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決意の日まで

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 悟君はその日、蹴られたり小突かれたりしていた。僕が中途半端に止めるように言ったから…いや、言ってしまったから、悟君への行動がエスカレートしてしまったのだろう…。

 僕に対しては、藤田達から多少睨まれる程度だ…おそらく近藤翔太が僕が七梨さんと繋がっているということを話したと思う。
 あいつらは、弱いものにしか強く出れないのか?しかし、何故だろう?藤田達とは別に女子からのバッシングが酷かった…曰く「私の藤田君に何いってんの!?」だそうだ…女子達は違った意味で遠慮を知らないらしい…。
 堂々と目の前で言ってくる女子もいたが、「君が対象になっても同じことが言えるのか?」と言うと…。

「はぁ!?関係ないし!」

 高校生にもなってまともに質問にも答えられないなんて…あれ?どこかで聞いた台詞だな…。ところでいつも思うけど、何故、不良という悪がモテるのだろうか…。不良と付き合うというステータスはマイナスしかないと思うのだが…まぁ、十人十色。

 帰りのHRになり悟君が居ないことに気が付いた。それと藤田も居ない。僕はHRが終わると直ぐに悟君を探した。

 理科室 音楽室 体育館…学校中を探したが見当たらなかった。教室に戻ると鞄が無いが、悟君の荷物だけが残っている。荷物を全部置いていくような人ではないのでおかしいなと思った。

 一度、下駄箱を見にいってみる。

 うん?悟君の靴がない…知らない間に帰ったのか?それにしては…何か違和感があるー…ん?あれは…。

 玄関口から藤田メンバーが歩いてる。帰宅部の彼らが残る理由はないだろうし、向かう方向も違う…もしやと思い僕は彼らの後をつけた。すると体育館の裏に着いた。

 体育館の裏には林で囲まれていて人気もなく、授業以外ではほとんど人が近寄らない倉庫がある。藤田メンバーはぞろぞろとそのなかに入っていく。

 僕はどうにか中を覗けないか周りを探す。建物の裏に回ってみると丁度いい穴が空いていたので覗いてみた。

「チョ~(語尾上がり)し!のってんじゃーね~(語尾上がり)ぞ!こら~!!」
 藤田な叫びと共に悟君は腹を蹴られた。

 倒れた悟君の姿はボロボロだ…藤田は悟君の髪を掴んで無理やり立た耳元に顔を近づけた。

「金だよ!金!!金金金!!金持ってこいよ!迷惑料だよ!慰謝料!てめぇの存在が迷惑なんだよ!!」

 なんて、馬鹿げたこと叫んでいるんだ、迷惑なのは悟君の方だろうに…。

「あ~!そうだ!悟ちゃん~確か可愛い妹いるよな?」

悟君がビクッとなる。

「その妹とヤラせろ!あと聞いたぜ?お前の母さんスゲー若くてキレイなんだろ!どっちでもいいぜ!」

 耳を疑った、コイツは人間か!?藤田は自らがイジメている男の妹と母親を抱かせろと言っている。それに対する周りの反応もいつもと変わらず「マジで~」「ウケる~」 

「じゃないと迷惑料追加10万な!断れば死刑!全裸サンドバッグな!」

 藤田は悟君を投げ飛ばし、落ちている鞄から悟君の教科書を取り出す。

「俺、この歌好きなんだよね、大人の~作った教~科書を~破り捨てろ~♪」
 藤田は教科書を、破り悟君へと投げる。
「お前もこうなりたくなかったら、金持って二人連れてこいよ俺が相手をしてやっからよ!ハハハ!」

「うわ~!!」

 悟君は泣きながら藤田に向かっていくが、藤田にあっけなく転ばされて仲間達に踏まれる。

「だぁ~かぁ~らぁ~!ちょ~(語尾上がり)しのってんじゃね~の!」

 数分間踏まれ続けられた悟君は動かなくなった。
「取り合えず、妹のパンツと30万今月中な!」

「マジでパンツなのかよ~しかも、金額増えてるし」
「俺は言ったことは曲げねぇ!絶対にな!」

  キメ顔をしているが、言っていることは最低だ。

「コイツの妹と母親をマワしまくった後で録画して売りさばくぜ!飽きたら二人ともお前らにくれてやるよ~!」
「マジかよ~♪」
「ウケる~」

 藤田達は笑いながら倉庫から出ていく、僕は怒りでどうにかなりそうだったが「ケンカ禁止な!」と七梨さんとの約束が頭を過る。

 泣きながら倒れている悟君を見ると心が痛くて裂けそうになった。

 僕は真っ直ぐ七梨さんの所へと向かった。ここまで人を殴りたいと思ったのは初めてだ。

 七梨さんの店が見えてきた、僕は勢いよくその扉を開ける。

「七梨さん!いますか!?」

 七梨さんの姿を探そうと店内を見渡すととんでもないことが起きていた。

 店のほぼ中央のテーブル席辺り、七梨さんと誰か背の高い筋肉質の人が睨み合いをしている。その他にジャージの男性二人、あと通路上には女性がうずくまっており、みどりさんが介抱してギャラリーがそれを囲んでいる状態。

 え?なにがあったんだ?

「あっ!君!危ないから下がってな!」
「え?」

 僕に話しかけてきたのは前回ここで会ったというか見た人。金髪のホストのようなお兄さんだった。

「この間、七梨さんといた少年だよね?」
「はい、あの何があったのですか?僕は七梨さんに急ぎの用事があるんです!」

ゴン!!

 鈍い音の後にギャラリーからの歓声があがる。

「!?」
「!?」

 僕と金髪のお兄さんは同時にその方向を向く。

 七梨さんと相手の人がクロスカウンターで殴っている状態だったが、数秒後に相手が気を失ったのか膝をついて頭から倒れた。

「相手方のお帰りだ!道を開けな!」

 七梨さんが周りに向かって叫ぶとギャラリーが道を開け、どことなく帰れコールが聞こえてくる。

 倒れた相手は仲間におんぶをされて店を出ていく、僕の隣をすれ違うときに顔を見たが某国の足技主体の格闘家でその長めの手足で何故か日本人に強いので「日本人キラー」と呼ばれている有名選手だ。白目を向いているが何より顎に目がいった。赤黒く腫れている…あれは骨折してるな。

「おう、正義よくきたな、ゆっくりしていきな」
「七梨さん!何があったんですか?」
「あぁ、話すと長いけどな、あとお前もそろそろ仕事だろ?」

 七梨さんは金髪の人を帰らすと「ふー、ちと不完全燃焼だな」そう話す七梨さんの顔はどこかスッキリとしている。

 なんでも、近いうちに格闘技トーナメントが開催されるらしく、先ほどの選手は早めに来日して身体の調整をしていたそうだ、そしてたまたまこの店に来たそうだが…あの顎では…参加は絶望的だろうなぁ。

「あのヤロー、日本人は犬だといいやがる、んで俺の仲間の女に俺が主人でお前は犬だから躾してやると手だしやがったから…格の違いを教えてやったのさ」

「でも、相手は日本人キラーと呼ばれる人でしたよね?よく無事でしたね」

「あぁ、確かに腕の長さはちょっと長いが…指伸ばしたら俺の方が長いしな」

 仲間に運ばれていく時のあの顎の怪我は七梨さんの指が当たったのか…そう言えば七梨さん話してたな「気分が良ければ指でコンクリ砕けるぜ!」…まさか、本当だったのか…。

「俺に何か用か?けど少し待ってくれないか、さっきの女の手当てしてくるから適当な場所で座っていてくれ」

 そういうと、七梨さんは踞っている女性と奥へと進んでいく。僕は空いている席を探していると、みどりさんが話しかけてきた。こうして改めてみどりさんをみると…凄い美人さんだ…緊張してしまってぎこちなくなる。

「いらっしゃい、正義君」

「こ、こんにちは」

「こちらへどうぞ」

 みどりさんの案内された場所に座る。

「七梨さんはもうすぐ来るから待っていてね」
「はい、分かりました」

 やはり、綺麗だけどメイド服は気になるなぁ…と思っていたら、みどりさんは僕に軽く会釈をして直ぐに仕事に戻っていった。

5分たっただろうか、七梨さんが珈琲を2人分持って歩いてきた。

「悪かったな、遅れた」

 持っている珈琲を僕の前に置き、七梨さんも目の前の席に座る。

「で、何か用か?」

「ありがとうございます、実は…」

 僕は包み隠さず、全て話した。藤田の変貌から悟君への被害、そして人を殴りたい衝動を押さえきれないということを七梨さんは無言で珈琲を飲みながら聞いている。

「正木義人、あれほどケンカ禁止と言ったのに人を殴りたいってのか?」

「はい」

「駄目だ」

「え?」

 まさかの一言で僕は固まってしまった。七梨さんなら解ってくれると思っていたからこの答えは予想出来なかった。
「お前を鍛えたのは俺だからな、正義お前のことは一番理解してる」
「僕では、相手にならないのでしょうか?」
「いや、逆だよ正義、お前が強すぎるんだ。このままお前が暴れるとただの暴力となりお前がイジメっこ側になる」
「しかし、このままだと悟君が」
「俺との約束は覚えてるか?」
「…約束は覚えています…」
「今のお前は同年代と比べて頭二つ分は飛び出ているんだ、そういうふうに俺が鍛えたんだ…逆にそうなっていないなら1から鍛え直しだがな…」

 七梨さんとのトレーニングを思い出すと胸の傷が疼く。しかし、ならどうしたらいいんだ?正に手も足もでない…。

「だから、お前じゃなければいいんだ」

「はい?」

七梨さんはニヤっと笑う。
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