ユニコーンの旅カフェ〜双子姉妹の日替わり魔法珈琲〜

森羅 唯

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強めの香り

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 その盗賊団は、孤児のみで構成されていた。
 総勢四十名超えの一団を率いる、最年長の少年の名はペトル。

 色あせた外套に身を包み、青みがかった髪を所々焦がした彼は、以前ラミスから「噛みつく珈琲豆」を奪った山賊であった。

 ある薄雲りの晩、盗賊団は小高い丘の上に息をひそめて陣取っていた。
 ペトルが拳を掲げて叫ぶ。

「みんな集まれ! ついに、この時がきたぞ!」

「なになに? もう、おやつの時間?」

 呑気に喋りながら、ダラダラと集まってくる子供たちを待つことなく、ペトルは両手を広げて説明した。

「違う! 作戦を決行するって言ってんだ! 前に話した、例の双子の姿をようやく見つけたんだよ! ほら、丘の下に明かりが見えるだろ!」

「その話、本当だったんだ。兄ちゃんってば良い人だから、あの話も嘘だと思ってたよ」

「嘘じゃねえよ! 俺は、こう見えて元山賊だぞ? そして、今はお前たちを率いる盗賊団のボスでもある!!」

 ペトルの言葉に、一人の少女がそっと手を挙げて尋ねた。

「上手くいくかなあ? わたしたち、みんな子どもだよ?」

「子どもだから、なんだってんだ。これだけの数がいたら、どうにかなる」

「せめて、六歳以下の子は置いていかない? 途中で疲れちゃう子も出ると思うの」

「……そうだな。よし、十歳の奴らの中で、男女一人ずつ決めろ。そいつらはチビたちと留守番だ」

「分かった。じゃあ、みんなに伝えてくるね。……あっ、寝てる子もいるから、あんまり大声で話さないでね」

 そう言って、少女は既に布団にくるまっている年少組の元へ、静かに走っていった。
 その様子を疲れたような眼差しで見送ったペトルは、やがて咳払いを一つして口を開いた。

「では、改めて作戦を説明するぞ。目標は、あそこに見えるでっかい馬車だ。後ろから、みんなでコソッと近付いて積み荷を少しずつ盗むんだ」

「それって何往復させるつもり? そのうち、絶対に見つかっちゃうと思うんだけど」

「見つかったら逃げればいい。少しでも盗めれば、それでいいんだ。言っとくけど、もし本当に逃げることになれば、バラバラに逃げるんだぞ。精一杯、かく乱するんだ」

「うーん……逃げ切れるかな? 素直に、ごめんなさいしちゃダメなの?」

「逃げ切れなかった場合、そいつとはそこでお別れだからな。あの双子は……あれだ、人間を生きたまま食う。頭から足の先までムシャムシャとだ。たぶん、骨も残らない。だから、必死こいて逃げろ」

 ペトルが告げると、周りの子供たちは皆一斉に後ろへ下がった。

「兄ちゃんが脅すから八歳以下の奴ら、みんな怯えちゃったよ」

「ウソウソ、冗談だ。冗談だから戻って来い。ほら、前祝いに飴玉を一つずつくれてやるから」

「今時、飴玉ごときで動く子どもなんていないよ」

「ああもう……じゃあ、盗んだ物は全部、自分の物にしていいから。そうだ、もしかしたら馬車にはドーナツとか積まれてるかもしれないぞ? とにかく、なんでもいいからやる気を出してくれ」

「ドーナツなら仕方ないね。みんな、兄ちゃんに従おう」

 こうして、一致団結した盗賊団は、ペトルを先頭に一列で丘を下っていった。
 姿勢を落とし、足音も最低限にとどめ、時間をかけて林の中を進んでいく。
 やがて、幌馬車へ残りあと数歩というところで、ペトルが上ずった声で呟いた。

「あいつらの怯える顔が今から目に浮かぶぜ。さあ、雪辱を晴ら――」

 けれど、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
 ペトルは顔から林の中へ倒れ込み、後ろの子どもたちもそれに続くように気を失っていく。

 薄れゆく意識の中で、盗賊団の耳に双子の会話が届いた。

「良い香りね……けど、ちょっと強すぎやしないかしら」

「面白いでしょ。魔法で珈琲の香りを極限まで香りを強めてみた、その名も『鼻で味わう珈琲』。味は苦手だけど、香りが好きって人にはウケると思うんだ」

「逆に香りすら苦手な人にとったら苦痛でしかないわね。小さい子とか、失神してもおかしくないわよ」

 双子の運の良さか、はたまたペトルの間の悪さか……。
 盗賊団は珈琲の香りが平気な一部の子どもを除き、救援のために駆けつけた後続を含めたほぼ全員が倒れ、ついでにユニコーンも静かに気を失っていた。
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