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後編

魔神再び

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 煌は遠目から愛羽と瞬のタイマンを見ていた。

 愛羽は倒れても倒れても向かっていき、瞬は眉を悲しげにハの字に曲げ目を潤ませ唇を噛みしめながら、それでも愛羽をふっ飛ばした。

 今にも泣き出しそうな瞬に向かって愛羽はニコリと笑いかけた。

(あのガキ…)

 大丈夫大丈夫。全然気にしないで遠慮なく打ってこいと言わんばかりに愛羽は表情を変えなかった。

 そんな訳はない。聞けば相手は噂のドーピングを使っているはず。その重さと不自然さはやはり遠目からでも見ていて分かる。受けているダメージは確かだろう。

 それでも人質が取られている以上やめられない瞬。勝手に体が動き仲間を殴り、それをその目でずっと見続けなければならない辛さは見るに耐えなかった。

(あぁ…なんて悲しいタイマンや…そうやない。あんたが見せた目や、あのワクワクはそんなんとちゃうねん…)

 煌は吸い寄せられるようにフラッと歩いていった。



『ゲホッゲホッゲホッ…』

 愛羽は激しく咳こんだ。そしてまた立ち上がるとすぐにまた向かっていく。

 泪を守る為に。

 瞬を守る為に。

 四阿は乱闘の中、風雅と戦いながらも瞬を見張っている。

『雪ノ瀬ぇ!!そんなガキに手こずってんじゃねぇ!そんなに電話させてぇか!』

 四阿が怒鳴り声をあげる度に瞬が怯えるのが分かる。

(許せない…)

 自分が負けたら瞬が他の誰かを傷つけなければならなくなる。ツラくなるのは瞬だ。きっと今も自分のことを責めている。
 だから愛羽は負けられない。

 ところが急に誰かに襟を引っ張られたかと思うとそのまま後ろに投げ飛ばされた。
 目の前には煌が立っていた。

『このくそガキ!こいつはウチのターゲットや言うたやろ!それを差し置いてケンカもろくにでけへんのに何でしゃばっとんねん!向こう行っとき!ドチビが!』

 煌は強めの口調で喋りながら振り向き、あごで眩や玲璃たちの方を促すと最後に愛羽にだけ見えるようにウインクした。

『煌…さん?』

『分かったらさっさと行き!もう状況変わっとんねん!』

『あ、は、はい!』

 言われて愛羽は慌てて走っていった。

『なんで、君がここに…』

 瞬は全く状況を理解できずにいた。大阪の時に相手をしたあの派手な姉妹の高飛車な妹がどういう訳かここにいる。

『これはこれは麗しの私のターゲットちゃん。今言った通り、今日はあなたをぶっ殺しに来たの。決着をつけにね』

 しかも何故か分からないが愛羽たちと一緒に来ているらしい。

『ほら、考えてる暇はないのよ!』

 煌は走りだし飛び上がると横回転しながら勢いをつけた蹴りを放った。かなりアクロバティックな技だがほんの小手調べである。
 やはり手応えが鈍い。それに痛みを感じないというのも本当らしい。

『へぇ…おもしろい』

『え?』

『なんでもないわよ!ほらどうしたの?かかってこれないの?前みたいな威勢のよさはどうしたのよ。せっかく大阪から来たんだから楽しませてみなさいよ!』

 煌は側転から次々に回転し勢いをつけ、そのまま宙返りの遠心力で蹴りを叩きつけた。これまたかなり見事なアクロバットを見せ、続けて素早いパンチで瞬を押していく。
 さすがは関西一と歌われる姉妹の妹だ。ドーピングを使用している瞬を圧倒している。

『おい雪ノ瀬ぇ!手ぇ抜いてんじゃねぇよコラ!次は電話すんからな!』

 押される瞬を見て四阿が携帯を取り出した。

『ほーら、怒ってるわよ~。言っとくけど私は手加減しないわよ?負けたらどうなるのか、逆にすっごく楽しみだわ。あなたをぶっ殺して試しに人質に死んでもらいましょうか』

 煌は冷酷な目つきで挑発した。

 ここで負けたら泪が突き落とされる。瞬の脳裏に改めてその映像が刻みこまれた。

(そんなこと…絶対にさせない!)

 煌がどういう目的でこの場にいるのかは分からないがこうして敵意を向けられるのなら愛羽とよりはやりやすい。
 何より彼女は強い。ドーピング中とはいえ決して気を抜ける相手ではないことを瞬が1番分かっている。

『少女は…少女は守れずに死なせるより…守って死ぬ方を選びました…きっと…それが自分への罰なのです…』

 泪を守ったらその時責任を取ろう。瞬はその覚悟を決めた。

『そうそう、その目よ。その狼のような瞳』

 目と目が合うと瞬がそれまでと変わって攻撃に出た。
 大振りのパンチが繰り出される。煌は目で見ただけでは計れない危機感を感じた。ギリギリそれをかわすと嫌な汗をかいてしまったがそれとは反対にワクワクする気持ちも止められなかった。

 瞬は続けてパンチを打ってきた。煌はそれをバク転でよけるとその反動を利用し前転宙返りから蹴りを返した。
 瞬はそれを腕で受けると煌が着地するのと同時にソバットで蹴り飛ばした。

『うっ!』

 煌は勢いよく吹っ飛び周りの人間の中に叩きつけられた。

 17、18の少女の戦いとはとても思えない。

 煌は立ち上がると砂を払った。まだまだ全然ピンピンしている。

『フフフ。やればできるじゃない』

『魔神、天王道煌。1個下にしてその強さ、本当に尊敬するよ』

『あら、名前覚えててくれたのね。光栄だわ』

『でも、あたしは負ける訳にはいかないから』

『安心して。すぐぶっ殺してあげるわ』

 2人は互いに向かって走りだし同時に飛んだ。
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