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中編

お兄さん

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 神楽は目を覚ますと自分がどこにいるのか気付くのにしばらくかかった。

 どうやら病院らしき場所、のベッドの上だということが分かり起き上がろうとしたがそれよりも先に声をかけられた。

『絆!起きたのか!?』

 そこにいたのは暁龍玖だった。

『俺が分かるか!?何があったか覚えてるか!!体変なとこないか!?』

『…なんで…てめぇが、ここにいんだよ』

 第一声で毒を吐かれたにも関わらず龍玖は近づいてくると神楽のことをまず抱きしめた。

『よかった…分かるんだな?俺が誰か』

『おいっ!何すんだよ!放せ!寄るんじゃねぇ!』

 神楽は入るだけの力で押しのけた。

『あぁ…悪い、すまなかった』

 見ると龍玖は微かに目を潤ませていた。

『なっ!みっともねぇ顔してんじゃねぇよ!』

『はは、全くだな。でも嬉しいさ。喜ばずになんていられるか。何か飲むか?それとも腹減ったか?』

『いや…その前におい、雪絵はどうなった?』

『雪絵ちゃんはもう退院して帰ってるよ。店も自分がやらなきゃいけないからって言ってな。でもあの子、昨日も一昨日も仕事前にちゃんと寄ってってくれてたぞ。ちゃんとお礼言っといてあげろよな』

(雪絵…ちゃん?くそっ、なんかベラベラ喋ってないだろうねぇ…)

『あ、それよりまず目が覚めましたって報告しなきゃな。ちょっと看護婦さん呼んでくるよ』

 聞きつけた看護婦がすぐにやってきて龍玖は電話してくると外に出ていった。
 まるで子供のように走っていく龍玖を見て看護婦は笑っていた。

『お兄さん、ずっといてくれたんですよ?3日3晩。多分全然寝てないはずですよ。お友達の方々が帰られてからもずっとベッドの前で座ってらっしゃって、頑張れ頑張れって何回も声にしてくれてたし、何したらいいかとかできることないかって看護士や先生にも必ず聞いてくれてたし、大切な妹なんですってはっきり言ってましたよ。いいですね、素敵なお兄さんで』

『は?いや…あいつは…』

『すっごい喜んでましたね、子供みたいに。お兄さん、大切にしてあげてくださいね』

『いや…だから…あいつは…』

 神楽は兄じゃないと言えなかった。

 ついさっきのことが頭から離れず自分でも理解できない気持ちになっていた。

 みっともない顔で自分の目覚めを喜んでくれたそんな姿が、認めたくないが兄縁と重なって思えた。
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