暴走♡アイドル3~オトヒメサマノユメ~

雪ノ瀬瞬

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中編

マウンテンバイク

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 眩が校門の前で名を呼んでも反応がないことに肩を落としていると急に車が猛スピードで突っこんできた。

『うぉっ!』

 あ、こいつ止まる気ない。向かってくる勢いですぐにそう判断できたので3人はギリギリ車をよけることができた。
 あとほんの一瞬遅ければはねられていた。

『このアホンダラ~!!どこ見て走っとんねん!!』

 さすがに眩が頭にきた様子で怒鳴り散らすと中からぞろぞろと人が降りてきた。

『ヨー、ネーサンタチ。アノガキドモノナカマカ?ソレトモヤシャネコノニンゲンカナ?』

『いきなり突っこんできて何訳の分からんことゆーとんねん!まさかおのれがアカツキアイハちゃうやろなぁ?』

 アジラナはやれやれと言わんばかりのポーズをとると眩に近づいていった。

『おいコラ、聞いとんねん!まず名を名乗ったらどーなんや!』

 だがアジラナは何も言わず挨拶代わりにパンチを打ちこんできた。

『のわっ!くそっ、喋るつもりはないっちゅーことやな!』

 眩が驚きながらもそれを的確にかわすと続けて2発目を振りかぶった。
 するとその横から煌が飛びかかっていく。

『こぉらワレぇ!なんぼのもんじゃ姉さんが聞いとるやろが!この方を誰や思っとんねん、くそ外人が!』

 怒りに歪みきった鬼のような顔で煌が眩とアジラナの間に入った。

『きぃ(煌)えぇて。あたしにやらせや。このドアホしばいたるわ』

『姉さんの綺麗な手を汚すまでもないわ。私がぶっ殺すわよ』

 アジラナは構わず近い方の煌に今度は大振りのパンチを放ってきた。
 その刹那、直感と言うのだろうか。眩は何か嫌なものを察知し反射的に煌を突き飛ばしアジラナの拳を回避した。

 パンチの軌道。その速度。切られた風の勢い。そして見るに明らかなその重さ。
 眩の直感は確信に変わった。

(こいつ…)

 そしてすぐに妹もそれを理解した。

(只者やない…)

 2人は相手の実力を決して舐めてかかってはいけない極めて危険なレベルと認識し判断した。

『煌、下がっとれ』

『姉さん、こいつは危険や。2人で一気に叩いてしまわな』

 2人はまずアジラナと適当な距離をとった。

『いや、あたしがやる。お前はあたしに恥かかせたいんか』

『せやけど…』

 こんな時もケンカはタイマンというルールを貫き通そうとする姉の姿に妹は唇を噛んだ。

 だがその時勝負はすでについていた。

『マリアさんOKです!』

 運転席から熊小路が言うとアジラナは踵を返して走りだし車に飛び乗った。

『なんや?』

『オイ!ガキドモニドヨウノヨル、ジュウイチジニアシュラジョウトカワサキニコイトユットケ!246デマッテイルトナ』

『はぁ?何ゆーとんねん、あいつ』

 2人はこの意味不明な瞬間に数秒の間走り去る車を見てしまっていたがすぐに理解した。

 冬がいない。

 連中はなんと2人とアジラナが揉めている間に冬をまんまと連れ去ったのだ。

『姉さん!冬さんが車に!』

『なんやと!?』

 後部座席で冬が押さえつけられているのが見えた。

『待たんかい!!』

 眩はすぐにダッシュした。

 その速さと言ったら尋常ではない。まるでトラックを走る陸上選手のように手を振り足を上げ、交差点を曲がるのに歩道も車道も突っ切り最短のコースを障害物を飛び越えて駆けた。

 しかし相手は車。追いつける訳もなくどんどん離される。

 眩はすぐそこのドーナツ屋の前に止まっていたマウンテンバイクにまたがると全速力でこぎ始めた。

『待てやコラァ~!!冬を返さんかい!!』

 車を相手にぐんぐんと差を詰めてくるその姿をミラー越しに見て熊小路はゾッとした。

『マリアさん、あいつヤベェっす!追いつかれますよ!』

『フフ、ダッタラオイツカセロ』

『え?』

 眩があっという間にすぐ後ろまで追いつくとアジラナは凶悪な顔で笑った。

『フメ』

(…マジかよ…)

 熊小路は正直気が進まなかったがこの女に逆らうことなどはまずありえず、言われるがままブレーキを踏んだ。

 突然急ブレーキしてきた車に突っこみ眩はマウンテンバイクから投げ出され宙を舞い、眩が地面に叩きつけられると次の瞬間には車は走り去っていた。

『くそ!』

 マウンテンバイクもひしゃげてしまい眩は車を見失ってしまった。

『…あのチャリ弁償やないか、くそっ…』
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