上 下
120 / 173
後編

憧れのヒーロー

しおりを挟む
 藺檻槐はまだ小さい頃から素行が良くないことで有名だった。
 小学校の頃からタバコを吸い、シンナーや薬をやり盗みをして度々人にケガをさせた。

 初めて逮捕されたのは中学1年の時。その時にはすでに柄の悪い大人と付き合いがあり、ある詐欺事件に関わっていた。
 まだ中学生の槐は留置場に20日勾留された後、約1ヶ月鑑別所に収容され家に帰らされた。
 しかし槐が自宅のアパートに帰ると、もうそこには誰も住んでいなかった。
 親は槐を見捨て何も言わず逃げてしまったのだ。

 悲しくはなかった。槐は槐なりに理解した。

 いつか見つけたら半殺しにしてやると心に誓った。

 しかし13歳の少女は当然生きていくということに行き詰まった。住む所もなければ自分の物など着ている服位で学校にだって行けなかった。

 結果空き家に勝手に入って寝泊まりし食べる物も全て万引きで済ましていた。

 槐が捨てられたことはすぐに噂が広まり、同級生とすれ違えば指を差された。
 親に捨てられたことなど屁とも思わなかったが後ろ指を差されるのは惨めだった。
 だからいつも自分に指を差す奴は捕まえて泣きわめいて謝るまでボコボコにした。
 そんなだからその内またすぐ捕まり次は少年院に半年送致された。

 自分は自分の名誉を守っただけだ。なのに社会は自分をつま弾きにした。

 少年院を出ると施設に預けられることになった。衣食住ある上に学校も通わせてくれるらしく文句はなかった。

 だがそこは大阪でもかなり治安の悪い地区で学校でも不良が多く、他からやってきた自分はかなり目を付けられた。

 結局こうなる。どこへ行っても自分のような者はこうして迫害を受け、安息の場所などないのだろう。
 生きてる限りは舐められたら終わりだ。

 舐められたらまた後ろ指差されて終わり。

 あの日はそれが嫌で、絡んできた年上のグループの1人に殴り返してしまったのだ。
 すると相手はまるで虫に群がる蟻のように大人数でかかってきた。

 その女と出会ったのはその時だった。

 同い年位の女で、ダッサいエプロンをしながらママチャリに乗っていた。

 どうやら買い物をしてきたらしく自転車のカゴは満ぱんでハンドルにもパンパンのecoバックを両側にかけていた。

『おい、やめたれや』

 女は注意しに来てくれたようだ。

 やめてやれなんて人から言ってもらったのは初めてだった。
 それは嬉しかったが正直アホだなぁとしか思えなかった。
 こんな大人数の不良相手にいい人ぶってかわいそうに。やられて終わりだ。

 しかし槐が次に見た光景は思いもよらないものだった。

『は?』

 まるで特撮ヒーローのテレビを見ているようだった。
 その女は袖をまくると、たった1人で何人いたのかも分からない不良たちを次々に蹴散らし結局全員やっつけてしまったのだ。

『…は?』

 最後の1人をなぎ倒すと女は慌ただしい様子で槐に向かってきた。

『大丈夫か!?今○✕△□○△□…!!』

 と、何を言っているのか分からないまま槐は自転車の後ろに乗せられ、その女の家まで連れていかれた。
 どうやら女は

『今急いでんねん!鍋に火ぃ入れたまま来てしもたんや!詳しい話は後や!早よ乗り!あ~焦げたら終わりや~。えらいこっちゃ~』

 と言っていたらしい。

 結局その妹と居候の女が気づいて火は止めたらしく、その2人が手当てもしてくれた後ご飯まで食べさせてくれた。

 そして食べ終わった後彼女は言った。

『で!君誰なん?』

 この女はアホ。槐は思った。

 でもめちゃくちゃ強くてカッコいい。

 生きてる限りは舐められたら終わり。そんな世界で戦って勝つことがそんなにカッコいいものと教えてくれたのは、いつもその人だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(ほぼ)5分で読める怖い話

アタリメ部長
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

創作中

渋谷かな
青春
これはドリームコンテスト用に部活モノの青春モノです。 今まで多々タイトルを分けてしまったのが、失敗。 過去作を無駄にしないように合併? 合成? 統合? を試してみよう。 これは第2期を書いている時に思いついた発想の転換です。 女子高生の2人のショートコントでどうぞ。 「ねえねえ! ライブ、行かない?」 「いいね! 誰のコンサート? ジャニーズ? 乃木坂48?」 「違うわよ。」 「じゃあ、誰のライブよ?」 「ライト文芸部よ。略して、ライブ。被ると申し訳ないから、!?を付けといたわ。」 「なんじゃそりゃ!?」 「どうもありがとうございました。」 こちら、元々の「軽い!? 文芸部」時代のあらすじ。 「きれい!」 「カワイイ!」 「いい匂いがする!」 「美味しそう!」  一人の少女が歩いていた。周りの人間が見とれるほどの存在感だった。 「あの人は誰!?」 「あの人は、カロヤカさんよ。」 「カロヤカさん?」  彼女の名前は、軽井沢花。絶対無敵、才色兼備、文武両道、信号無視、絶対無二の存在である神である。人は彼女のことを、カロヤカさんと呼ぶ。 今まで多々タイトルを分けてしまったのが、失敗。 過去作を無駄にしないように合併? 合成? 統合? を試してみよう。 これからは、1つのタイトル「ライブ!? 軽い文学部の話」で統一しよう。

【完結】君が消えた仮想世界と僕が願った並行世界

ユキノ
青春
 ローファンタジーアニメの設計図。30分尺のシナリオが1クール分。 理系アニメオタクがろくに読んだこともないのに小説を書いたらこうなった。  ◆魂の入れ替わり  ◆心の声を聞く力  ◆予知能力!?  ◆記憶の干渉における時間の非連続性  ◆タイムリープ  ◆過去改変の観測  ◆異能力バトらない!?

スキル【疲れ知らず】を会得した俺は、人々を救う。

あおいろ
ファンタジー
主人公ーヒルフェは、唯一の家族である祖母を失くした。 彼女の葬式の真っ只中で、蒸発した両親の借金を取り立てに来た男に連れ去られてしまい、齢五歳で奴隷と成り果てる。 それから彼は、十年も劣悪な環境で働かされた。 だが、ある日に突然、そんな地獄から解放され、一度も会った事もなかった祖父のもとに引き取られていく。 その身には、奇妙なスキル【疲れ知らず】を宿して。

バス・ドライバー日記

深町珠
青春
愛紗は、18歳で故郷を離れ、バスガイドとして働いていたが 年々不足する路線バスドライバーとして乗務する事を志願。 鉄道運転士への憧れが、どこかにあったのかもしれない。 しかし、過酷な任務。女子であるが故の危険性。会社は 長閑な田舎への転属が適当ではないかと判断する。 複雑な感情を抱き、彼女は一週間の休暇を申し出、帰郷する。 友人達と共に旅しながら、少しづつ、気持ちを開放していく愛紗。 様々な出会いがあり、別れを経験して・・・。 現役路線バスドライバーであった方の手記から、現実を背景に描く セミドキュメンタリードラマ。 日生愛紗(21):バスガイド=>ドライバーへ転身中 藤野友里恵(20):同僚ガイド 青島由香(20):同僚ガイド。友里恵の親友。 石川菜由(21):愛紗の親友。寿退社=>主婦 日光真由美(19):人吉車掌区乗務員。車掌補。 荻恵:21歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 坂倉真由美:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 三芳らら:15歳。立野在住。熊本高校の学生、猫が好き。 鈴木朋恵:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 板倉裕子:20歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 日高パトリシアかずみ:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区、客室乗務員。 坂倉奈緒美:16歳。熊本在住。熊本高校の学生、三芳ららの友達・坂倉真由美の妹。 橋本理沙:25歳。大分在住。国鉄大分機関区、機関士。 三井洋子:21歳。大分在住。国鉄大分車掌区。車掌。 松井文子:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区。客室乗務員。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常

坂餅
青春
毎日更新 一話一話が短いのでサクッと読める作品です。 水原涼香(みずはらりょうか) 黒髪ロングに左目尻ほくろのスレンダーなクールビューティー。下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。同級生達からは問題児扱い。涼音の可愛さは全人類が知るべきことだと思っている。 檜山涼音(ひやますずね) 茶色に染められた長い髪をおさげにしており、クリっとした目はとても可愛らしい。その愛らしい見た目は、この学校で可愛い子は? と言えばすぐ名前が上がる程の可愛さ。涼香がいればそれでいいと思っている節がある。 柏木菜々美(かしわぎななみ) 肩口まで伸びてた赤毛の少し釣り目な女子生徒。ここねが世界で一可愛い。 自分がここねといちゃついているのに、他の人がいちゃついているのを見ると顔を真っ赤にして照れたり逃げ出したり爆発する。 基本的にいちゃついているところを見られても真っ赤になったり爆発したりする。 残念美人。 芹澤ここね(せりざわここね) 黒のサイドテールの小柄な体躯に真面目な生徒。目が大きく、小動物のような思わず守ってあげたくなる雰囲気がある。可愛い。ここねの頭を撫でるために今日も争いが繰り広げられているとかいないとか。菜々美が大好き。人前でもいちゃつける人。 綾瀬彩(あやせあや) ウェーブがかったベージュの髪。セミロング。 成績優秀。可愛い顔をしているのだが、常に機嫌が悪そうな顔をしている、決して菜々美と涼香のせいで機嫌が悪い顔をしているわけではない。決して涼香のせいではない。なぜかフルネームで呼ばれる。夏美とよく一緒にいる。 伊藤夏美(いとうなつみ) 彩の真似をして髪の毛をベージュに染めている。髪型まで同じにしたら彩が怒るからボブヘアーにパーマをあててウェーブさせている 彩と同じ中学出身。彩を追ってこの高校に入学した。 元々は引っ込み思案な性格だったが、堂々としている彩に憧れて、彩の隣に立てるようにと頑張っている。 綺麗な顔立ちの子。 春田若菜(はるたわかな) 黒髪ショートカットのバスケ部。涼香と三年間同じクラスの猛者。 なんとなくの雰囲気でそれっぽいことを言える。涼香と三年間同じクラスで過ごしただけのことはある。 涼香が躓いて放った宙を舞う割れ物は若菜がキャッチする。 チャリ通。

処理中です...