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DAY 27.

いい加減でも神なんです

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「悪いけど・・
 ここから潜伏場所に着くまでだけで良いから、
 何があっても俺の指示に従ってくれ。」

 青木が申し訳ないけど・・というように
 俺に耳打ちした。

「・・・」

 俺はどうにもそれどこじゃなくて・・
 人形達のキスシーンに見入っていた。

 青木は気になんないらしい。
 俺でないけど俺の顔をした人形が
 チュッチュしているのを迷惑そうな顔で
 受け止めてる・・
 こちらは、ちょっとシリコン風味のあかりの顔。

「聞けって・・」

 自分でこの光景を作っておきながら、
 青木が頬を掻いて目を逸らす。

 人形のくせに無茶苦茶愉しそうな俺の顔した人形を
 元の顔とは似ても似つかない、
 彫の深い中年顔に化けた俺が睨みつけてて、
 そんな俺の耳を青木が引っ張る。

 厚底靴でお互いいつもより身長が高くなった。
 身長差は縮められた。
 それでも青木の身長は普段より10センチ近く低い。

 そんなわけで青木は
 俺の耳を引っ張って自分の口の高さまで
 もってきて青木が囁いた。

「多分、フィリップさんが向こうの手に落ちた。」

(は?!)

 驚きの声は、青木に抑えられて
 口からは漏れなかった。

「フィリップさんの人形があそこにある。
 ・・お前達の人形は旧式・・
 あれは新型・・とはいえ、
 コピーにはお前達をスキャンしただろ?
 新型だって、
 原理が全然違うってことはないと思う。

 多分似た様にコピー元の人間を
 スキャンする必要があると思う。」

 俺は楽しそうにキスしている
 俺の人形を見る。

 俺を全裸にしてスキャンして、
 電極も繋いで・・15分かかった。

 俺達はダマリさんに素直に従って、
 言われるがままにじっとしたり、
 ポージングしたりした上で・・だ。

 ダマリさんに襲いかかる
 フィリップさんの人形を作るのに、
 フィリップさんが全面協力するとしたら、
 フィリップさんが抵抗できない状態でひん剥かれたか、
 またはフィリップさんが元々裏切ってたか・・・

 フィリップさんが裏切った可能性は
 低いけど、可能性を排除するな・・
 と青木は言った。

 今朝別れたフィリップさんはイイ人で、
 裏切ってたとは思いたくはない。


「俺も昨日、フィリップさんをイイ人だと思った。
 でも、だからって・・
 裏切られるかもしれない可能性を排除するなよ?

 万が一、俺達がコケた時に
 俺達もそうだけど、
 田口と和泉も危なくなる。

 万が一の時に被害を受けるのは
 自分1人で収まらないコトを
 よくよく覚えとけ?」

「フィリップさんが裏切ってたんじゃなく、
 俺達をかくまってたせいで捕まったんならどうする?
 助けらんないの?」

 俺が聞くと、青木が目を彷徨わせた。

「できない事をしようとするなよ。
 そもそも、俺達・・・というよりも、
 お前と田口は協力者として、
 おとりになってるだけで、
 過激な半エロース派が
 アフロディーテの神殿に居たのは
 俺達がこの世界に来るよりも
 ずっと前からだ。

 過激な半エロース派の尻尾を掴むのは、
 エロースサマとエロースの神官が、
 そもそもしたいと思っていたコトで、
 そんな中、エロースサマの道楽で、
 ここに来たお前達が
 アフロディーテの神殿の連中には
 利用価値があって食いついた。

 折角だから、
 囮として利用したらどうかと
 提案したのは俺だけど、
 エロースサマを含めて、
 それをありがたく使いたいと言って、
 餌だけ取られては堪らないからと、
 最大限俺達4人を守るコトを決めたのは、
 この神殿の神官達だ。」

 青木は、そこまで言ってふぅ・・と
 ため息を吐いた。

「・・といっても、
 心配し過ぎる必要はないけどな・・。
 基本的にこの神殿は大丈夫だ。」

 全然大丈夫と思えない俺は
 青木を怪訝な目で見る。

「あんなんでもエロースサマは神だ。

 しかも、実際に降臨して、
 自分に仕える神官達と話をする・・
 この世界に実在する神だ。

 そして、万能ではないけど、
 恋愛に関しては人智を超えたことができる。」

「・・??」

 俺がよく分からなくて聞くと、
 青木は応えた。

「俺達のゲームで和泉が借り受けてる
 弓矢・・あれ、本物のキューピッドの弓矢だ。」

「キューピッド?
 あいつってエロースだろ?」

 俺は首を傾げた。
 良く知ってるわけじゃないけど・・
 キューピッドはまぁ知ってる。

 ・・確か子供で天使で・・
 キューピッドの弓矢で射られた
 二人は両想い~♡・・的な?・・

「あのエロースは
 キューピッドと同一視されてる・・

 クリスタによると・・
 同じと思ってくれて良いらしい。
 あの弓矢はキューピッドの弓矢。

 あれで射られたら
 どんな奴でも盲目的な恋に堕ちる。」

「・・・それで??」

 俺は首を傾げた。
 だから何?・・だ。
 会った瞬間から、俺の中でエロースは名前通り
 エロ神だ。

「逆の弓矢もある。
 鉛の矢は100年の恋も冷める拒絶の矢。

 和泉が借りてるのは
 金の矢・・恋に堕ちる矢。

 ・・やろうと思えば、
 エロースサマは世界中の人間同士を
 拒絶し合う関係にして
 人間を滅ぼすこともできる神様だ。」

「・・うん??」

 まだ話が読めない。
 俺に青木は小声で話を続けた。

「エロースサマは人間の心・・というか・・
 神様の心でさえ操作できる。

 ・・力のないエロ神じゃない。

 むしろ、力の強い神様だ。
 しかも、降臨していて、
 自分の神殿の神官と
 コミュニケーションを取る神様だ。」

「・・・」

 イタズラ大好きなエロ神の
 ニヤニヤした笑顔を思い出して、
 俺は頬を掻いた。

 短い付き合いだけど、
 多分、あいつは人間を滅ぼしたりはしないだろう。

 人を揶揄からかって遊ぶけど、
 人間に対して恨みも辛みもない。

 あいつの動機は大概、"面白そう"・・だ。
 やっても面白くない事はしないだろう。

「何となく、
 お前の考えてることもわかるけど・・

 そんな力のある神様の神殿に
 在籍している神官は・・
 言いようによっては、
 その神様の所有物だ。

 フィリップさんが裏切者でなければ、
 エロースサマの所有物に危害を与える奴を、
 エロースサマが放置しておくか?」

 青木が言うのはつまり・・
 人間を滅びるほどの力を持つエロースサマは
 特に人間を滅ぼしたりしないけど、

 自分の家来を苛めた奴を苛め返す事はするだろう。
 ・・その時は人類を滅ぼす事ができるほどの力を
 発揮しちゃったりするかもしれない・・
 ってコトだろう。

 青木が俺を見た。

 ・・なんとなく言いたいことは分かったけど、
 それなら疑問もある。

 俺は素直に疑問を口にした。

「・・そんな力あるエロースサマに楯突たてつ
 過激な反エロース派がいるって?

 それに・・・

 仮にエロースがそんな力のある
 降臨している神様なら・・
 この神殿も、
 アフロディーテの神殿以上に
 千客万来なんじゃねぇの?」

 別に俺はエロースを殊更ことさら嫌ってるとかじゃない。

 神様だと思うのは難しいが、
 エロい男友達としては、憎めない奴だ。

 憎めない奴だが、
 面倒くさい奴だから、
 関わるのはほどほどにしておきたいだけだ。

 何はともあれ、数日前に行った
 アフロディーテの神殿に比べて、
 エロースの神殿は大きさも小さいし、
 参拝客もまばらだ。

 ・・エロースのキャラクターはともかく、
 マジで神様がいて、
 願いを叶えてもらえるかも・・な場所なら、
 俺は行くと思う。

 でも、前に来た時も、
 今日この神殿の前を通った時も、
 参拝客はあんまりいない。

 俺がそう言うと、
 青木は何のことなしに答えた。

「降臨中のエロースサマに、会えるのは
 ここの神官と
 俺達ゲームプレイヤーだけだからな・・

 お前は・・そうだな・・
 どっか、寂れた神社の宮司さんが、
 うちの神社には神が時々降り立って、
 世間話していきます。
 神は超ゲーマーです・・って
 言ったとして、ありがたいからって、
 そこに通って願掛けするか?」

「ないな」

 寧ろ、そんなことを言う宮司さんがいる
 神社は避けて通るだろう。

 俺が即答すると青木が苦笑いした。

「エロースサマが、
 もう少し、いかにも・・な
 ってて、
 他の神殿の神官とか民衆の前にも
 100年に1回でもイイから降臨してたら、
 反エロース派なんてのも出なかったかもなぁ・・」

 取り敢えず、
 「何でお前は嘘でもいいから偉大なる神様を
  っておかないんだ?
  だから面倒くさい事になるんだ・・」

 ・・・と問い詰めるのは
 次にエロースに会った時にするとして・・

 和泉の準備が終わったようだ。
 俺達は地下牢を出た。
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