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愉快な仲間。
その 2
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「葵」と名乗った女がシャワーを浴びている間に食べ終わったピザの箱を片付ける。こう見えて綺麗好きな俺。
そしてパソコンの前に戻ってくる。本来なら今日中に終わらせたかったのだが…後は帳簿に収支を記入して…残りは後でやろう。
脳神経が疲れているときはミスをしやすいから…寝て起きたときに終わらせよう。
幸いにも少しの間は仕事がないから…ゆっくり体を休ませよう。
「カミシロさーん。」
ゆっくり休むと言うことは出来ないかもしれん。
「おーい!カミシロさーん!」
パソコンを閉じ声の主の元へと歩く。
「なんだ?」……い!?」
そこには俺のYシャツ1枚姿の葵が頭にタオルを巻いていた。
「ドライヤーってどこ?」
「ドライヤーは引き出しに入ってるが…その格好。」
「服も下着も洗濯機の中だし…シャツはタンスの中の借りちゃった…ごめんね。」
薄っすらと二ヶ所のB地点が確認出来る…ということは…素肌にシャツ!?ならその下は……!?
俺の目線に気が付いたの葵は驚きの行動に出た。
「あー下はねー。」
自らYシャツをめくり上げ中身を見せつけてきた……………俺のボクサーパンツだった。
「これも勝手に借りちゃった。さすがに男物だねブカブカだよ。」
なんという環境適用能力……。
「はい。」
葵は俺に見つけたドライヤーを手渡す。
「ん?」
「乾かして。」
「なんで俺が!?」
「いいから!ほら!」
葵は頭のタオルを取って後ろを向く。火照った肌に湿った髪が艶っぽく見えが…。
めんどくせぇ………。
しぶしぶ、ドライヤーのコンセントを電源プラグに挿し込んで葵の後ろにまわる。
高圧、高速気流が売りのドライヤーのスイッチをいれる。
「おお!強い風!!」おーーーー強い強い。」
小学生のようにはしゃぐな……つい数分前に会ったばかりなのに…。
長い髪だから乾くのに時間がかかるな…予備として買っていた櫛も使いしっかりと乾かしていく。
「ねぇ…。」
ドライヤーの音にかき消されるようなか細い声が葵の口からでる。
「なんだ?まだ毛先の方が乾いてないぞ?」
「………。」
心なしか震えている。
「寒いのなら上着をもう1枚羽織ればいい。」
「…へ?」
風呂上がりとはいえYシャツだけでは体が冷える。「女は身体を冷やさない方がいい。」と何処かの誰かが言っていたような気がする。
ドライヤーのスイッチを切り洋服タンスへと向かう。
えーと……薄手のカーディガンが目に留まる……。
「これでいいか。」
何もないよりは随分とマシってものだろう。
葵の所への戻りさっき見つけたカーディガンを後ろからかける。
「暑くなったら脱げばいい。」
「………。」
「なんだもう暑いのか?」
「ううん、大丈夫ありがとう………。」
「そうか……。」
再びドライヤーのスイッチを入れて葵の髪を乾かす。
その後、数分ほど葵は無言だったが大人しくしていたのでやり易かった。
「よし、ちゃんと乾いたぞ。」
「本当に大丈夫?」
葵は自分の髪を丹念に触って乾いているかを確認しだした。
「うん、大丈夫だね!」
「当然だ。」
そろそろいい時間…というか眠い。葵には同じベッドで寝てもらって俺はソファーで寝ることにしよう。
身体を休ませるには横になるのが一番だと思っている俺。
薄めの掛布団を1枚用意してソファーで横になる。
「そこで寝ていいの?ベットで寝ない?」
「いい…お前もさっさと寝ろ。」
スマホで部屋の電気を消して目を閉じると直ぐに俺の意識は飛んでいった。
数時間後にパチッ!と 目が覚める。今の時間は…。
「……7時。」
スマホを見ると6時…59……7時。
俺の体内時計はほぼほぼ完璧だな……必ずこの時間に起きる。
あの女…葵は…彼女が寝ているベットに目を向けると
「スー……スー……。」
綺麗な寝息をたてて寝ている。
無理に起こすのはどうかと思ったので起こさないように静かに風呂場へと向かう。
シャワーを浴びながら…歯を磨いて今日の予定を考える。
葵を家に帰すのと……後は…どうするか……。
風呂場から出てタオルで頭を吹いているとスマホが点滅しているのに気が付く。
「なんだ…メールか?」
確認すると1通のメールが2分前に届いていた。
「本日AM8時 あの場所にて待つ D 」
「「D」……あの旦那からか……8時までは後40分…余裕だな。」
髪をドライヤーで乾かしてからワックスで軽く整えて白いスーツジャケットに袖を通す。
俺の準備はこんなものだが…葵はどうするか…。
これから起こして準備をさせるとなると時間には遅れてしまう。
「帰る場所があるなら自由に帰れ。」と紙に書いてからテーブルに分かりやすいように置く。
多少心配だが…仕方がない。
寝ている葵をのままに家を出る。時間に遅れるということは相手につけ入る隙を与えてしまうのと同義…早すぎず遅すぎずがベスト。
「D」の指定したあの場所は決まってあの人が経営している喫茶店。
「甘味処~七竜~」
確か2か月前から店長が姿を消したと聞いたことがあるが……あくまで噂話だからついでに事の真相でも確かめてみよう。
堂々とした槁の1枚板の看板の下でメイドさんが竹ぼうきで掃除をしている。
「みどりさん、おはようございます。」
メイドさんはこちらを振り向いて微笑む。
「あら神代さん、おはようございます。お久しぶりですね。」
「そうですね…中々挨拶に来れず、すいませんでした。」
俺は頭を下げる。
「いえいえ、気にしないでください……それより…神代さん。」
「なんでしょう?」
「あの人から神代さんに何か連絡とかありませんでしたか?」
あの人からの連絡ということは…まだ戻ってきていないということ……。
「俺のところには何も…というか…行方不明というのは本当なんですね?」
「はい…恥ずかしながら…。」
恥ずかしながらとは…そりゃ考えたらそうだろう…『甘味処~七竜~』の店長が2か月も姿を見せないとは夜逃げと思われるかもしれないし店にとってマイナスのイメージが付いてしまう。
最悪、店が潰れてしまうかもしれない。
店長のあの人は何処に行ったのか…健気に店を守っているこの人をあの人はどう思っているのか…この人はこんなにも…。
「ちゃんと食べているのでしょうか?」
ん?
「ちゃんと相手に敬意を払っているでしょうか?」
おや?
「あの人、頭に血が上ると危険ですから…。」
え?
「ちゃんと手加減出来ているでしょうか?」
なんの心配なのだろう…?
「相手の方も相手を見てくれれば怪我をしないのですが…。」
どうやら、心配のベクトルが違うようだ。
…そう言えば…あの人に喧嘩を売った人は尽く潰されていると聞いた。
う~ん…ここは俺もあの人に対する人に向けて冥福を祈っておこう。
「…ところでみどりさん。この店で待ち合わせをしているのですが、店内に入ってもよろしいですか?」
「はい、どうぞ。」
店内の内看板「千の客よ万回来い!!」に目が引かれる。
凄い挑戦的だ…大人しく「千客万来」と書けばいいのに…。
窓側の席に座る。
ほどなくしてみどりさんがコーヒーを持ってきてくれた。
「神代さんはブラックで良かったですよね?」
「はい。」
ゆっくりしていってくださいね。と会釈をしてみどりさんは戻っていく。
仕事柄色々な人に会っているが…みどりさんの底が知れない。
笑顔を絶やさない優しい女性というのが一切崩れない…流石はチーム『七竜』の1人と言ったところか…。
運ばれたカップを手に取りハイローストの薫りを堪能してから口へと運ぶ…。
うまい…グアテマラ豆のキレのいい後味が癖になる。
……そろそろ時間か……。
待ち合わせの時間ピッタリに七竜のドアが開く。
その場には一組の男女。
女が男の腕に絡み豊満な胸に押し付けているが男は動じる様子もない。むしろそれが当然と言わんばかりに堂々としている。
その女と目が合い内心げっ!となる。
「あら桜華ちゃん、おはよう。」
ぱっと見てキャバ嬢の女…上から下まで全身ブランド物で固めている。
「なんでここにいるんだ夜?」
彼女の名前は 秋月 夜。俺の仲間の1人。
「そこでキング様と会ってね。」
目の前にどしっと座ってきた男は実に大柄で……葉巻を咥えている。
「久しいな神代。」
流暢な日本語を口にする澄んだ青い瞳と目が合う。
KING - D - 一
身長が190オーバーでボディービルダーを彷彿させるほどに筋肉が盛り上がっていて着ているスーツの上からでもガタイがいいと解る。
日本人とアメリカ人のクォーター。
ナンバーズの『1』
『One - KING』のリーダーにして世界を又にかける宝石商で尚且つ世界の豪商。
曰く『大統領の頬を札束で殴れる人。』と噂されているが自分は愛国心の塊だと豪語している。
「そんな危険な女の隣にいてよく平気だな。」
夜はむーっと頬を膨らませている。
「はっはっは!問題ない。彼女のコードネームも心得ている。確か『貧乏神』だったか。」
「知っているなら問題ないな。知らない男だったら気がつくとオケラ状態になっているだろうな。」
「全くもって問題ないな、私には分単位で億の金が入ってくるからな。」
どや顔で笑ってくれる…しかし…そこまで稼ぐなら税金が恐そうなものなんだがな…それも関係ないって態度だ…。
「失礼します、サー。」
キングと夜の前に俺と同じコーヒーを運んでくるみどりさんだが…俺の時と違って表情が堅い?
「おぉ、気が利くなクレア丁度喉が乾いてきたところだ。」
クレア?
「その名は捨てました。今は『みどり』です。」
「…ふむ、その両足と共に名も捨てたのか…。」
キングの言葉に反応したのか、瞬時にダガーナイフを首もとに向けていた。
刃渡り30センチ程のナイフを何処に隠し持っていたのか…というかもしかして常に携帯しているのか!?
「例えサーであろうともそれ以上言うならば容赦しません…刺し違えてでも突き刺します。」
殺意と憎しみに満ちた表情だったがキングは何処か涼しげだ…。
「困ったものだ…主人に刃を向けるとはな…。」
「私の主人は昔も今もただ1人です。」
みどりさんの真っ直ぐな瞳がキングに向けられる。
「…なるほど、今回はこちらが身を引こう友人の悲しむ顔は見たくないのでね。」
「そうしていただけると助かります。サー。」
みどりさんはダガーナイフをしまい会釈をして歩いていく……みどりさんの怒った顔……怖かった…いつも笑顔の人だったから……夜の奴もこっわ~…!って表情だ。
「やれやれ…クレアも我々と同じなのだがね…。」
ここにいる、キングとみどりさんと俺は同じ豪華客船に乗っていた。
当時からキングには会っていたがみどりさんと会ったのは最近だ。
「色々とあるんだろ…で?」
「で?とは?」
「俺に何か用事があるのだろう?それともただ昔話がしたいだけかい?」
「なぁに」とみどりさんに出されたコーヒーを一口。
「ふむ…相変わらずいい味を出す…神代…お前は私が呼んだ理由が解るのではないか?」
「察しはついてる。」
「その通りだが…シツコイのは紳士的ではないからな…今回で最後にしよう。」
「アレは渡さんぞ。」
「これでならどうだ?」
キングは指を1本立てる。
「いくら払おうとも渡さん。」
「ふむ…10億ドルでは不服か?」
…内心びっくりした。
ちょっと揺らぐ自分がいるのは否定しない。
「どうだ?最後のチャンスだ…アレは個人で所有するのは問題がある…我が母国にこそ在るべき代物だ。」
「…答えは変わらないと言ったら?力ずくか?」
「ふっ…それこそ紳士的ではないな…だが…必要ならば…。」
「必要なのか?」
キングはふぅ…とため息。
「…答えはNOだ。数少ない友人である君に手は出したくない…。」
彼の答えはもう知っていた…これはこっちがズルかったな…キングを困らせるつもりは無かったのだが…試す様な形になってしまった。
「実はこれから母国に帰る事になってな…いいバカンスだったからついでに聞いてみただけだ…。」
「そうか…次はいつ来るんだ?」
「さぁ…おばあちゃんが桜が見たいと言っていたから…春には来ようと思ってる。」
「相変わらずのおばあちゃんっ子だな。」
「おばあちゃんの知恵袋には世界が詰まっているからな!」
「そりゃ凄い知恵袋だな…。」
「おばあちゃんの母国日本の友人に挨拶が出来てよかったよ。あの男と会えなかったのは残念だが…。」
あの男は私以上に自由で羨ましい。
そう言ってキングは席を立つ。
「友人に手は出したくない。」と言っているキングだけど実際手を出されたら勝目は無いだろう…あの人もキングとは決着は着いていないと言っていた…そんな人に勝てる術もない訳で…。
「超えたい」と思ったことはあるが…「倒したい」と思ったことは1度もない。
そしてパソコンの前に戻ってくる。本来なら今日中に終わらせたかったのだが…後は帳簿に収支を記入して…残りは後でやろう。
脳神経が疲れているときはミスをしやすいから…寝て起きたときに終わらせよう。
幸いにも少しの間は仕事がないから…ゆっくり体を休ませよう。
「カミシロさーん。」
ゆっくり休むと言うことは出来ないかもしれん。
「おーい!カミシロさーん!」
パソコンを閉じ声の主の元へと歩く。
「なんだ?」……い!?」
そこには俺のYシャツ1枚姿の葵が頭にタオルを巻いていた。
「ドライヤーってどこ?」
「ドライヤーは引き出しに入ってるが…その格好。」
「服も下着も洗濯機の中だし…シャツはタンスの中の借りちゃった…ごめんね。」
薄っすらと二ヶ所のB地点が確認出来る…ということは…素肌にシャツ!?ならその下は……!?
俺の目線に気が付いたの葵は驚きの行動に出た。
「あー下はねー。」
自らYシャツをめくり上げ中身を見せつけてきた……………俺のボクサーパンツだった。
「これも勝手に借りちゃった。さすがに男物だねブカブカだよ。」
なんという環境適用能力……。
「はい。」
葵は俺に見つけたドライヤーを手渡す。
「ん?」
「乾かして。」
「なんで俺が!?」
「いいから!ほら!」
葵は頭のタオルを取って後ろを向く。火照った肌に湿った髪が艶っぽく見えが…。
めんどくせぇ………。
しぶしぶ、ドライヤーのコンセントを電源プラグに挿し込んで葵の後ろにまわる。
高圧、高速気流が売りのドライヤーのスイッチをいれる。
「おお!強い風!!」おーーーー強い強い。」
小学生のようにはしゃぐな……つい数分前に会ったばかりなのに…。
長い髪だから乾くのに時間がかかるな…予備として買っていた櫛も使いしっかりと乾かしていく。
「ねぇ…。」
ドライヤーの音にかき消されるようなか細い声が葵の口からでる。
「なんだ?まだ毛先の方が乾いてないぞ?」
「………。」
心なしか震えている。
「寒いのなら上着をもう1枚羽織ればいい。」
「…へ?」
風呂上がりとはいえYシャツだけでは体が冷える。「女は身体を冷やさない方がいい。」と何処かの誰かが言っていたような気がする。
ドライヤーのスイッチを切り洋服タンスへと向かう。
えーと……薄手のカーディガンが目に留まる……。
「これでいいか。」
何もないよりは随分とマシってものだろう。
葵の所への戻りさっき見つけたカーディガンを後ろからかける。
「暑くなったら脱げばいい。」
「………。」
「なんだもう暑いのか?」
「ううん、大丈夫ありがとう………。」
「そうか……。」
再びドライヤーのスイッチを入れて葵の髪を乾かす。
その後、数分ほど葵は無言だったが大人しくしていたのでやり易かった。
「よし、ちゃんと乾いたぞ。」
「本当に大丈夫?」
葵は自分の髪を丹念に触って乾いているかを確認しだした。
「うん、大丈夫だね!」
「当然だ。」
そろそろいい時間…というか眠い。葵には同じベッドで寝てもらって俺はソファーで寝ることにしよう。
身体を休ませるには横になるのが一番だと思っている俺。
薄めの掛布団を1枚用意してソファーで横になる。
「そこで寝ていいの?ベットで寝ない?」
「いい…お前もさっさと寝ろ。」
スマホで部屋の電気を消して目を閉じると直ぐに俺の意識は飛んでいった。
数時間後にパチッ!と 目が覚める。今の時間は…。
「……7時。」
スマホを見ると6時…59……7時。
俺の体内時計はほぼほぼ完璧だな……必ずこの時間に起きる。
あの女…葵は…彼女が寝ているベットに目を向けると
「スー……スー……。」
綺麗な寝息をたてて寝ている。
無理に起こすのはどうかと思ったので起こさないように静かに風呂場へと向かう。
シャワーを浴びながら…歯を磨いて今日の予定を考える。
葵を家に帰すのと……後は…どうするか……。
風呂場から出てタオルで頭を吹いているとスマホが点滅しているのに気が付く。
「なんだ…メールか?」
確認すると1通のメールが2分前に届いていた。
「本日AM8時 あの場所にて待つ D 」
「「D」……あの旦那からか……8時までは後40分…余裕だな。」
髪をドライヤーで乾かしてからワックスで軽く整えて白いスーツジャケットに袖を通す。
俺の準備はこんなものだが…葵はどうするか…。
これから起こして準備をさせるとなると時間には遅れてしまう。
「帰る場所があるなら自由に帰れ。」と紙に書いてからテーブルに分かりやすいように置く。
多少心配だが…仕方がない。
寝ている葵をのままに家を出る。時間に遅れるということは相手につけ入る隙を与えてしまうのと同義…早すぎず遅すぎずがベスト。
「D」の指定したあの場所は決まってあの人が経営している喫茶店。
「甘味処~七竜~」
確か2か月前から店長が姿を消したと聞いたことがあるが……あくまで噂話だからついでに事の真相でも確かめてみよう。
堂々とした槁の1枚板の看板の下でメイドさんが竹ぼうきで掃除をしている。
「みどりさん、おはようございます。」
メイドさんはこちらを振り向いて微笑む。
「あら神代さん、おはようございます。お久しぶりですね。」
「そうですね…中々挨拶に来れず、すいませんでした。」
俺は頭を下げる。
「いえいえ、気にしないでください……それより…神代さん。」
「なんでしょう?」
「あの人から神代さんに何か連絡とかありませんでしたか?」
あの人からの連絡ということは…まだ戻ってきていないということ……。
「俺のところには何も…というか…行方不明というのは本当なんですね?」
「はい…恥ずかしながら…。」
恥ずかしながらとは…そりゃ考えたらそうだろう…『甘味処~七竜~』の店長が2か月も姿を見せないとは夜逃げと思われるかもしれないし店にとってマイナスのイメージが付いてしまう。
最悪、店が潰れてしまうかもしれない。
店長のあの人は何処に行ったのか…健気に店を守っているこの人をあの人はどう思っているのか…この人はこんなにも…。
「ちゃんと食べているのでしょうか?」
ん?
「ちゃんと相手に敬意を払っているでしょうか?」
おや?
「あの人、頭に血が上ると危険ですから…。」
え?
「ちゃんと手加減出来ているでしょうか?」
なんの心配なのだろう…?
「相手の方も相手を見てくれれば怪我をしないのですが…。」
どうやら、心配のベクトルが違うようだ。
…そう言えば…あの人に喧嘩を売った人は尽く潰されていると聞いた。
う~ん…ここは俺もあの人に対する人に向けて冥福を祈っておこう。
「…ところでみどりさん。この店で待ち合わせをしているのですが、店内に入ってもよろしいですか?」
「はい、どうぞ。」
店内の内看板「千の客よ万回来い!!」に目が引かれる。
凄い挑戦的だ…大人しく「千客万来」と書けばいいのに…。
窓側の席に座る。
ほどなくしてみどりさんがコーヒーを持ってきてくれた。
「神代さんはブラックで良かったですよね?」
「はい。」
ゆっくりしていってくださいね。と会釈をしてみどりさんは戻っていく。
仕事柄色々な人に会っているが…みどりさんの底が知れない。
笑顔を絶やさない優しい女性というのが一切崩れない…流石はチーム『七竜』の1人と言ったところか…。
運ばれたカップを手に取りハイローストの薫りを堪能してから口へと運ぶ…。
うまい…グアテマラ豆のキレのいい後味が癖になる。
……そろそろ時間か……。
待ち合わせの時間ピッタリに七竜のドアが開く。
その場には一組の男女。
女が男の腕に絡み豊満な胸に押し付けているが男は動じる様子もない。むしろそれが当然と言わんばかりに堂々としている。
その女と目が合い内心げっ!となる。
「あら桜華ちゃん、おはよう。」
ぱっと見てキャバ嬢の女…上から下まで全身ブランド物で固めている。
「なんでここにいるんだ夜?」
彼女の名前は 秋月 夜。俺の仲間の1人。
「そこでキング様と会ってね。」
目の前にどしっと座ってきた男は実に大柄で……葉巻を咥えている。
「久しいな神代。」
流暢な日本語を口にする澄んだ青い瞳と目が合う。
KING - D - 一
身長が190オーバーでボディービルダーを彷彿させるほどに筋肉が盛り上がっていて着ているスーツの上からでもガタイがいいと解る。
日本人とアメリカ人のクォーター。
ナンバーズの『1』
『One - KING』のリーダーにして世界を又にかける宝石商で尚且つ世界の豪商。
曰く『大統領の頬を札束で殴れる人。』と噂されているが自分は愛国心の塊だと豪語している。
「そんな危険な女の隣にいてよく平気だな。」
夜はむーっと頬を膨らませている。
「はっはっは!問題ない。彼女のコードネームも心得ている。確か『貧乏神』だったか。」
「知っているなら問題ないな。知らない男だったら気がつくとオケラ状態になっているだろうな。」
「全くもって問題ないな、私には分単位で億の金が入ってくるからな。」
どや顔で笑ってくれる…しかし…そこまで稼ぐなら税金が恐そうなものなんだがな…それも関係ないって態度だ…。
「失礼します、サー。」
キングと夜の前に俺と同じコーヒーを運んでくるみどりさんだが…俺の時と違って表情が堅い?
「おぉ、気が利くなクレア丁度喉が乾いてきたところだ。」
クレア?
「その名は捨てました。今は『みどり』です。」
「…ふむ、その両足と共に名も捨てたのか…。」
キングの言葉に反応したのか、瞬時にダガーナイフを首もとに向けていた。
刃渡り30センチ程のナイフを何処に隠し持っていたのか…というかもしかして常に携帯しているのか!?
「例えサーであろうともそれ以上言うならば容赦しません…刺し違えてでも突き刺します。」
殺意と憎しみに満ちた表情だったがキングは何処か涼しげだ…。
「困ったものだ…主人に刃を向けるとはな…。」
「私の主人は昔も今もただ1人です。」
みどりさんの真っ直ぐな瞳がキングに向けられる。
「…なるほど、今回はこちらが身を引こう友人の悲しむ顔は見たくないのでね。」
「そうしていただけると助かります。サー。」
みどりさんはダガーナイフをしまい会釈をして歩いていく……みどりさんの怒った顔……怖かった…いつも笑顔の人だったから……夜の奴もこっわ~…!って表情だ。
「やれやれ…クレアも我々と同じなのだがね…。」
ここにいる、キングとみどりさんと俺は同じ豪華客船に乗っていた。
当時からキングには会っていたがみどりさんと会ったのは最近だ。
「色々とあるんだろ…で?」
「で?とは?」
「俺に何か用事があるのだろう?それともただ昔話がしたいだけかい?」
「なぁに」とみどりさんに出されたコーヒーを一口。
「ふむ…相変わらずいい味を出す…神代…お前は私が呼んだ理由が解るのではないか?」
「察しはついてる。」
「その通りだが…シツコイのは紳士的ではないからな…今回で最後にしよう。」
「アレは渡さんぞ。」
「これでならどうだ?」
キングは指を1本立てる。
「いくら払おうとも渡さん。」
「ふむ…10億ドルでは不服か?」
…内心びっくりした。
ちょっと揺らぐ自分がいるのは否定しない。
「どうだ?最後のチャンスだ…アレは個人で所有するのは問題がある…我が母国にこそ在るべき代物だ。」
「…答えは変わらないと言ったら?力ずくか?」
「ふっ…それこそ紳士的ではないな…だが…必要ならば…。」
「必要なのか?」
キングはふぅ…とため息。
「…答えはNOだ。数少ない友人である君に手は出したくない…。」
彼の答えはもう知っていた…これはこっちがズルかったな…キングを困らせるつもりは無かったのだが…試す様な形になってしまった。
「実はこれから母国に帰る事になってな…いいバカンスだったからついでに聞いてみただけだ…。」
「そうか…次はいつ来るんだ?」
「さぁ…おばあちゃんが桜が見たいと言っていたから…春には来ようと思ってる。」
「相変わらずのおばあちゃんっ子だな。」
「おばあちゃんの知恵袋には世界が詰まっているからな!」
「そりゃ凄い知恵袋だな…。」
「おばあちゃんの母国日本の友人に挨拶が出来てよかったよ。あの男と会えなかったのは残念だが…。」
あの男は私以上に自由で羨ましい。
そう言ってキングは席を立つ。
「友人に手は出したくない。」と言っているキングだけど実際手を出されたら勝目は無いだろう…あの人もキングとは決着は着いていないと言っていた…そんな人に勝てる術もない訳で…。
「超えたい」と思ったことはあるが…「倒したい」と思ったことは1度もない。
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