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ヒロインの対ラノベ作戦

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「やったっ…………!」
 王都の外れにある小さなタウンハウスの玄関の扉を閉めた瞬間、メロディはガッツポーズとともに勝ちどきを上げた。
 両親が領地で休み無く働いても単身用の小さなタウンハウスを借りるのが精一杯、メイドも雇えず、週一で来てもらう家政婦のお陰で何とか並の生活が出来ている底辺貴族令嬢の彼女が、今宵、とうとう王家と並び称される程の大貴族令嬢ペネロペ・ド・ロメイユにざまぁしてやったのだ!!!
(自分よりはるか下の身分の私に男を取られ、周りの貴族子息、令嬢達から見下され、嘲笑されて、さぞ屈辱だったでしょうね…………)
 メロディは、追い出される時のペネロペの痩せ我慢としか思えない冷淡な態度を思い出して、痛々しくて惨めなものだと顔をニヤつかせた。
(ざまあ無いわね!それにしても…………)
 少し引っかかったのは、ペネロペの肩を持って退場した者たちが思ったより多かった事。
(意外とあいつ人望あったみたいね…………とはいえ、エドモンド殿下とファーヴァ公爵家がバックに付いた私を敵に回して、ロメイユを追放される運命のペネロペと一連託生しちゃうなんて馬っ鹿よねぇ……………家からも国からも見放されて、路頭に迷った後で謝って来たって絶対許してやらないんだからwww)
 メロディは、自分に背いたプロムボイコット組の悲惨な末路を想像してほくそ笑んだ。
(とにかく、私は勝ったのよ!あの悪役令嬢に!!私同様ゲームの記憶を持った転生者に!!!)
 メロディは今までのゲーム攻略の険しい道のりを振り返って胸を熱くさせた。
 入学一年前に前世を思い出し、自分がヒロインだと分かって期待に胸膨らませて貴族学園にやって来たメロディ。
 しかしそこにいたのは、ヒロインの攻略を徹底的に邪魔してヒロインと攻略対象者達の恋を盛り上げる悪役令嬢では無く、大人しく人畜無害な地味令嬢だった。メロディは頭を抱えた。悪役令嬢がこんな事では成立しないイベントが山ほどあるのだ。
「ここは対ラノベ作戦で行くしか無いわね!」
 実はメロディ、前世で乙女ゲームとともに、悪役令嬢がヒロインに逆ざまぁする設定のラノベも大好きだった。
 あれだけ真逆のキャラ変を遂げていると言う事は、ペネロペも間違い無く転生者だ。という事は、この世界は、『らぶぷり』を舞台とした悪役令嬢転生モノのラノベ設定になっていると思った方が良い。
 そう分析した彼女は、もしもラノベ展開になった時の為に備えていたもう一つの作戦に切り替える事にした。
 ラノベでは、完璧令嬢となって早々に攻略対象者の好感度を爆上げしている悪役令嬢に、ヒロインが脳内お花畑キャラのまま張り合おうとして、攻略対象者からドン引きされてしまうのが鉄板の展開だ。
(私なら、ドジでのろまな天然キャラにも、あざとい小悪魔キャラも選択しないわ。)
 そうしてメロディは、ラノベ悪役令嬢のお株を奪うような非の打ち所の無い完璧令嬢キャラへと変貌を遂げる。
 王族や高位貴族を狙うのだ。良く考えれば完璧令嬢は、最も非難されにくく周囲に理解を得やすいキャラだろう。
 このキャラになりきる為にかなり無理をしたが、前世の知識とヒロインポテンシャルで、何とか誤魔化す事が出来た。
 幸いペネロペは、ラノベの悪役令嬢のように好感度上げをしていない。学園警備に来るはずだった兄も一向に現れないところを見ると、任務で会うのさえ嫌がられる程に仲が悪いようだ。きっとゲーム同様攻略対象者からも家族からも嫌われているのだろう。
 そう踏んだメロディは、表向きは色恋など興味の無い品行方正令嬢として振る舞い、ペネロペや、他の攻略対象者の婚約者からも不信感を持たれる事無く裏でこっそり攻略対象者達を陥落して行き、見事に逆ハーレムルートを攻略する事に成功した。
「学園のハイスペックイケメントップ3を落としたのよ!私すごくないwwwwwwwww」
 メロディは、王子たち攻略対象者に囲まれて断罪した時に自分に注がれていた周囲からの羨望と嫉妬の視線を思い出して高笑いする。
(ああ!気持ちいい!!!)
 ひとしきり愉悦に浸って舞い上がっていたメロディだったが、しばらくすると目を虚ろにさせて溜息をついた。
(まあ、大満足とは行かなかったんだけどね…………)
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