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DAY 1.

魚とまんじゅうと俺と

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「いや・・魚って
 ・・というかどうすんだ?
 この状況・・」

 布団まんじゅうの田口を撫でてみるが
 応答がない。

『このゲームで最初にするべきは住居の決定です。
 道哉さん。』

「??」

 途方に暮れていると
 頭に響いた声に俺だけでなく、
 布団まんじゅうの田口もぴくりと反応する。

 モゾモゾと動いた田口は
 布団の隙間から顔を覗かせた。

「田口!」

「・・大橋君・・・」

 田口はあまりこちらを見てくれない。

 寂しくて、フニフニした柔らかい頬を突く。

「お・・お魚さん、あなたが喋ったんですか?」

 俺は暫く無視されるらしい。

 無視されるのが寂しい俺は
 田口の頬を撫でくりまわす。

『はい。あかりさん。私です。
 トニと申します。
 お2人のサポートと
 質問受け付けを担当致します。
 これから1年間よろしくお願いしますね。』

「・・1年もかかるゲームなんですか??
 大学とか、バイトとか、サークルとか・・」

 田口は俺に撫でまわされるのに、
 俺を見てくれない。

『いえ、
 ゲーム内時間では365日間ですが、
 こちらの世界では180時間
 ・・1週間と半日のプレイ時間です。』

「・・ええと、
 1週間も行方不明になると、
 大騒ぎになるんですが・・」

 そろそろウザいとかなんとか言って
 俺とも喋って欲しい。

『ええ、そこも救済措置が取られます。
 お二人と姿・形・声を似せて
 性格、記憶をコピーした人形が
 お2人の世界で代理を努めます。』

 ・・話からすると、人形というのは、
 SF映画に出てくる
 アンドロイドロボットみたいなもの・・だろう。

「・・あの、私、
 ここに来る前、
 お父さんの車を使ってて・・
 サービスエリアに居たんです。
 車無しに私が家に帰ったら、
 不審に思われてしまうのですが・」

『では、
 クルマのキーを私にお預けください。
 クルマのキーさえあれば、
 人形があかりさんの当初の予定を
 完遂するはずです。』

 田口は少し考えてキーをトニの前に置いた。

 置かれたキーは光になって掻き消える。

『では、これからお2人には、
 道哉さんが望んだ関係性を築く遊戯に
 参加して頂くことになります。』

「・・大橋君の望む関係?」

 ずっと・・
 どれだけこっちを見て欲しいと思っても
 反応がなかった田口は
 ぎぎぎっと音がするんじゃないかと思うくらい
 ゆっくりとこちらを見る。

「・・・」

(むっちゃ怒ってる?)

 ・・・いや?よく見れば、
 怒ってるというよりも・・

「田口・・・?俺の事嫌いになった?」

 言っててだいぶ悲しくなるが、
 布団まんじゅうのまま抱き寄せる。

「・・・ずっと前にも言いましたが!
 こういうのは、2人だけの時にしてください!」

 赤い顔が可愛い。

「いや、今2人きり・・」

 俺が言うと田口はじいっと目の前の魚を見る。

『はい。すみません。
 目を逸らそうにも魚眼の視界は360度全方位。
 目を瞑ろうにも瞼がございません。』

 魚のトニはそう言うと、
 くるっと回転する様に泳いだ。

 田口は息を深く吐くと、俺の方を見る。

「その・・1年間ずっと・・
 えっちな事をするつもりですか?」

 プルプル震えて涙目なのは
 誘っているんじゃないかと思う。

「できるなら、したいけど・・」

「・・・」

「大丈夫!
 田口が嫌がるような事には、
 多分ならないから。」

 多分としか言いようがない。

 細かいゲームシステムは不明のままだ。

 とはいえ、
 エロースはハードモードを回避できたような事を
 言っていたし・・
 ナントカナルンデナイダロウカ・・

『あかりさん。
 私からできるゲームの説明がございます。
 それに質問頂ければ
 わかる範囲では精一杯お答えします。』

 田口は、トニの方を向いてコクっと頷いた。
 不安そうではあるが
 取り乱しているわけではなさそうだ。

『これから、
 お2人には私達の世界の
 キプロス島に来て頂き、
 そこで1年を過ごして頂きます。』

「異世界とかってこと?」

 俺が尋ねると、魚は答える。

『並行して存在する別の地球です。
 異世界と言っていいでしょう。

 今から2300年ほど昔まで、
 私達の世界はお2人の世界でした。

 しかし、2300年ほど前に
 分岐が起こり、
 私達の世界は
 お2人の世界とは違う歴史を刻んでおります。
 お2人には、この分岐が別れた時点から
 2500年ほど経過した世界で
 生活して頂く予定です。』

「あの・・そこで生活するにしても、
 言葉はどうするんですか?」

 田口の質問にもトニは問題なく答える。

『自動翻訳機をお貸しします。
 ですが、
 2500年も違う歴史を刻んでおりますので、
 お2人には理解不能な単語が
 沢山あると思います。
 分からない単語は都度聞いてください。』

「1年も違う世界に行くって事は
 私たちも働きながら
 お家を借りたりして
 そこに住むって事ですか?
 できるお仕事ってありますか?」

『初期費用はお渡ししますし、
 ゲーム内でミッションをクリアしていけば、
 ポイントを差し上げます。
 ポイントは神々の力を
 一部借りる事のできる神器に交換できる他に、
 人間が使用している通貨にも交換できます。
 ・・といってもゲーム序盤では、
 このポイントも少ないので、
 短期のお仕事をご紹介もできます。』

「ミッションってどんな事するの?」

 ゲームっぽい単語ではあるけど、
 恋愛ゲームを殆どしないせいか、
 ミッションのイメージが湧かない。

『ミッションについては
 ゲーム時間内での明日の朝10時に
 エロース様から説明があるはずです。
 プレイヤーによって異なるミッションが
 設定されますので、
 お2人には、道哉さんのイメージした目標に
 応じたミッションが設定されるはずです。』

「・・・大橋君・・
 あの・・ちょっと怖いんですが・・
 あんまりえっちな目標を立ててないですよね?」

 獲物として投入された
 ウサギみたいな顔して見ないで欲しい。

 ここは俺の部屋だ。

 しかも、田口は気がついていないかもだけど、
 まださっきの甘酸っぱい香りが漂っている。

「田口・・・・
 えっと・・エロースは
 壊れないでいけるだろうって・・」

(あ・・しまった)

 うん。逆効果だった。

 元々色白の顔から血の気が引いて
 もはや青くなっている。

「あ・・あの・・
 棄権とかできないんですか?・・」

『お2人のどちらかが棄権の場合は
 ゲームオーバーとなり、
 ペナルティが主に道哉さんに与えられます。』

 ・・トニは俺がエロースから受けた説明と
 同様のゲームオーバー時のペナルティについて
 田口に説明する。

「・・・棄権しないです。ごめんなさい。
 変な事を言ってしまって・・
 私からは質問ないです。」

「その・・マジでゴメン。田口・・。」

 何がゴメンかというと、
 色々全部なんだけど・・
 田口は、まだ本音は怖いようで
 プルプル震えてる・・

「あの・・大丈夫です。
 ・・多分・・えっと・・
 あの大橋君としかしないんですよね?」

「?」

「その・・えっちな事は、
 大橋君以外の人とはしなくても
 大丈夫ですよね?」

「俺の希望が前提ならそこは大丈夫だよ。」

(むしろ問題なのは、
 どれだけエロい事するかだけだけど・・)

 ・・俺の妄想で相手は田口限定だし、
 『田口と俺以外』なんて論外だが、
 どれだけエロい事をしたいと思ってしまったか
 については正直、よく分からない。

『では、住むところを決めましょう。
 ご安心ください。初月無料です。』
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