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DAY 26.

見せたくない素顔

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 田口あかり side.

「・・絶対にスッピン、見られたくないの・・
 協力して・・」

 和泉いずみさんが
 私に頼んだのは荷物持ちだった。

 2人分の変装道具は結構な大荷物だ。

 シャワー室に着替えを持ち込んで入った
 和泉さんは暑いのにフードを被って、
 サングラスをして、
 スカーフで口元を隠して出てきた。

 ・・・控えめに言って不審者の恰好だ。
 実際にこんな不審者は見たことないけど、
 不審者注意のポスターに登場する
 不審者はこんな格好をしている。


「「・・・」」

 先に帰された大橋君と青木君がいない
 シャワー室の前で
 私とサンドロさんは顔を見合わせた。

 分からないけど、
 和泉さんはオシャレさんだから、
 お化粧しない顔が照れ臭いのかもしれない。

「い・・行きましょう。」

 私が言うと、
 オロオロしていたサンドロさんが頷いた。

 ・・・

「・・・」

 一番奥の簡易ベッドに黙ったまま、
 横になった和泉さんに道哉君が
 私の顔をオロオロと見た。

「寝ましょう!道哉君。」

「寝ろ!大橋。」

 私が和泉さんの横のベッドに横になると
 青木君が援護射撃の様に言って、
 更にドアの前に立っていたフィリップさんが、
 部屋のあかりを落としてくれた。

「い・・和泉さん、
 もう暗くなってますから、
 サングラスは
 外した方が良いですよ。

 ・・壊れちゃいますし・・」

「・・うん。
 ありがと。田口」

 一番奥のベッドで壁側を見て横向きに寝る
 和泉さんは特に何もしていないのに、
 私にお礼を言ってくれた。

 昨日、あまり寝ていないのもあって、
 横になるとウトウトしてきたけれど、
 和泉さんは私にだけ聞こえるような
 小さな声で話を続けた。

「・・私、自分のスッピン、
 好きじゃないから・・
 協力してくれんの・・助かる。」

「・・いえ、大した協力はしてないですよ。
 荷物持つくらいなら・・?」

 和泉さんが話してくれるので和泉さん側を見て
 横向きに眠る私を後ろから道哉君が抱き締める。

 ゴソゴソと服の中に入ってきそうな
 道哉君の手を握って、押しとどめた。

 2人きりの寝室ならともかく・・
 今夜は初対面の人も含めて皆がいる部屋で
 過ごすんだから・・
 断固流されるわけにはいかない。

 慌てて、道哉君の方を振り返ると・・
 びっくりな事に・・

(寝てる・・?)

 寝息まで立ててる。

 仕方がないから、
 道哉君の事は置いておいてヒソヒソと話す
 和泉さんの声に集中する。

「・・誰かと泊りってマジ最低」

 和泉さんは友達もすごく多いから、
 友達と旅行とか・・
 そんな事も楽しくしてそうなのに・・

 美人で人気者の和泉さんから、
 口から出た意外な言葉につい、
 言ってしまう。

「・・でも、高校時代は
 メイクしてなかったじゃないですか・・
 それでも和泉さんは十分、美人さんで・・」

 正直な感想だ。
 私の記憶にある和泉さんのスッピン・・

 黒いツヤツヤした長い髪を凝った髪型に
 結いあげて・・
 白くてふんわりした肌。
 きりっとした形のいい眉毛。
 二重のぱっちり大きな目と大きな黒目。
 ツヤツヤの唇・・

「・・メイクしてた・・」

「え?」

「毎朝、メイクしてた・・高校時代。
 1日もかかさずに・・」

 ・・びっくりした。
 メイクしている風には見えなかった。
 ただただ、美少女だと思っていた。

「すごいですね・・
 お化粧・・上手です。」

 お世辞無しで本気でそう思う。
 時々、校則チェックがあって
 お化粧チェックもされてたのに・・

 クラスは違うけど・・
 和泉さんは、校則違反していたイメージがない。

「・・努力したもん。上手にもなるよ・・」

「・・・」

 和泉さんの声がなんとなく怒っているような気もする。
 図りかねて、黙っていると
 和泉さんは小さくため息を吐いた。

「・・私がモテたのは努力の結果だもん・・。
 だから・・ゴメン」

「??」

 和泉さんは唐突に謝って・・
 謝罪の理由がさっぱり分からない私との間で
 沈黙が流れた。

 ひくっと和泉さんの背中が震えた気がしたけど、
 そのまま欠伸あくびをした。

「・・もう寝る。
 おやすみ・・田口。」

「・・・おやすみなさい。」

 今朝、和泉さんに言ってしまった
 無神経な言葉を思い返して、
 これ以上、余計な事を言わない様にと、
 口を閉じた。

 夜が更けていく。

 ウトウトしていると再び服の中への
 侵入を試みる道哉君の手を押さえて、
 私はもう一度、振り返る。

(やっぱり寝てる。)

 道哉君越しに見えるテーブルでは、
 青木君がサンドロさんと話し込んでる。

 青木君に相談するのは無理そうだ。

 これは・・寝てはいけないと
 いうことかも・・
 私は、重たくなってくる瞼を抑えた。
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