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DAY 23.

女神不在の神殿 2

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「危機一髪??
 殺し屋がいた訳じゃあるまいし・・」

 いたのは変な女だけだ。

 俺があははと笑うと、あかりも笑った。

『あかりさん、
 ご気分が悪かったり・・
 ということはありませんか?』

 トニが申し訳なさそうに、
 あかりに言った。

「・・えっと・・
 お腹が空いてるだけで・・
 それ以外は問題ないですけど・・」

 あかりが不思議そうに答えた。

「「??」」

『お2人は神殿の個室にいた時に、
 気分が異常にたかぶったりは
 しませんでしたか?』

 トニの言葉にあかりが真っ赤になる。

 うん。
 あかりがいつもより素早く深く
 エロくなった気はする。

「すごいなとは思ってたんだよなぁ・・
 催淫さいいん効果?」

 俺がそんな事を言っていると、
 お姉さんが卵料理を持ってきてくれた。

 トマトリゾットみたいに見えるけど、
 リゾットではなく、
 トマトとチーズと卵を煮立てた料理だ。

「とりあえず、食わない?
 冷めるよ?
 ・・話は食いながら聞こうよ。」

 俺が言うとあかりが嬉しそうにうなずいて、
 トニは『どうぞ』・・と言った。

「「頂きます」」

 スプーンを口に持っていった
 あかりがにっこり笑った。

「美味しいです♡」

 あかりは嬉しそうに言って、
 トニの水槽にもエサを浮かべた。

 ある程度食べると、
 腹が落ち着いたらしく、
 あかりのスプーンを運ぶ手の速度が落ちてきた。

『アフロディーテ様の神殿の個室に入る
 人間に対して本人に許可なく
 催眠術が使われていると、
 エロース様に情報提供があったようです。』

「催眠術?
 催淫さいいん効果のある香を焚いてるから
 注意しろ・・みたいに言ってたじゃん?
 お香の効果じゃないん?」

 トニが言っていたお香が効果抜群だと思ってた。
 それであかりがたかぶってるのかと・・

『香の催淫さいいん効果など
 たかが知れています。

 まぁ、人間によって効果のほどに
 差はありますが・・
 今日のあかりさんの様に分かりやすく、
 効果が出ることは
 考えにくいです。』

「・・・でも、俺達、催眠術なんて・・」

 俺が言うと、あかりも首を傾げた。

「部屋に入るまでは
 何ともなかったんですよ?

 部屋に入ってから、
 あの女の人が入ってくるまでは
 3人(?)だけだったし・・」

『個室料金受付を務めた神官が
 催眠術をかけていて・・

 部屋に置かれたランプの
 炎の揺らめきを合図に発動して、
 異常な性欲が沸くそうです。』

「・・・あ・・」

 そういや、部屋に入ってあかりは暫く、
 食い入る様にランプを見つめていた。

「・・・??
 どういうこと?
 いや、仮に性欲が沸く催眠術を
 かけられたてたとして・・

 誰得だれとくなん?」

 俺が疑問を口にする。

 いや・・俺得おれとくかも知らんが・・
 俺得おれとくなだけなら、別にいいし・・

『アフロディーテの神殿の拝殿をする
 人間がここ数年、増加していて、
 多くが、リピーターだそうです。』

「「んーー・・」」

 俺とあかりは顔を見合わせた。

「別にイイんじゃ??
 ・・利用者はイイ思いができて、
 神殿も拝観料が入る。

 win-winだろ?」

 俺が言うと、
 トニが水槽の中で身体を左右に振った。

『お2人の世界では、
 どうだか知りませんが、
 同意を得ずに催眠術をかけるのは、
 法律違反です!!』

「わ・・私たちの世界でも、
 同意を得ずに催眠術をかけたら
 ダメですよ・・

 でも、あの部屋に入る人達は、
 その・・一緒に入った人と
 えっちなコトをすることまでは、
 了承済みですよね?
 
 確かに・・その・・
 度合いは激しくなるかもしれないですが、
 本人達に大きな不利益にならないのでは・・?」

 ぷんぷん怒るトニにあかりが聞くと、
 トニが答えた。

『大問題が2つあります。

 1つ目は純粋な信仰でなく、
 快楽目的の人間が
 神殿に通い詰めていること。』

「・・違法な客寄せ的な??」

 俺が言うと、トニが同意した。

『そうです。

 更には異常な快楽を
 肉欲の女神アフロディーテ様の
 ご加護として流布るふしているということ。

 女神様を冒涜する行為です。』

「・・そりゃ、ダメかもしんないけど・・」

 そんな事で血相変えて、
 俺にお預け食らわせる意味がわからない。

 俺がそう言う前にトニが話し始めた。

『2つ目は
 神殿に通い詰めていた人間の中に
 過激なアフロディーテ様の
 信仰者になる者が何人も出ている事。』

「過激って・・?
 青木君が言っていた
 反エロース派の神官の人達ですか?」

『正確には反エロース派を含む神官に
 味方する信仰者になって、
 事件を起こすなどしています。

 彼等は神官ではありませんから、
 彼等が事件を起こしても、
 アフロディーテ様の神殿関係者が
 起こした事件にならなかったようです。』

「事件って・・?」

『・・まだ、エロース様が調査中なので
 細かい事はいえないのですが・・

 脅迫や暴行、拉致など・・』

 トニの深刻そうな声が頭に響いた。

「えっちになる催眠術で、
 神殿に通わせて、
 弱味でも握ってるってこと?」

 俺が確認するとトニが答えた。

『まだ調査中ですが、
 神殿に来る度に言いなりになる様に
 洗脳をかけていっているらしいです。』

「神殿に行くだけで洗脳されるなら
 私達も洗脳されていたんでしょうか?」

 あかりがゾッとしたように言うと、
 トニが冷静に応じた。

『お2人には催眠はかけたようですが、
 洗脳に関しては問題ないと思います。

 調査している者によると、
 何度も通って
 少しずつ洗脳しているようなので・・

 1度や2度ではあまり心配しなくても
 良いそうです。』

「じゃあ、問題ないじゃん?」

 俺が聞くとトニがぱぁっと
 青い尾びれを広げた。

「いえ、身柄を確保済みですが・・

 隣の部屋に拘束具を持った男が
 待機していた様です。」

 水が入った木のカップを持つ
 あかりの手が震える。

 俺はその手を握った。

「その男は?」

 俺が聞くと、トニが答えた。

『エロース様の神殿に
 こっそりと連れていったそうです。

 洗脳を解いて、事情を聞き出すと
 エロース様がおっしゃっていました。』

「「・・・」」

 なんとも物騒な話だ。

 それにしても・・・

「神様なんだから、
 ンな面倒なことしなくても、
 神通力とかで・・・
 ぱぱっとなんとかできないもんなの?」

『神といっても、
 エロース様はそういう神様ではありません。

 そういった事に向いている
 予言の神であるアポロン様とも、
 現在喧嘩中でして・・』

「も・・もしかして、
 ダプネさんの件ですか?」

 怯えていたはずの
 あかりがそっと身を乗り出した。

『よくご存知で・・
 ですが、その件については
 1000年ほど前に和解されまして・・

 今は300年ほど前に
 ピューティアの音楽祭で
 エロース様が公開した
 チップチェーンの音楽を
 アポロン様がバカにした件で
 喧嘩中です・・』

「チップチェーン??」

 あかりにはわからない単語なようだ。
 俺も前に動画で聞かなかったら
 知らなかった単語だ。

「古いゲームとかで
 ピコピコ音の音楽聞いた事ない?

 ああいうやつ・・」

 音楽祭がどんなもんかは知らないけど、
 まぁ、音楽祭で出す様な
 音楽じゃないだろう。

 あかりは苦笑する。

「子供の喧嘩レベルじゃん?
 謝って協力してもらえば・・・」

 言いかけた俺に
 トニが短い前ビレをぱたぱたさせた。

『いえいえ・・無理ですよ。
 エロース様は
 今でもアポロン様のお名前を出すと、
 仕返しの話をされるくらいですから・・』

「「・・・」」

 長い事生きてても、
 成長する気がないらしい。

 多少空気が和んだとこで、
 店のお姉さんがやって来た。

「ほい。サービスだよ。
 デザートだ。」

 小さなスプーンに乗った
 一口サイズのゼリーみたいなものを
 俺たちの前に一皿ずつ置いた。

 口に入れるとほんのり甘い。

『とりあえず、
 エロース様にお会いしても、
 アポロン様のお話はしないように
 お願いします。』

 聞こえないはずの
 トニのため息の音が聞こえた気がした。
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