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駄犬の高望み

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 青木一也 side.

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 お前、
 大橋のクセに何言ってんの?」

 バカな言い分にマジメに答えてしまった。

 童貞の俺が
 セックス云々の話で大橋をバカにするのは
 ちょっと違うのかもしれんが・・

 この大橋・・
 少なくとも俺の知る限り3回は、
「超下手」の噂を流された男だ。


 ―――田口と付き合う前(2年ほど前)が
 最後だが、まだ時効というほど前でもない。
  
 噂を流した張本人は
 いずれも当時のこいつの彼女だった。

 不名誉な噂は不本意だろう。
 ・・・・が、大橋本人の話を聞くと、
 大橋があまりにも酷く、
 彼女達が一方的に悪いとも言えなかった。

 一例を挙げると・・・

「デートしようよ」の
 女の子からのお誘いを散々断った挙句、

「告白にOKしたくせに
 一度もデートしないなんて!」
 と彼女が泣き喚いたらしい。

 泣かれて面倒と思った大橋は
 ゲームで二徹した状態でデートに向かい、
 彼女に誘われるまま、彼女の部屋へ。

 服を脱がれようが、
 奉仕されようが、
 全く反応せず。

 彼女に奉仕することもなく・・・・。

「私に色気がないとでも?!」と
 再び泣き喚く彼女に・・

 仕方なくその場で自慰して起立させたムスコを
 勢いよく突っ込んだ挙句、

 あまりの痛さに悲鳴を上げる彼女から
 ムスコを引き抜いて
 謝って帰ってきたとの事だ。
  
 他2件も似たようなやらかしだったから、

「大橋は最悪だが、
 そんなシモの事情を噂に流す女もバカ」
 というのが当時の俺の感想だった。

 正直、
 大橋がFPSとか
 MMORPG系好きのゲーマーでなければ、
 最悪すぎて
 あの時点で付き合いを止めていたと思う。

 ・・話が脱線したし、繰り返しになるが、
 大橋は少なくとも三人の女から
「超下手」と言われた男だ。

 『快楽堕ち』なんていうのは
 大橋ごときに狙えるトロフィーじゃないだろう。
  
 高校時代に田口に惚れ込んだ大橋が
 懇願みたいな告白と玉砕を繰り返した後、

 想いが実り
 誠実に恋愛するようになるかと思っていたが、

 元々バカだったのは改善されていないらしい。
  
 このバカに判るような説明を俺が考えていると、
 大橋が口を開いた。

「・・・・はい。
 調子に乗りました。
 田口に惚れられたいだけなんです。」

「・・いや、お前ら付き合ってんじゃん」

「7回告白して
 7回目でようやっとOKだったし・・」

「・・まぁ、
 最終的にOKだったんだろ?」

「俺、田口の好みのタイプと違うし・・」

 ・・こいつ・・
 田口と付き合う前より
 面倒くさくなったのかもしれない。

「・・・・田口はどんなのが好みなんだよ?」

「田口、
 昔はデカ林が好きだったんよ・・」

 ブッ!!

 俺は飲みかけたメロンサイダーを吹いた。
 ・・鼻に炭酸が回って涙目になる。

「デカ林?」

 大橋が情けない顔で頷いた。

 ・・・デカ林と大橋ならだいぶん違う。
  
 デカ林は高校時代の有名人で小林。

 柔道一直線で、
 俺たちの高校が
 初の柔道インターハイに出た年の大将だった。

 スポーツ推薦だったのもあって
 成績は毎回赤点ギリギリだったけど、
 身体を動かす分には万能。

 走るのは速い。
 泳ぐのも速い。
 スタミナがあって怪力。

 身長200越えで
 柔道どころか重量上げでもしそうな筋肉。
 それに加えて一睨みで人間を殺せそうな強面。

 歴史の教科書の金剛力士像とそっくりの外見で
 インパクト大だ。

 ・・恐ろしい外見に似合わず温厚で、
 いい奴だったと記憶している。
  
 ・・・対して・・・
 目の前のバカは・・・
  

 大橋 道哉(おおはし みちや)――

 18歳。
 ゲーマーで元バスケ部。

 今でも
 バスケットボールサークルに所属している。

 高校時代の成績は、中の上。

 懐っこい性格で
 良くも悪くも正直だが、
 多少・・いやかなりバカ。
  
 見た目は
 黙っていればアイドル並みだ・・
 口を開くと頭の悪い大型の駄犬だが・・

 二重の大きな茶色の目、
 鼻筋の通った高い鼻、
 薄い唇。

 とにかく
 女子受けしそうなパーツが
 輪郭のいい顔に
 ちょうどいい感じで配置されている。

 こんな顔が
 180近くある長身の
 細マッチョの体の上に乗っていて、
 見た目を気にして
 定期的に美容院なんぞに通っている。
  
(絶対、
 デカ林は美容院とか入ったことないよなぁ・・)

 高校卒業以来会っていないが、
 デカ林は、大概、丸刈りの坊主頭だった。
 ・・・そんなことはどうでも良いか・・・。

「・・・いや、田口の性格からいって、
 彼氏がいる状態で
 浮気とかはしないだろ・・」

「・・・浮気しなくても、
 サークル入って、
 男の友達も増えてて・・」

「友達ならいいじゃん・・
 俺だって田口と友達だし・・」

 田口はログイン時間こそ短いものの、
 結構FPS系のゲームが上手い子だ。

 それ系のゲームではたまに一緒に遊ぶ。

「高校の時からの男の友達は、
 俺も知ってる奴らだし、
 田口の好みのタイプはいなかったし・・」

「・・デカ林みたいな奴ってことなら、
 そうそういないだろ・・」

「田口の入ってるサークルの隣が、
 ラグビーサークルで、
 あそこの奴らかなりガタイいい・・
 『もっと好きな人ができたから、ごめんなさい』
 とかは言われたら、俺、マジで死ぬ」

「筋トレする方が
 セックス上手くなるより
 現実的なんじゃ・・」

「現在進行形で
 毎日プロテイン飲んで、
 週3回大学のジム行ってる・・」

「・・・お前、
 変なとこ、マジメだよな・・・」

「効果が出るまで時間がかかる筋トレに加えて、
 短期で身体から堕とす作戦だ」

「アホ」

 田口でエロの話は正直気が乗らない。

 ・・・なまじ本人を知っているだけに、
 リアルな想像ができてしまうんだから
 やめてほしい。

 田口と友達続けられなくなりそうだ。

「よく分からんが、
 上手くなりたいって話しなら、
 プロのお姉さんにでも
 金払って相談しろ・・
 もう、この話は終わり!!」

 強制終了だ!!
  
 ブツブツ言いながら、
 ドリンクのお替りを取りに行く大橋・・・

 あいつが戻ってきたときに、
 またセックスとか言い始めないように、
 大橋も興味を持ちそうなサイトを
 開いとこうか・・

 検索ワードに”ゲーム” “新作” を入力する。

「・・・あーー・・
 それ『アポロン』の新作じゃね?」

 いつ戻ってきたのか・・
 大橋は俺のPC画面に表示されたバナーを
 指さした。

『アポロン』は中学のときに
 大橋とプレイしたMMORPGだったが、
 バナー画像の画風は確かに似た感じだ。

 ギリシャ神話の世界観の中、
 アポロン神殿に信託を受けにいくという
 シンプルなストーリーだが、
 美麗3Dグラフィックと
 壮大な音楽の良ゲーだった。

 俺達は割とハマって
 テストプレイを遊び倒したのに
 世間の評価は低くて
 製品版はついに世の中にでなかった。

「どうだろ?・・
 売れなかったゲームの新作とか作るか?・・」

「・・『エロース』」

 大橋がゲームタイトルを読み上げる。

 ・・・『アポロン』のパロディで
 エロゲーでも作ったのか?
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