桜の死神とシンデレラ

佐々倉 桜

文字の大きさ
上 下
5 / 12
愉快な仲間。

その 1

しおりを挟む
 疑心暗鬼の目を向けられている。
 そりゃそうだ…目を覚ましたら知らないベットに知らない男だ……身の危険を感じない訳にもいくまい。

ぐぅぅぅぅ~~……。

「ん?」

「………。」

「食べるか?」

「………うん。」

 女は無造作にピザの一切れを手に取り口に入れる。

「うまっ。」

「カルボナーラも食べるか?」

「うん。」

 カルボナーラが入った紙皿 を手にフォークで器用に麺を巻き取り口に運ぶ。
 食べている間にキッチンへと行きグラスに氷を入れて戻ってくる。
 そんなに時間を掛けたつもりは無かったが…カルボナーラは完食されていた。
 何も食べてなかったのだろうか…?
 グラスに烏龍茶を注ぐと「ありがと。」と口にする。

 女はぐいっと烏龍茶を飲み干してから「ふぅ」とため息をついた。

「ねぇ、ここには1人で住んでるの?」

「あぁ俺1人だ。」

「こんな広い部屋で1人暮らしなんて…お金持ちなんだね…。」

「この部屋の窓から見える景色が好きだからな。」

「ふぅ~ん……もしかして親が医者とか……議員?」

 やけに聞いてくるな……余り身の上話は話したくは無いけど、勝手に家に連れてきてしまったし……仕方がない……。

「家族は…いないガキの頃に……な……。」

「あぁ……ごめん…。」

 察してくれたのか女のテンションが下がる。

「ねぇ事故だったの?それとも病気……とか?」

 死に方が事故や病気だったとしたらそちらの方が断然良かったと今でも思う。それで家族を亡くされた方には申し訳無いが…。

 俺の両親は…2人とも俺の目の前で殺された。家族での旅行中の出来事だった。
 父親の家族サービスという事で豪華客船での船旅。格安の部屋だったけど幼心には充分な部屋だった。

 晩御飯のバイキングを食べて部屋で寛いでいたときだった。
 自分が乗っていた船が海賊に襲われたんだ。自分はある人に助けられたが…母は鉈のような刃物で頭を割られ…父親は散弾銃の様なもので胸を打ち貫かれた。
 本来ならその様な所業を目のあたりにしたら心が壊れて廃人になったりする恐れがあるのだけれど…。
 いや、違う…確かにあの時の俺の心は壊れた…壊された…そんな俺を救ってくれた人がいた。
 その人のお陰で俺は助かったし…今も生きていけてる。
 その時のお礼をしたいと言っても「なんとかなるかな?と思ったらなんとかなっただけだから。」と返された。

「ふぅ~ん…凄い人だね…。」

「あぁ…本来ならこの部屋の住人になるハズだったんだが…「俺は見下ろすより見上げていたい。あぁ卑屈で言っている訳でないよ。常に目標は高く!ってね。」と断られた。」

「…そんな人…実際にいるなんて……ちょっと信じられないな…。」

 心なしか女の表情が曇る。

「で、次はお前の」

「ねえ、貴方の名前は?」

「は?」

「名前。名前が無いと呼べないでしょ?」

「そ…それはそうだが…。」

「そうでしょ。ね、教えて。」

「神代桜華だ…。」

「解った、カミシロさんね。」

「お前の名前は」

「悪いんだけどカミシロさん。お風呂貸して!」

「風呂?」

「そう!もう身体中ベトベトでさ!さっぱりしたいの!お願い。」

「風呂なら向こうのドアの先だ…。」

「ありがと!じゃ借りるね。」

 タッタッタ…バタン。

 完全にイニシアチブを握られてしまった。

 ガチャ。

 再び開いたドアから女が顔をだす。

「今度はなんだ?」

「葵。」

「あおい?」

「葵。私の名前。」

 そう言ってバタンとドアを閉めて女は姿を消した。

 …やれやれ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

夕立ち 改正版

深夜ラジオ
現代文学
「手だけ握らせて。それ以上は絶対にしないって約束するから。」  誰とも顔を合わせたくない、だけど一人で家にいるのは辛いという人たちが集まる夜だけ営業の喫茶店。年の差、境遇が全く違う在日コリアン男性との束の間の身を焦がす恋愛と40代という苦悩と葛藤を描く人生ストーリー。   ※スマートフォンでも読みやすいように改正しました。

アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1

七日町 糸
キャラ文芸
あの忌まわしい大戦争から遥かな時が過ぎ去ったころ・・・・・・・・・ 世界中では、かつての大戦に加わった軍艦たちを「歴史遺産」として動態復元、復元建造することが盛んになりつつあった。 そして、その艦を用いた海賊の活動も活発になっていくのである。 そんな中、「世界最強」との呼び声も高い提督がいた。 「アドミラル・トーゴーの生まれ変わり」とも言われたその女性提督の名は初霜実。 彼女はいつしか大きな敵に立ち向かうことになるのだった。 アルファポリスには初めて投降する作品です。 更新頻度は遅いですが、宜しくお願い致します。 Twitter等でつぶやく際の推奨ハッシュタグは「#初霜艦隊航海録」です。

京都かくりよあやかし書房

西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。 時が止まった明治の世界。 そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。 人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。 イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。 ※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

処理中です...