ユニコーンの旅カフェ〜双子姉妹の日替わり魔法珈琲〜

森羅 唯

文字の大きさ
上 下
8 / 20

幸せ珈琲

しおりを挟む
 突き刺さるような雨が地面を跳ね、腰を下ろした双子の足元を徐々に侵食してくる。
 その日の夕方、クレナとラミスはユニコーンと共に、小さな洞窟の中で豪雨が過ぎ去るのを待っていた。

 クレナが両膝を抱えて呟く。

「街まで、あと少しって所まで来てるのに、ツイてないわね」

「まあまあ、たまにはゆっくりするのも良いものだよ? ユニさんに風邪を引かすわけにもいかないし。それに、おかげで私の新たな名物候補の開発期間を得ることができたんだから」

「ああ、あれからも名物ちゃんと考えてたのね。……で、今回は何を作ったわけ?」

 クレナが尋ねると、ラミスは一杯の珈琲を取り出して説明した。

「『幸せな幻影を見せてくれる珈琲』だよ。とある童話から着想を得て作ったの」

「その童話なら、あたしだって読んだことあるわ。けど、これは見た目からしてアウトでしょ。吸ったら幸せな幻影を見せてくれる……それって、完全にヤバい薬じゃない」

「ジョークグッズだって説明して売るから大丈夫だよ。香りはしっかり珈琲なわけだし」

「本当に? あたし、あんたが檻に入れられる姿なんて見たくないわよ?」

 こう言いながら、白い目を向けるクレナに、ラミスが髪をかき上げながら答えた。

「大丈夫だよ。万一に備えて、裏メニューとして売りさばくから。なんなら、逃走用の道具もすでに用意してある」

「やっぱり、後ろめたさを感じてるじゃないのよ。逃走用の道具を用意した時点で、どれだけあんたが合法な物だと言い切っても、違法な物としか思えないわ。だいたい、裏メニューじゃ名物にならないでしょ。悪いこと言わないから、そんな物さっさと捨てちゃいなさいってば」

「待って待って。せめて一回、試してみて? そしたら、クレナちゃんが思ってるような危ない物じゃないって分かるでしょ?」

 ラミスが珈琲をグイグイ押し付けると、クレナはそれを手に取って質問した。

「仕方ないわね……。ちなみに、幸せな幻影ってどんなものを見せてくれるの?」

「さあ? 普遍的な幸せなんて、この世にはないからね。まあ、見てのお楽しみってことで」

「一丁前なことを言われるのが、無性に腹立つわね。……まあ、いいわ。せっかくだし、とびきり良いのを見せてよね」

 そう口にして、クレナは珈琲を勢いよく飲み込んだ。
 すると、十秒もしないうちに目は半開きとなり、上半身がゆらゆらと揺れ始めた。
 次第に口元が緩み、ほんのりと顔も赤く染まっていく。

 あっという間に、幸福感に満たされているのが感じ取れる柔らかな表情になった。
 ラミスは、その様子を観察して呟いた。

「うーん……表情から察するに、もう少し濃くても大丈夫かな? よし、もう一杯試してみよう」

 今度は、一秒もしないうちに瞳孔が開きっぱなしになり、全身がブルブルと震えだした。
 口角は限界まで上がり、顔は赤い絵の具を塗りたくったかのように燃え盛っている。

 やがて、クレナがうわ言を口にし始めると、ラミスはメモを取りながら続けた。

「困った。見た目がこうなるんじゃあ売り物にするには厳しいね。とはいえ、間違いなく幸せな思いはしてるはずだから、実験の辞め時も分からない。このままじゃ、私の中のマッドサイエンティストが暴走してしまうよ」

 次にクレナが目覚めた時、頭上には見渡す限りの星空が広がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...