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DAY 23.

女神不在の神殿

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「神殿の内輪揉め??」

 あかりが首を傾げた。

「アフロディーテの神殿の神官達に
 幾つか派閥があるらしい。」

「派閥ですか・・まぁ、
 あれだけ人がいれば・・それ位は・・」

 ラブホみたいな施設が併設されてても、
 一応、神聖な場所・・
 神聖な場所に、人間同士の小競り合い・・
 夢が壊される話ではある。

「まぁ、仲良しグループってレベルなら
 イイけど・・
 割と過激な派閥もあるらしくて・・」

「過激派・・・」

 もといた世界でも宗教絡みで
 聞いた事がある単語が出てきた。

「・・過激派は置いといて・・
 エロースサマも、
 アフロディーテサマも愛の神・・

 アフロディーテサマの神殿には
 エロースサマを大事にする神官もいる。

 ・・親エロース派だ。」

「まぁ、親子の神様ですし・・
 アフロディーテ様の神官なら
 エロース様も尊敬しそうですね。」

 青木の言葉にあかりが頷いた。

「・・で、それに反発する神官もいる。
 ・・それが反エロース派・・

 エロースサマも神様だから、
 表立っては批判しないけど、
 裏では結構、事件も起こってるらしい。」

「そんな、何も派閥組んで
 嫌わなくても・・
 エロース様、いいひとなのに・・」

 あかりはこんなゲームに巻き込まれて
 なぜ、エロースの肩を持つのか・・
 ちょっとよくわからない。

 そこまで言って・・
 あかりは、気がついた様に言う。

「ん?・・でも、
 アフロディーテ様は
 エロース様のお母さんですよね?

 アフロディーテ様が間に
 立ってくれないんですか?」

 あかりが不思議そうに首を捻る。

「アフロディーテサマは、
 人間の前にひょいひょい
 降臨したりしないよ。

 神官達の前に女神様が降臨して
 『息子をいじめないでね』・・
 とか言うわけじゃないからね。

 地上に降臨しない女神様の代弁者たる
 神官が何人もいれば、
 女神様の考えは十人十色に作りだされて
 喧嘩にもなるんだよ。」

 そりゃそうだろう。

 あんな酒飲み屋にお忍びで降臨する
 エロースが異常で・・
 神様は普通、天の上におわすもんだ。

「・・そんな訳で、
 アフロディーテサマの神殿には、
 親エロース派とか、
 反エロース派とか・・
 まぁ色々といるんだけど・・

 最近はこの対立が激しくなってて
 ちょっとした事件も起こってるらしい。」

「・・過激なエロース派が
 俺達にも何かしてくるってコト?」

 俺が口を挟むと、
 青木が冷静に言った。

「何かしてきた・・かもしれない。
 正確には、
 プレイヤーの1人が何者かに襲われた。」

「「・・・」」

 一瞬、俺の頭を迫力赤毛美女の
 ミーミルさんが横切った。

 いや、ミーミルさんは、あくまでも
 あかりの卵子を欲しがっただけだったけど。

「よく分からないけど、
 エロースサマが
 アフロディーテの神殿内に探りを
 入れてるらしくて、

 プレイヤーが襲われた件の
 犯人の目星がついてるらしい。」

「じゃあ、そいつをとっ捕まえれば・・」

 俺が言いかけると、青木が言葉を遮った。

「知らん。

 今日、取り急いで連絡を頼まれたのは、
 お前達が神殿に居て、
 危ないのに連絡が付かないから、
 俺から連絡を入れてくれってコトだ。」

「青木も詳細知らんの?」

 俺が聞くと、青木は冷静に答えた。

「知らない。
 今はとにかく、身の安全の確保。

 神殿に近づかず、
 単独行動は避ける様に言われた。
 後日、話せる範囲でエロースサマから
 話があるらしい。」

 そこまで言って青木の声がくぐもった。
 誰かと話しているらしい。

「あとはトニに聞いて・・
 今、俺の方も和泉いずみ
 合流しようとしているとこだから・・」

「合流?
 青木君と和泉いずみさんの
 ゲームは追いかけっこですよね?」

 あかりが心配そうに尋ねると、
 青木は落ち着かせる様に優しい声で答えた。

「俺たちのゲームは一時停戦だから、
 安心して?

 それより田口は、
 大橋を、甘やかさないで、
 しっかりボディガードさせといて?」

「えーっと・・はい。
 大橋君にお願いしておきます。」

 あかりが困った様に応じる。

 女の子に優しい青木が
 優しかったのは、ここまでだった。

「大橋、飢えた獣じゃねーんだから、
 トニの話をちゃんと聞いて動けよ?

 あと、お前、田口が絡むと
 マジ気持ち悪いその執着は気をつけろ?」

 青木は怒ってる時、
 温度が感じられない穏やかな声を出す。
 長年の付き合いで分かる。

 ・・めっちゃ苛立ってる。

「お・・おぅ・・」

「マジで、話、聞けよ?

 それじゃ、一旦切るよ。
 クリスタが和泉から連絡があったって
 言ってるから。」

 青木は、そう言って通話を切った。

「・・・はーい・・・」

『・・というわけで、道哉さん、
 話を聞いてくださいね?』

 トニがようやっと話し出せると思ったのか
 俺に念を押した。

 さて・・と
 トニが話し始めようとしたところで、
 きゅるるる・・・とあかりの腹が鳴った。

「ごめんなさい。」

 あかりは謝るけど・・無理はない。

 今日は朝飯が早かったし、
 色々とイロイロで、そりゃもうイロイロで
 時刻は正午を大きく過ぎて、
 おやつの時間だ。

「話は飯を食べながらでも?」

 俺が言うと・・

『分かりました。
 お店は私が指示した場所にしてください』

 人間の食い物を食べない癖に
 トニはへーニーの行き先変更を入力した。
 
 ◇◇◇

 トニが連れてきたのは、
 エロースの神殿からほど近い
 卵料理の店だった。

 この世界のギリシャでも1日3食。
 朝昼は軽い食事が一般的・・
 昼時を過ぎた店は空いていて、
 トニに言われて店の奥の席を頼むと、
 店主のお姉さんが
 どうぞどうぞと通してくれた。

 この店のメニューは文字しか載っておらず
 知らない料理名が並んでいる。

 俺とあかりには
 さっぱり分からないし、
 俺達を連れてきたトニにも
 さっぱり分からないという事で、
 店のお姉さんに予算を伝えて、
 おまかせで頼んだ。

 注文を受けたお姉さんが
 キッチンに引っ込むと、
 テーブルの上に置かれた水槽で
 トニが話し始めた。

『まずは、
 この様な事になっているとは知らずに、
 アフロディーテ様の神殿を
 お勧めしてしまって申し訳ございません。』

「大丈夫ですよ。
 危なくなる前に
 避難させてくださってたんですよね?

 むしろお礼しないと・・」

 謝るトニにあかりは不思議そうに言った。

『いえいえ、本当に間一髪だったんです。』

 トニが謝るけど、
 俺とあかりにはピンとこない。

 俺たちは顔を見合わせた。
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