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DAY 1.
7月の新生活準備
しおりを挟む「ここで大丈夫か?トニ?」
新居になったアパートのリビングで
俺と田口はトニの水槽を
あまり日が当たらない一角に置く。
『ああ、この辺が良いですね』
満足そうなトニの声に俺と田口は
顔を見合わせた。
最初は退屈だろうし、
窓際が良いだろうか?と提案したのだが、
本人が言うには『暑過ぎる』との事で
僅かに陽の光が入る場所に
置いてあった古い棚をずらして
水槽設置用の少し頑丈な台を置き、
その上に水槽を設置した。
定住場所が決まったところで、
田口がポシェット型の小さな水槽を取り出すと
トニはジャンプしてその小さな水槽に入る。
トニが入った事を確認して
田口は水槽に蓋をした。
キプロス島西側パフォスの街の郊外。
俺達はそこにある小さなアパートの
3階に2人で暮らす事にした。
2人それぞれ別々に暮らす事もできたんだけど、
その場合は来月以降に発生する家賃が
2人合わせると5割増ほどになる。
加えてトニが・・
『共同プレイヤーならば一緒に暮らした方が
ゲーム進行上有利ですよ。』
・・と後押しをしてくれた。
そんな訳で俺は
人生初の同棲生活に浮き足立って
新生活の準備をしているわけだ。
・・といっても
前の住人が置いていった家具付きの物件で、
その準備はかなり軽減された。
前の住人は夫婦と子供1人で
ここに住んでいたらしく、
大小2つの寝室があって
大きい方にはダブルベッド、
小さい方にはシングルベッドと
簡素な机が置いてある。
田口が珍しく俺におねだりをして、
小さい方の寝室を田口の部屋にする事になった。
俺たちから見て少し物珍しいのは
洗濯部屋という洗濯専用のスペースがある事。
料理はキッチンで、
洗濯は洗濯部屋でするという文化らしい。
料理に使う道具も、
洗濯に使う道具も、
掃除に使う道具も、
俺たちには見た事がないものばかりだけれども、
トニの説明を受ければ、なんとか使えそうだ。
寝具、食器、調理器具、石鹸・・
田口とトニが相談しながら
まずは最低限の生活に必要な
雑貨リストを作っていく。
昼になったし、
昼メシがてら買い物に出る前に・・と、
トニから声がかかった。
『外出前に、
必ずそのテーブルの上のベルトを首に、
イアリングを右耳に装着してください。』
言われた通り、
俺達はイアリングとベルトを身に付ける。
どちらもユニセックスなデザインで軽く、
着け心地は悪くない。
『それからイアリングは
いつ外しても問題ありませんが、
ベルトはゲーム終了まで外出時は必ず
身につけておく事をお勧めします。』
見ればいつ置かれたのか、
ダイニングの小さなテーブルの上に
シリコンの様な素材の白いバンドが2本と
小さなリング状のイアリングが2つ、
それから腕時計のような物が2つ
置かれている。
それを手に取ると、
トニから続けて説明がある。
『イアリングは翻訳機です。
この世界の人間達が使う一般的なもので、
この地の公用語である
ギリシャ語と日本語の変換をします。』
なるほど、コレは必要なんだろう。
理解して俺達は頷いた。
『それからベルトは
お2人が決まった相手・・番以外との
交尾をしない意思表示を示すもので
スワンベルトと言います。』
「えっと、
イヤリングは分かったけど、
スワンベルトはよくわかんないんだけど・・
これ、しないとどうなるの?」
俺の質問にトニは当たり前のように答える。
『ベルトをつけていないという事は
交尾の相手を探している意思表示
となっています。
それ故にベルトを付けていなければ、
交尾可能な場所に引き摺られて行って、
そこで無理矢理交尾が行われた場合でも
法律上、何も問題はありません。
人間の多い街中には
いくつかベルトを付けない人間の為の
交尾場所・・性交場があり、
そこでは複数の人間が入り乱れて
交尾をします。』
俺はゴクリと生唾を飲む。
つまりは乱交が普通にある世界という事らしい。
『スワンベルトを付けている人間に関しては
番以外との交尾は双方とも処罰対象となります。
挿入行為が行われようとした場合、
直前で互いの性器を焼き切る機能が
このベルトに付いております。
故にこのベルトを付けている人間に
交尾を申し込む人間はまずおりません。
本ゲームのプレイヤーによっては
ベルトを着用拒否されるのですが、
お2人はベルト着用の方が良いだろうと
エロース様が仰っておられました。』
結構物騒なシロモノだ。
・・けど、強姦防止には
必要というコトだろう。
「どうしてもベルト付けてる相手とシたけりゃ、
こんなベルト引きちぎっちゃえば
良いわけであんまり意味ないんじゃ?」
俺の問いにトニは、淡々と答えた。
『お2人の世界では
交尾に至るまで恋愛するにしても
お金を払うにしても高コストです。
ですから、
無理矢理交尾を迫る事もあるのでしょう。
この世界では、
ベルトを付けない人間を探せば
ノーコストで交尾に至りますので
無理して他人のベルトを
破損させるなどといった犯罪は、
発生しておりません。
それに、
このベルトは本人の意思でしか外せません。
ベルトを切る専用の工具は
政府機関が一部所持しておりますが、
緊急事態用ですから。
通常は本人の意思でのみ着脱されます。』
「あの、でも・・
逆に言うと・・・
この世界では番になる相手がいなければ
誰とでもえっちをしなくちゃいけない事に
なるんじゃ・・」
田口が不安そうに言うと
トニはそれにも淡々と答える。
『スワンベルト以外にも、
独身主義者である事を示すシングルベルト、
妊娠中を示すマタニティベルト、
交尾できないことを示すリーブスベルトなど
ありまして、
これらのベルトをしている人間に
交尾を迫る事が法律違反です。』
「そうすると、
大半の方は何らかのベルトを
付けているんですね。」
田口がホッとしたように言うが、
トニは答える。
『いえ、
むしろベルトを付けていない人間が
多数派ですね。』
俺達は顔を見合わせた。
「えっと、
男だけがベルトを付けてないとかじゃなくて?」
『いえ、
オスもメスもベルトを付けない人間が
圧倒的に多数です』
「・・セックスが
無茶苦茶好きな人が多いとか?」
『いえ、
もっと合理的な理由です。
この世界の人間の生殖機能は、
ここ300年程で極めて低くなりました。
受胎の女神でもある
アルテミス様の力をもってしても、
全体の受胎の確率が上がらぬほどで、
繁殖の為に、沢山の異性と
数多くの交尾をこなす事が
推奨されるようになりました。』
「えっと、
子作りできれば相手は選ばないってこと?」
『そうです。
その為、子作り可能な年齢になれば
人間はすぐにでも交尾を始めて、
子作りの限界に至るまで
交尾を続けます。
そして生まれた子供は
母親の子供であり、
神に仕える子供であり、
その子供が産まれた地域の子供でもあります。
母親が望まなければ神殿や・・
ここであれば、
ギリシャ連邦共和国が
母親にお金を払って
生まれた子供を引き取って育てます。』
「・・・」
田口は、呆然としたようにトニを見る。
『・・といっても、
そういった方針になる300年ほど前は
こちらでも番になるカップルを作って
家族を作るのが多数派でした。
そういった古い考え方や
より古い貞潔・・純潔を重んじる人間達の
意思を尊重する為、
ベルトが存在しております。』
余所者の俺たちが、
自分たちの倫理観を振りかざすのも変な話だ。
田口も、似たような考えなのか、
俺達は黙ってスワンベルトを装着した。
ーーー数時間後、
夕方、
俺達は自宅に随時届く荷物を待ちながら、
あまりの忙しさに魂が抜けかかっていた。
そんな俺達を横目に
トニは大きい水槽に戻されて
水草に巻き付いて、のんびりと休んでいる。
昼メシとして、
カ○リーメイ○とそっくりなバーが
パンがわりに付いたオムレツを食べた後、
最低限必要なものを一通り買い揃えた。
大きい物は自宅に当日配送を頼み、
小さい荷物を2人で抱えて帰宅した。
歯ブラシが存在しないと
田口が困っていたが、
ここでは小さな歯磨き虫型人形
という小型のロボットが
歯の掃除をするとトニに説明され、
仕方がないので
2人分の歯磨き虫型人形を買った。
「俺、あれ使ってみていい?」
届いた荷物から寝具を取り出し、
ベッドを整えた後、
俺は気になっていたロボットを指差した。
洗面台の棚に2つ仲良く並んでいる。
「良いですけど・・」
田口が躊躇しているので、
俺はむしろ先に使う事にした。
背中部分にあるケースに歯磨き粉を入れて
口にロボットを入れ、横になる。
電源をONにしたロボットから手を離す。
(これは・・・
メチャクチャ気持ち悪い?!)
口の中で虫が蠢く感触が
とにかく気持ち悪くて、
10分程の時間がかなりの苦行だった。
まぁ、その甲斐あってか、
ブラシで磨くよりも歯はピカピカだ。
残念ながら、田口を安心させる事はできず・・・
歯磨きが終わるまでの俺を見た田口は、
俺を見る前より更に怯えながら
歯を磨く羽目になった。
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