52 / 97
第52話 沼男
しおりを挟む セシルの眉が上がり、彼が私に怒っていると言う事に気が付いた。
「セシル?もしかして…私の事怒っているの?私、何か貴方を怒らせるような事をしてしまったのかしら?」
折角、今回のフィリップとの結婚でセシルとの距離も少しは近づけたと思っていたのに。それは私の独りよがりだったのだろうか?
彼は怒気を含んだ声で私に言った。
「ああ、あるね。エルザは今、非常に俺を苛立たせる発言をした。一体どういうつもりで今の発言をしたんだ?」
「どういうつもりって…あ、もしかして特にする事もなかったから…と言った事に対して苛立っているの?」
それしか心当たりが無い。
「そうだ。よく分っているじゃないか。特にする事も無かった?それはあり得ないだろう?あれだけ俺が反対してもエルザはこの家に嫁いで来たんだ。だとしたら男爵家の妻として、色々やらなければならない事があるはずだろう?」
「そ、それは…」
私だって考えていた事だ。男爵家に嫁いで来たのだから、領地の事だって色々教えて貰わなければ分らないことだらけだ。
「第一、何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ないんだ?そんなにエルザは俺達と交流するのが嫌なのか?」
何も事情を知らないセシルは苛立ちを隠す事も無く、問い詰めて来る。
「あ…そ、それは…」
彼の言う事は尤もだと言うのは良く分っている。
けれど私はフィリップから勝手に本館へ行く事を禁じられているし、会話だってまともに交わす事が出来ない状態だ。
それどころか、結婚したその日のうちに離婚届を手渡されたのだから。
けれど…自分の置かれた状況をセシルには説明する気にはなれなかった。そんな事を言えば、彼の事だ。
<ほら、だから俺は2人の結婚に反対だったんだ>
そう言うに決まっている。
「何だ?図星を差されて何も言い返せないのか?」
彼は腕組みをすると上から見下ろして来た。
「あ、あの…今朝フィリップが本宅へ行ったでしょう?」
恐る恐る尋ねてみた。
「本宅?何だよ?その言い方は…。まぁ、別にいいけどな」
セシルは呆れた顔を見せると、言葉を続けた。
「兄さんなら昨日も今朝も1人で両親と俺に挨拶をしにきた。両親はエルザがいなかったから兄さんに理由を尋ねたんだよ」
「そうなのね?フィリップは何と説明したの?」
「君は…気分が優れないから、暫くは誰とも関わりたくないので放っておいて欲しいと兄から伝えてもらうように頼んだそうじゃないか?」
「え?!」
そんな…フィリップは私に正式な妻ではないのだから、勝手に本館へは行かないようにと言ったのに?
「それなのに…何だ?特にする事もなかったから刺繍をしていたって…」
セシルは私が刺繍していたハンカチを忌々し気に見た。
「あ、あの…それは…」
どうしよう?本当の事を言うべきなのだろうか?けれど、言えば絶対にフィリップの耳に入ってしまう。それ以前にセシルは私の話を恐らく信じてはくれないだろう。
「どうした?言いたい事があれば言ってみろよ?」
彼に詰め寄られたその時―
「あ、ここにいたのかい?セシル」
不意に声が聞こえ、驚いて振り向くと扉近くにフィリップが立っていた。
「あ…兄さん」
「セシルが離れに来ていると使用人から聞いたから、もしやと思って来てみたけど…やっぱりここに来ていたんだね?」
フィリップは部屋に入って来るとセシルに声をかけた。
「ああ、そうだよ。エルザに何故挨拶に来ないか、直接話を聞く為にね」
セシルは私を睨みつけている。
フィリップ…お願い、貴方から本当の事を説明して頂戴。
私は祈るような気持ちでフィリップを見たのだが…。
「エルザには理由を尋ねておくよ。それより僕の部屋に来ないか?美味しい茶葉があるんだ」
フィリップは笑顔でセシルに言う。
「分ったよ…なら、エルザも一緒に…」
セシルは私の方をチラリと見た。
「ああ、エルザはいいんだよ。昨日から食欲もないから、きっとお茶を飲むのも無理だと思うから」
「え…?わ、分ったよ」
セシルは一瞬怪訝そうな顔を見せたけれどもすぐに頷いた。
「良かった、ならすぐに行こう」
そしてフィリップは一度も私に声を掛ける事も…視線を合わす事も無く、セシルを連れて部屋から出て行った。
バタン…
扉は閉ざされ、私はまた1人きりになってしまった。
「…セシルには笑顔を向けるのね…。それに…私はフィリップの部屋に行った事も無ければ、場所も知らないと言うのに…」
その時、再び胃がズキリと痛んだ。
「う…」
私は椅子に座ると、目を閉じ…痛みが引いて行くのをじっと待った―。
「セシル?もしかして…私の事怒っているの?私、何か貴方を怒らせるような事をしてしまったのかしら?」
折角、今回のフィリップとの結婚でセシルとの距離も少しは近づけたと思っていたのに。それは私の独りよがりだったのだろうか?
彼は怒気を含んだ声で私に言った。
「ああ、あるね。エルザは今、非常に俺を苛立たせる発言をした。一体どういうつもりで今の発言をしたんだ?」
「どういうつもりって…あ、もしかして特にする事もなかったから…と言った事に対して苛立っているの?」
それしか心当たりが無い。
「そうだ。よく分っているじゃないか。特にする事も無かった?それはあり得ないだろう?あれだけ俺が反対してもエルザはこの家に嫁いで来たんだ。だとしたら男爵家の妻として、色々やらなければならない事があるはずだろう?」
「そ、それは…」
私だって考えていた事だ。男爵家に嫁いで来たのだから、領地の事だって色々教えて貰わなければ分らないことだらけだ。
「第一、何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ないんだ?そんなにエルザは俺達と交流するのが嫌なのか?」
何も事情を知らないセシルは苛立ちを隠す事も無く、問い詰めて来る。
「あ…そ、それは…」
彼の言う事は尤もだと言うのは良く分っている。
けれど私はフィリップから勝手に本館へ行く事を禁じられているし、会話だってまともに交わす事が出来ない状態だ。
それどころか、結婚したその日のうちに離婚届を手渡されたのだから。
けれど…自分の置かれた状況をセシルには説明する気にはなれなかった。そんな事を言えば、彼の事だ。
<ほら、だから俺は2人の結婚に反対だったんだ>
そう言うに決まっている。
「何だ?図星を差されて何も言い返せないのか?」
彼は腕組みをすると上から見下ろして来た。
「あ、あの…今朝フィリップが本宅へ行ったでしょう?」
恐る恐る尋ねてみた。
「本宅?何だよ?その言い方は…。まぁ、別にいいけどな」
セシルは呆れた顔を見せると、言葉を続けた。
「兄さんなら昨日も今朝も1人で両親と俺に挨拶をしにきた。両親はエルザがいなかったから兄さんに理由を尋ねたんだよ」
「そうなのね?フィリップは何と説明したの?」
「君は…気分が優れないから、暫くは誰とも関わりたくないので放っておいて欲しいと兄から伝えてもらうように頼んだそうじゃないか?」
「え?!」
そんな…フィリップは私に正式な妻ではないのだから、勝手に本館へは行かないようにと言ったのに?
「それなのに…何だ?特にする事もなかったから刺繍をしていたって…」
セシルは私が刺繍していたハンカチを忌々し気に見た。
「あ、あの…それは…」
どうしよう?本当の事を言うべきなのだろうか?けれど、言えば絶対にフィリップの耳に入ってしまう。それ以前にセシルは私の話を恐らく信じてはくれないだろう。
「どうした?言いたい事があれば言ってみろよ?」
彼に詰め寄られたその時―
「あ、ここにいたのかい?セシル」
不意に声が聞こえ、驚いて振り向くと扉近くにフィリップが立っていた。
「あ…兄さん」
「セシルが離れに来ていると使用人から聞いたから、もしやと思って来てみたけど…やっぱりここに来ていたんだね?」
フィリップは部屋に入って来るとセシルに声をかけた。
「ああ、そうだよ。エルザに何故挨拶に来ないか、直接話を聞く為にね」
セシルは私を睨みつけている。
フィリップ…お願い、貴方から本当の事を説明して頂戴。
私は祈るような気持ちでフィリップを見たのだが…。
「エルザには理由を尋ねておくよ。それより僕の部屋に来ないか?美味しい茶葉があるんだ」
フィリップは笑顔でセシルに言う。
「分ったよ…なら、エルザも一緒に…」
セシルは私の方をチラリと見た。
「ああ、エルザはいいんだよ。昨日から食欲もないから、きっとお茶を飲むのも無理だと思うから」
「え…?わ、分ったよ」
セシルは一瞬怪訝そうな顔を見せたけれどもすぐに頷いた。
「良かった、ならすぐに行こう」
そしてフィリップは一度も私に声を掛ける事も…視線を合わす事も無く、セシルを連れて部屋から出て行った。
バタン…
扉は閉ざされ、私はまた1人きりになってしまった。
「…セシルには笑顔を向けるのね…。それに…私はフィリップの部屋に行った事も無ければ、場所も知らないと言うのに…」
その時、再び胃がズキリと痛んだ。
「う…」
私は椅子に座ると、目を閉じ…痛みが引いて行くのをじっと待った―。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
十二英雄伝 -魔人機大戦英雄譚、泣かない悪魔と鉄の王-
園島義船(ぷるっと企画)
ファンタジー
【重要」なろうでの掲載を再開しました。今後はなろうで連載再開予定です。たぶんゲーム版も作ると思うので、そちらでやってくださっても大丈夫です!
https://ncode.syosetu.com/n2754if/
※シェイク・エターナルの建国までを描いた「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」を連載中です。現在は、気分転換にそちらをメインに更新しています。そのため本編の更新は少し休憩中です(たまにアップしますが)
ガネリア動乱後から約一年、悪魔となったゼッカーの下に次々と力が集まっていく。
現在のテクノロジーを遥かに凌駕する賢人の遺産、それを守るメラキ〈知者〉たち。
そして、純然たる力たるバーン〈人を焼く者〉たち。
その新しい悪魔の組織をラーバーン〈世界を燃やす者たち〉と呼ぶ。
ゼッカーを主席とした最強の悪魔の軍勢である。
彼らが最初に向かった先は、常任理事国の一つであり世界一の経済大国であるダマスカス共和国。
そこでは全世界から各国元首が集まる世界連盟会議が行われていた。
同じく常任理事国であり世界最大の軍事国家ルシア帝国、ルシア帝国と肩を並べる強国シェイク・エターナル連合国、世界の信仰を一手に集めるロイゼン神聖王国、世界最先端技術を有する偉大なる箱庭、グレート・ガーデン。
そんな相手にゼッカー・フランツェン率いるラーバーン〈世界を燃やす者たち〉は動き出す。
この日、【世界が分かれた日】と呼ばれるこの日から、世界は激動の歴史を迎える。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自由を求めて戦った十二人の英雄たちと、浄化のために世界を燃やしたラーバーンとの戦いが第一次魔人機大戦を通じて描かれる、エピソード0の「ハーレム殿下」の正式続編。
愛と宿命の螺旋に翻弄されながらも必死に生きる英雄という名の者たちの物語。
「ぷるっと企画」燃焼系シリーズ。燃焼系ドラマチックロボットファンタジー戦記シリーズ、エピソード①本編。(PCゲーム「ハーレム殿下」の続編)
※シリーズもので細かい世界観が存在していますので、これ以外の情報は別個投稿している「燃焼系データベース」をごらんください。
※アルファポリス様は、最後の投稿の下に感想が出るので、世界観に浸ってもらうために感想受付を無しにしています。ご意見、ご感想等はブログなどでいただければ嬉しいです。
https://puruttokikaku.muragon.com/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる