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DAY 15.

同時進行中のゲーム

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 ・・子供か?・・・いや、大人か?

 大柄な人が多いこの国では、
 俺も小柄な方だけど、「どいてくれ!」
 と言った奴は、俺より更に小柄で・・

 声変わりした若い男だ。

 帽子を深く被って、サングラスにヒゲ・・
 怪しいけど、大人なんだろう。

 そいつは、俺をすり抜けて、
 通りを走っていく。

 足は・・遅い方だろう。

 ダダダッ!!!・・バンッ!!!

「道哉君!!」

 強い衝撃・・あかりが駆け寄ってくる。
 何かが背中からぶつかってきて、
 俺は道に顔面を強打した。

「もう!!なんなのよ!!あんた!!
 逃げられ・・!!!」

 キンキンいう女の声。

 俺に掴み掛かってきた女は、
 俺の顔を見てフリーズした。

「・・・みち・・や・・・」

 全体的に細い身体に、
 溢れそうなくらいに大きな目と、
 カラコン装備の薄い紫色の瞳。

 スワンベルトではないけど、
 なんかのベルトを付けている。

 女は俺の知っている・・日本人だった。

「・・なんで、あんたがココに・・」

「・・・えーと・・」

「い・・和泉いずみさん?!」

 あかりが驚いた声を上げた。

「・・・田口・・・」

 あかりを見た女は俯いて呟いた。

「何してんだよ?!こんなトコで?!」

 俺の質問を無視して、
 女はあかりが持っているのと同じ
 携帯用水槽にけたたましく問いかける。

「どういう事なのよ?!デニス!」

 ・・・

「え?!はぁ~~~?!」

 ・・・

 多分、水槽の中の魚と会話しているんだろう。

 念話は話している魚が特定した相手にしか
 聞こえないから、独り言みたいに聞こえる。

 俺は俺でトニに聞く事にした。

「トニ、あいつもゲームプレイヤーなわけ?」

『申し訳ないです。
 相手の許可がなければ、
 私からはお答えできないです。』

「・・・」

 多分、女も同じ回答を魚から受けたんだろう。
 俺を睨んでる。

「なんでここに居るのよ?!」

 あかりを見ると、『分かりました』というように
 コクンと頷いた。

「お互いに事情を話すなら、答える。」

 俺の回答に女はあからさまにイライラしている。

「その前に!あんた、私の事をなんで
 名前で呼ばないのよ?」

「・・あー・・えーと・・」

「み・・道哉君?」

 あかりもジト目で俺を見る。

「・・・元カノの名前、あんた忘れたでしょ?」

 ・・・そう。こいつは高校1年の時に、
 何日か付き合った彼女だ。

 あかりも、俺達が付き合ってたことは覚えてるらしい。

「・・・あー・・いや・・・リカ?」

沙羅サラ!・・和泉いずみ 沙羅サラ!!」

 ・・・和泉 沙羅はブチ切れたようで
 声を荒げた。

 ◇◇◇

「はぁ??ゲームシステム全然違うじゃん?」

 和泉は素っ頓狂な声を上げた。

 和泉は現在、片思い中の相手と
 両思いになりたくて、『エロース』を
 プレイ中らしい。

 ・・相手の名前は教えてくれなかった。

 驚いたのはゲームシステムだ。

 俺達の『エロース』はエロい恋愛ゲーム
 ・・という感じだが、

 和泉がプレイ中の『エロース』はまるでサバゲーだ。

「この弓矢はエロースの神器なの。
 この矢を好きな人に当てて、
 同じ矢を私に刺せば必ず両思いになるって・・」

 つまり、前を走って逃げてたのは、
 和泉が片思いしている相手の男なんだろう。

「私、弓なんか使えないし、
 この矢を直接刺すつもりで追いかけてたの。」

(・・・可哀想に・・)

 俺は、相手の男に心から同情した。

 何にしても、逃げてたって事は、
 両思いになるというこの矢で
 刺されたくないんだろう。

「そんな矢で両思いとか、
 お前はそれでいいわけ?」

「良いとか悪いとかないじゃん!
 こんな別世界に送られるとか
 思わなかったんだから!!」

 和泉も俺と同じで警告を読まない
 タイプらしい。

「それにしたって、
 お前の場合は、片思いなんだから
 このゲームで相手の気持ちを
 好きにしようとか思わないんだったら、
 ゲームオーバーでいいじゃん?」

 このゲームのペナルティは
 『現在持っている愛(エロース)を全て失う』
 ・・・だった。

 片思いの和泉には失う愛がないはずだ。

「私に向けられた他の男の片思いも
 全部なくなるんだよ?
 ・・そんなの嫌!」

「なんだよ・・それ・・
 クソわがままだな・・」

「上から目線!
 アンタだって、ストーカーみたいな
 やり方して、田口と付き合ったんじゃん!」

「別に追い回したりしてねぇから!」

「あ・・あの・・お2人とも・・
 お茶をどうぞ・・」

 喧嘩になりそうな俺達に
 どこで買ってきたのかお茶を差し出した。

 和泉はあかりを見てはぁーーっと溜息を吐いた。

「・・で、あんた達はどうせ、
 私の味方はしてくんないんでしょ?」

 俺は頭をぽりぽり掻いた。

「普通の告白の手伝いとかなら
 付き合ってもいい。

 でも、その弓矢を使うんなら、
 味方になるとかあり得ないから・・。」

 どのみち、期待はしていないらしいが、
 和泉はあかりを見た。

「・・・わ・・私も道哉君と・・同じです。
 で・・でも、その・・その弓矢を
 使う件、以外なら・・
 お手伝いするかも・・しれません。
 困ったら・・言って・・ください。」

 人見知りのあかりは
 かなり親しくならないと
 相手の目を見て言うとかはできない。

 もじもじしながら言うあかりを
 和泉は黙って見ていた。

「・・あーー!もう・・どうでも良いわ。
 私、もう行くから!」
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