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魔法調理鍋
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澄み切った空の下、色とりどりのテントで埋め尽くされた石畳の広場を歩くラミスの姿。
この日の早朝、とある街に到着した双子は昼まで自由時間とし、お互い別行動を取っていた。
ラミスはキョロキョロと辺りを見渡し、やがて一人の露天商に話しかける。
「おじさん、何か面白いモノ置いてない?」
「でしたら、これなんていかがでしょう? 都会では、もはや一家に一台……かき混ぜ式魔法調理鍋です」
こう言って、露天商は風呂敷の上に置かれた物体を指差した。
それは、ラミスの身体が丸々収まりそうなほどの大きな鍋。
重厚な金属素材はどこか未来的であり、古ぼけた工芸品が並ぶ中で一つだけ異質な存在感を示していた。
「へえ……都会の人たちは、ずいぶん立派な鍋を持ってるんだね。これ、どうやって使うの?」
ラミスが質問すると、露天商は手振りを交えながら答えた。
「作りたい料理の材料を放り込んで、かき混ぜるだけですよ。物によりますが、一時間もあれば、どんな料理でも完成します」
「ふーん、便利だね。で、肝心の味は?」
「一応、基準として一つ星相当の味は保証されています」
「一つ星って言われても、よく分からないけど……。とはいえ、私の知らない間に世の中の魔法道具がここまで進んでいたとはね」
顎に手を当て鍋を凝視するラミスに、露天商が今日一番の笑顔を見せて語りかけた。
「ぜひ、お土産にいかがでしょう? お安くしておきますよ?」
けれど、鍋に貼られた値札には、旅をしている身で、おいそれと買えない額が書き記されている。
ラミスは、うつむきがちに首を横に振って告げた。
「ううん、やめとく。買いたいけど……クレナちゃんにバレたら、『また無駄遣いして』って怒られそうだから」
「妹さんがいるのですか。……ならば、いっそ妹さんへのプレゼントとして買ってみてはいかがでしょう。姉が買ってきてくれたものであれば、頭ごなしに否定もしないでしょう」
露天商の言葉に、ラミスはゆっくりまばたきして言った。
「なるほど。クレナちゃんへのプレゼントって名目で買うなんて、思いつかなかった。そうだね……これなら二人で使えるもんね。よし、決めた……買うよ」
「ありがとうございます。では、さっそく梱包させていただきますね」
ラミスは気前よく鍋を運ぶためだけの荷台まで購入して、意気揚々と広場を後にした。
馬車置き場に戻り、近くの草むらの陰にそっと隠す。
その後、クレナと合流するやいなや、いたずらっぽい笑顔を浮かべて尋ねた。
「クレナちゃん、かき混ぜ式魔法調理鍋って知ってる?」
けれど、クレナはそんなラミスの方に目を向けることもなく、いつもより低い声で答えた。
「はあ? 知ってるに決まってるじゃない」
「あれ、なんだか当たりが強い……。そんなに一般常識なの? 魔法調理鍋って」
「一般常識も何も、普段から使ってるし。……もしかしてあんた、あたしがどうやって料理作ってるか知らなかったの? 貸してあげるから、たまには自分で料理してみなさいよ。まあ、料理って言っても、かき混ぜるだけだけど」
そう話して、クレナは馬車の後部に取り付けてある食器棚から一つの鍋を取り出した。
彼女たちの頭が、ちょうど収まる程度のカラフルな鍋。
その上、ラミスが先ほど購入した物とは似ても似つかない、軽く柔らかな素材で出来ていた。
ラミスは、力なく肩を落として口を開く。
「クレナちゃん、持ってたんだ。けど、これ凄く小さいし、これじゃ材料が入り切らないんじゃ……」
「今時の魔法調理鍋は、中が変な空間に繋がってるとかなんとかで見た目の大きさはどうだっていいのよ。しかも、これで旧式より美味しい料理が作れる仕様になってるし」
「こんな小さいのに、大きな鍋より性能がいいの?」
「間違いなく良いわね。例えばだけど、あたしの持ってる鍋でも、三つ星程度の料理が作れるわ。そういえば、最先端のは八つ星とか言ってたかしら」
「へ、へえ……」
「もちろん、調理も早いわよ。それなりにややこしい料理でも、三十分ってところかしら」
「そ、そう……」
ここまでの経緯を知らないクレナは、ラミスが料理に興味を持ってくれたのだと勘違いし、懇切丁寧に説明を加えていった。
価格、性能、使い勝手……そのどれもが、ラミスの購入した鍋を凌駕している。
しばらく、青い顔をして説明を聞いていたラミスは、やがてぎこちない笑顔を浮かべて言った。
「クレナちゃん、今日は私が料理を作ろっか?」
「あら、それは助かるわね。で、何を作ってくれるの?」
「創作料理だよ。その名も『おじさんの照り焼き、姉心を弄んだ報いを添えて……』かな?」
「何よ、その意味不明なうえに猟奇的なジョークは。はあ……期待して損した。結局、料理当番は今日もあたしなのね」
この日の早朝、とある街に到着した双子は昼まで自由時間とし、お互い別行動を取っていた。
ラミスはキョロキョロと辺りを見渡し、やがて一人の露天商に話しかける。
「おじさん、何か面白いモノ置いてない?」
「でしたら、これなんていかがでしょう? 都会では、もはや一家に一台……かき混ぜ式魔法調理鍋です」
こう言って、露天商は風呂敷の上に置かれた物体を指差した。
それは、ラミスの身体が丸々収まりそうなほどの大きな鍋。
重厚な金属素材はどこか未来的であり、古ぼけた工芸品が並ぶ中で一つだけ異質な存在感を示していた。
「へえ……都会の人たちは、ずいぶん立派な鍋を持ってるんだね。これ、どうやって使うの?」
ラミスが質問すると、露天商は手振りを交えながら答えた。
「作りたい料理の材料を放り込んで、かき混ぜるだけですよ。物によりますが、一時間もあれば、どんな料理でも完成します」
「ふーん、便利だね。で、肝心の味は?」
「一応、基準として一つ星相当の味は保証されています」
「一つ星って言われても、よく分からないけど……。とはいえ、私の知らない間に世の中の魔法道具がここまで進んでいたとはね」
顎に手を当て鍋を凝視するラミスに、露天商が今日一番の笑顔を見せて語りかけた。
「ぜひ、お土産にいかがでしょう? お安くしておきますよ?」
けれど、鍋に貼られた値札には、旅をしている身で、おいそれと買えない額が書き記されている。
ラミスは、うつむきがちに首を横に振って告げた。
「ううん、やめとく。買いたいけど……クレナちゃんにバレたら、『また無駄遣いして』って怒られそうだから」
「妹さんがいるのですか。……ならば、いっそ妹さんへのプレゼントとして買ってみてはいかがでしょう。姉が買ってきてくれたものであれば、頭ごなしに否定もしないでしょう」
露天商の言葉に、ラミスはゆっくりまばたきして言った。
「なるほど。クレナちゃんへのプレゼントって名目で買うなんて、思いつかなかった。そうだね……これなら二人で使えるもんね。よし、決めた……買うよ」
「ありがとうございます。では、さっそく梱包させていただきますね」
ラミスは気前よく鍋を運ぶためだけの荷台まで購入して、意気揚々と広場を後にした。
馬車置き場に戻り、近くの草むらの陰にそっと隠す。
その後、クレナと合流するやいなや、いたずらっぽい笑顔を浮かべて尋ねた。
「クレナちゃん、かき混ぜ式魔法調理鍋って知ってる?」
けれど、クレナはそんなラミスの方に目を向けることもなく、いつもより低い声で答えた。
「はあ? 知ってるに決まってるじゃない」
「あれ、なんだか当たりが強い……。そんなに一般常識なの? 魔法調理鍋って」
「一般常識も何も、普段から使ってるし。……もしかしてあんた、あたしがどうやって料理作ってるか知らなかったの? 貸してあげるから、たまには自分で料理してみなさいよ。まあ、料理って言っても、かき混ぜるだけだけど」
そう話して、クレナは馬車の後部に取り付けてある食器棚から一つの鍋を取り出した。
彼女たちの頭が、ちょうど収まる程度のカラフルな鍋。
その上、ラミスが先ほど購入した物とは似ても似つかない、軽く柔らかな素材で出来ていた。
ラミスは、力なく肩を落として口を開く。
「クレナちゃん、持ってたんだ。けど、これ凄く小さいし、これじゃ材料が入り切らないんじゃ……」
「今時の魔法調理鍋は、中が変な空間に繋がってるとかなんとかで見た目の大きさはどうだっていいのよ。しかも、これで旧式より美味しい料理が作れる仕様になってるし」
「こんな小さいのに、大きな鍋より性能がいいの?」
「間違いなく良いわね。例えばだけど、あたしの持ってる鍋でも、三つ星程度の料理が作れるわ。そういえば、最先端のは八つ星とか言ってたかしら」
「へ、へえ……」
「もちろん、調理も早いわよ。それなりにややこしい料理でも、三十分ってところかしら」
「そ、そう……」
ここまでの経緯を知らないクレナは、ラミスが料理に興味を持ってくれたのだと勘違いし、懇切丁寧に説明を加えていった。
価格、性能、使い勝手……そのどれもが、ラミスの購入した鍋を凌駕している。
しばらく、青い顔をして説明を聞いていたラミスは、やがてぎこちない笑顔を浮かべて言った。
「クレナちゃん、今日は私が料理を作ろっか?」
「あら、それは助かるわね。で、何を作ってくれるの?」
「創作料理だよ。その名も『おじさんの照り焼き、姉心を弄んだ報いを添えて……』かな?」
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