上 下
87 / 93
DAY 27.

真名

しおりを挟む
「こっちです。
 壁には触らないでください。」

 先導してくれるダマリさんに付いて、
 青木、和泉、あかり、俺の順で付いて行く。

 暗いけど、照明は
 懐中電灯みたいな小さなランプは
 進行方向を僅かに照らしてるだけ。
 暗くて歩きにくい。

 その進行方向は
 地下牢に来た時とは逆方向だ。

 俺達が入ってきたのは
 神殿で働く神官達用の勝手口近くにある
 神殿地下への出入口。
 この出入口自体は、神殿の外からも見える。

 俺とあかりが"エロース神殿の地下に潜伏した"と
 思わせる為に、外からも見える出入口から、
 俺達はコソコソと地下に入ったわけだ。

 ・・とはいえ、実際はここで潜伏するわけじゃ
 ないから、神殿地下から出る必要がある。

 『入ってきた入口を見張っている奴』がいることを
 俺達は期待していたんだが、
 その『入ってきた入口を見張っている奴』に、
 俺達が出ていくところを見られては困る。

 そんなわけで、神殿内部に出られる別の出入口を使って
 地下から出る・・というのは元々の計画だ。

 ダマリさんが教えてくれたのだけど、
 エロースの神殿には地下への出入口が3か所あるらしい。

 その内、1か所は外からも見える、あからさまな出入口。
 ここ100年は物置としてしか使われてこなかった
 この地下に神官や奴隷が出入りするのには、
 このあからさまな出入口を使っている。

 そして、残り2か所の出入口は
 もう300年も使われていないらしい。

 青木と作戦を練ったエロースに言われて、
 ダマリさんが前もってこの2か所の
 出入口を確認してくれていたらしいが、
 1か所は地下に続く扉が錆びついて使えず・・

 もう1か所は何とか使えるものの・・
 そこに続く通路が一部崩れている。
 その上、その一部崩れた通路上には、
 誤作動する可能性のある罠が複数あるらしい。

 暗くて歩きづらい通路を歩く事10分。

 ダマリさんが立ち止まった。

「ここから階段です。
 気を付けて・・」

 ようやく地上に出るのかと、ホッとした。
 ・・俺も気が抜けていたけど、
 それは俺だけじゃない。

 ヒュン!!!!

「っ!?!?!?!」

「姿勢を低くして!!」

 上から何かが風を切る音がしたかと思ったら、
 飛んできた何かが俺の横を通りぬけていく。

 ヒュン!!!!ヒュンッ!!!!

「怪我はないですか?!」

 ダマリさんの緊張した声が飛ぶ。

「・・・何か・・かすった・・痛い」

 聞こえた声は和泉
 ・・そして・・

 ドサッ!!!
 ゴゴゴゴゴゴ!!!

 背後から何かが倒れた音が響き、
 更に・・

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!
 ままーー!!」

 けたたましい・・

「?・・
 子供の声?」

 暗闇の中、
 呟くようなあかりの声が俺の耳に届いた。

 ・・・

「ダマリさん・・この先は?」

 青木の声が聞こえる。

「・・出入口があるだけで、
 行き止まりです。」

 ダマリさんの声から僅かに焦りが感じ取れる。

「・・・
 様子を見に戻ってください。
 俺達はここでじっとしてますから・・」

 青木の声がして、
 ダマリさんが言葉を詰まらせてる。

「・・大丈夫ですから・・」

 青木が念を押す様にそう言う。

「・・でも、皆さんを
 お守りしなくては・・・」

 ダマリさんが考え込んでる。

「真名ちゃんなら、
 彼女も保護対象でしょ?」

 青木が聞き覚えのある名前を出す。

「行ってください。
 お願いです。」

 なぜかあかりが追撃をかけた。

「分かりました。
 ここで姿勢を低くして、
 じっとしていてください。

 ・・それから、一也さん、
 これを・・水と消毒液です。
 沙羅さんの傷口を洗って消毒してください。」

 ダマリさんは、
 青木に小さなボトルを2つ渡して、
 俺達に指示を出すと、来た道を戻っていった。

 ◇◇◇

 ダマリさんが行ったのを確認すると、
 青木があかりに言った。

「ダマリさん説得するの
 協力してくれてありがと。
 田口。」

「いいえ、当たり前ですから・・。

 和泉さん。
 足の怪我ですから、
 ケガの手当ては私がしますね。」

 あかりは、気にした様子もなく、
 そう言って、ズボンを捲り上げた
 和泉の足に水をかけた。

「・・・話が見えないんだけど・・
 真名ちゃんって、誰だっけ?」

 聞いた様な名前だ。
 俺に青木が呆れた様な声をあげた。

「忘れたのか?
 前に鈴木孝太郎さんについて、
 調査した結果を話した時に、
 サービスで話したろ?

 鈴木真名ちゃん。
 
 ・・・

 鈴木孝太郎さんと、
 鈴木和香子さんの娘。

 今は、エロースの神殿に仕える神官の
 ビオンさんとその奥さんが預かってる。

 ・・ビオンさんの奥さんはダマリさんだろ?」

「あ!」

 ようやく、思い出した。
 青木から見せられた写真に写ってた幼女だ。

 エロースの奴、
 鈴木孝太郎プレイヤーの幼い娘まで
 巻き込んでこっちに連れてきたんだった。
 ・・理由は聞いても答えなかったけど・・

 青木に聞いたその話を、あかりに伝えた俺が、
 すっかり忘れていた。

「でも、あの叫び声が
 真名ちゃんだって・・・
 なんで判ったんだ?」

 俺が聞くと、青木とあかりは顔を見合わせた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

学生魔法師と秘密のキス

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

オレオレ御曹司

BL / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:448

始まりは偽装デキ婚から【R18】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:361

二度と好きにはなりません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:328

俺のスキルは頭文字C

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:24

婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:101

牛人転生:オッパイもむだけのレベル上げです。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:442

命の記憶

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

処理中です...