8 / 12
愉快な仲間。
その 4
しおりを挟む朝、偽ゲーベルドンの姿はなかった。
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夕立ち 改正版
深夜ラジオ
現代文学
「手だけ握らせて。それ以上は絶対にしないって約束するから。」 誰とも顔を合わせたくない、だけど一人で家にいるのは辛いという人たちが集まる夜だけ営業の喫茶店。年の差、境遇が全く違う在日コリアン男性との束の間の身を焦がす恋愛と40代という苦悩と葛藤を描く人生ストーリー。
※スマートフォンでも読みやすいように改正しました。

山蛭様といっしょ。
ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。
和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。
不気味な恋を目指しております。
気持ちは少女漫画ですが、
残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。
表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html
アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1
七日町 糸
キャラ文芸
あの忌まわしい大戦争から遥かな時が過ぎ去ったころ・・・・・・・・・
世界中では、かつての大戦に加わった軍艦たちを「歴史遺産」として動態復元、復元建造することが盛んになりつつあった。
そして、その艦を用いた海賊の活動も活発になっていくのである。
そんな中、「世界最強」との呼び声も高い提督がいた。
「アドミラル・トーゴーの生まれ変わり」とも言われたその女性提督の名は初霜実。
彼女はいつしか大きな敵に立ち向かうことになるのだった。
アルファポリスには初めて投降する作品です。
更新頻度は遅いですが、宜しくお願い致します。
Twitter等でつぶやく際の推奨ハッシュタグは「#初霜艦隊航海録」です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜
西浦夕緋
キャラ文芸
【和風BL】15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。
彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。
亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。
罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、
そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。
「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」
李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。
「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」
李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる