさんと真名ちゃんに襲い掛かり、
 ビオンさんの頭をぶん殴って、
 真名ちゃんを連れ去ったとの事だった。

 因みに、
 ビオンさんは頭を縫う必要はあるものの
 命に別状ないらしい。

 ダマリさんによると、
 エロースがいない間、
 俺達プレイヤーを守る件に関しては、
 サンドロさんが、
 サンドロさんが不在の場合には、
 ダマリさんが最終判断をすることに
 なっているらしい。

 ・・そして、現在、
 サンドロさんと連絡が取れない。

 ダマリさんの判断では
 確実にここで真名ちゃんを守れる戦闘神官が
 ダマリさんともう1人しか居ない状況で、
 真名ちゃんを置いておくよりも
 俺たちと一緒に潜伏場所に居る状態に
 しておきたいらしい。

 ・・そうは言っても・・だ。

「皆さんがこの神殿を出るまで後1時間半。
 絶対に、私が真名を説得しますから・・」

 ダマリさんが念を押す様に言った。

 俺達はこれから、神殿内に入る。
 そして、現在、警備に入っている
 本物の警備員と交代してご神体の警備にあたる。

 神殿の一般公開時間が終わるまで・・
 警備完了後は、ご神体を管理する戦闘神官に
 引き渡し、業務完了。

 雇われ警備員や掃除夫などはエロースの神殿が所有する
 イプタキノで同じく神殿所有の奴隷によって
 自宅まで送迎してもらえることになっている。

 他の警備員や掃除夫達と共に、
 俺達は潜伏場所近くの酒場まで送ってもらうことになる。

「もし、説得が成功しなければ
 諦めますから・・どうかお願いします。」

 ・・戦闘神官を束ねるのがダマリさんなら、
 俺達を今現在束ねているのは青木だ。

 その青木はダマリさんの真剣な顔を見た後、
 俺達に振り返った。

「・・ダマリさんが
 絶対大丈夫と判断する段階まで、
 真名ちゃんを説得してくれるなら、
 俺はOKだけど・・

 皆、同意してくれるか?」
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