暴走♡アイドル3~オトヒメサマノユメ~

雪ノ瀬瞬

文字の大きさ
上 下
67 / 173
中編

レディ

しおりを挟む
 先に壊れてしまったのはお父さんの方でした。

 愛する妻を失い、娘と2人だけになり仕事をしながら子育てをして負担はあったかもしれません。

 でもお父さんのそれはあまりにも突然で、私にはとても残酷に思えました。

 始めは些細なことでした。私のことをお母さんの名前で呼んだり、いないはずのお母さんの食事を用意したり、毎日のようにお母さんの夢を見てしまったりと。

 私は最初それはお父さんが悲しくてそうなってしまっているとばかり思っていたけど、私が思うよりそれは深刻で病的なものでした。

 お父さんはその壊れ始めが1番辛かったんだと思います。

 自分が壊れていくのが毎日少しずつ、でも確かに、明らかに分かりながらもそれを止められず、だからお父さんは私の知らない内に薬を使うようになったのです。

 お母さんを殺した覚醒剤をです。

 それを憎む立場でありながらお父さんはそれに溺れていきました。

 私は何度も止めました。

 お酒や精神安定剤ならまだしも、それだけはやめてほしいと。

 でもお父さんはそんな私に怒り、まるで私がたった1人の娘であることも忘れてしまったかのように暴力を振るわれたりもしました。

 その内本当に幻覚が見え始めたようで、もうその時には全てが遅いのだと気付きました。

 だから…

 だから私はお父さんを階段から突き落としたんです。

 いっそ死ねば楽になれたのに、お父さんは今精神病院で拘束されています。




 お父さんが覚醒剤を入手していたのは鷹爪組というヤクザからでした。
 さすがに暴力団相手に私が何かできる訳もなかったけど、私が中学2年の時、隣の中学の不良グループが周辺の中学を潰して回っていて私の中学にも当然その人たちはやってきました。

 私はその時全然不良でもなんでもなく争いに参加などしなかったのですが、恐る恐る遠くから見ているとその中に彼女がいたのです。

 自分は鷹爪組の娘だと言って偉そうにふんぞり返るあの女がです。

 彼女が私のお父さんに薬を売った訳でも、私のお母さんを殺したあの男に薬を使わせお母さんを殺すよう仕向けた訳でもないのは分かっています。

 だけど人を殺し人を不幸にするあの死の粉を金の為に振り撒き、結果的に人を突き落としている奴の子供が何故あんなに偉そうにしているのかが私には分からず、その後彼女たちに近づきました。

 幸いにも子供の頃から習っていた武術が役に立ちました。腕が立てば立つほど上の者に近づくことができ、私が信用を得るのに時間はかからなかったです。

 ただその組織の内側を見て驚きました。

 その中にいる者のほぼ全員が覚醒剤に手を出し染まっていたからです。

 私の知る限りCRSでそれに手を出していないのは八代心愛さんと八代さんを信じるごく少数の人間だけです。

 鷹爪は10代の少年少女にも容赦なくその死の粉をばらまいていたのです。

 そしてある時彼女は言いました。

『こんなもんに金払って本当にクズだよな。お前もそう思うだろ?』

 2人でいる時、覚醒剤を使わない私に笑って言ったのです。

 じゃあこれにはまって抜け出せなくなってしまった人たちは?

『クズ中のクズだね』

 じゃあ、そんな人たちの起こした事件に巻きこまれて命を落としてしまった人たちは…

『哀れなクズってとこだな。あたしには何の関係もないね』

 その言葉を聞いた時思ったんです。

 この女を許してはいけないって。

 だからその時から鷹爪を殺すことをイメージし始めました。
 だけど私があのクズを殺してこの国の法律なんぞに裁かれる訳にはいきません。

 この国では相当な理由、極めて明らかな正当防衛でなければ人を殺すことができません。

 しかし、そんな正当な理由での死ですらあの女には値しない。

 だから誰か他の人間があの女を地獄に突き落とし殺さなければならないのです。





 大切なのは目で動きを見ることや、その動きに対応できる身体能力を身につけることじゃなく、どういう動きになるかを想像すること。

 拳を振りかぶったり体を捻ったり踏み出した足だったり目線とかで、どういう攻撃でくるのかを想像しきること。

 同時に想像できる全てのパターンに対しどういう技で返すのが1番適した形かをその瞬間に判断できること。

 それを突き詰めて極めていくと相手をどうやって倒すかという映像まで鮮明に見えるようになる。

 構えや立ち回り、細かな指先の動きでも相手に取らせたい行動を取らせたりさえできるようになる。

 それはもうそうやって自分が思っているだけとも思われそうな話だけど、そういうことができる人間は間違いなく存在している。

『最初からできた訳じゃありませんでした』

 こんなことができたらお母さんも殺されずに済んだかもしれない。

『そう望んでできるようになった訳でもありませんでした』

 でも最終的にいつも最初に想像するのが決まって終わりの形になった。

 全てのシナリオは終わりから組み立てていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

人喰い遊園地

井藤 美樹
ホラー
 ある行方不明の探偵事務所に、十二年前に行方不明になった子供の捜索依頼が舞い込んだ。  その行方不明事件は、探偵の間では前々から有名な案件だった。  あまりにも奇妙で、不可解な案件。  それ故、他の探偵事務所では引き受けたがらない。勿体ぶった理由で断られるのが常だ。断られ続けた依頼者が最後に頼ったのが、高坂巽が所長を務める探偵事務所だった。高坂はこの依頼を快く引き受ける。  依頼者の子供が姿を消した場所。  同じ場所で発生した二十三人の行方不明者。  彼らが姿を消した場所。そこは今、更地になっている。  嘗てそこには、遊園地があった。  遊園地の名前は〈桜ドリームパーク〉。  十年前まで、そこは夢に溢れた場所だった。  しかしある日を境に、夢に溢れたその場所は徐々に影がさしていく。  老若男女関係なく、二十三人もの人が、次々とその遊園地を最後に、忽然と姿を消したからだ。あらゆる方向性を考え懸命に捜索したが、手掛かり一つ発見されることなく、誰一人発見される事もなかった。  次々と人が消えて行く遊園地を、人々はいつしか【人喰い遊園地】と呼び恐れた。  閉園された今尚、人々はその遊園地に魅せられ足を踏み入れる。  肝試しと都市伝説を確かめに……。  そして、この案件を担当することになった新人探偵も。  新人探偵の神崎勇也が【人喰い遊園地】に関わった瞬間、闇が静かに蠢きだすーー。  誰もそれには気付かない……。

秘密のビーフシチュー

やまとゆう
青春
 他人には本性を曝け出すことのない主人公、日菜。幼い頃からの親友である佳苗にも本当の自分を見せたことのない日菜は、当たり障りのない日々をこなしていく。佳苗と同じ店で働く日菜は、いつまでこんな時間が続いていくのだろうという葛藤も見え隠れする。  そんな時に客として出会う2人の男たち。晴樹と名乗る驚くほど大柄の男と、達月と名乗った驚くほど細身の男。彼らの出会いが日菜の、そして佳苗の未来を変えていくことになる事実を、もちろん2人は知る由もない。ある日の仕事後、日菜は行きつけの喫茶店に行くと、見覚えのある男、達月を目の当たりにする。達月も日菜のことを覚えていて、ひょんなことから2人の距離は近づいていく。喫茶店の店長のニケ、副店長の優子にも顔を覚えられ、常連になっていく日菜は、いつしか優しい人間たちに囲まれていく。  彼らと触れ合う日菜の心境も少しずつ変わっていき、気づけば自分のやりたいことも見つけることができた。頼れる友人もできた。心の憩い場も見つけた。だが、順風満帆になってきた日菜の生活に突如訪れる衝撃の事実。その事実を受け入れた時に、日菜は何を思い、どんな行動を起こすのか。  1人の少女が、1人の女性へと成長していく物語。そこには多くの喜びがあり、多くの哀しみがあり、多くの幸せがあった。  

井の頭第三貯水池のラッコ

海獺屋ぼの
ライト文芸
井の頭第三貯水池にはラッコが住んでいた。彼は貝や魚を食べ、そして小説を書いて過ごしていた。 そんな彼の周りで人間たちは様々な日常を送っていた。 ラッコと人間の交流を描く三編のオムニバスライト文芸作品。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

彼と彼女の365日

如月ゆう
青春
※諸事情により二月いっぱいまで不定期更新です。 幼馴染みの同級生二人は、今日も今日とて一緒に過ごします。 これはそんな彼らの一年をえがいた、365日――毎日続く物語。

【完結】愛犬との散歩は、恋の予感

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』
青春
愛犬を通じて好きな人と交流をしていくお話です。 中学三年生の大事な受験の時期に初恋を知って、お互いに勉強を励まし合いながら、恋をしていくお話です。 胸きゅんする……かな? 中高生向けの為、難しいお話ではなく、初々しい感じを目指してみました♪ _________________ 「私、親が二人とも身長高いんだよね。だから、もしかしたら・・・身長超しちゃうかも」 「はっ、俺だって成長期だっての。自分だけ伸びると思ってんじゃねーよ」 _________________ 一章 初恋 二章 嫉妬 三章 逢瀬 四章 結実 _________________ ファンタジーしか書いて来なかったので、このジャンルは中々書くのが難しかったですが、少女漫画をイメージしてみました♪ 楽しんでいただけると嬉しいです♪ ※完結まで執筆済み(予約投稿) ※10万文字以上を長編と思っているので、この作品は短編扱いにしています。 ※長くなりそうだったので、ちょいちょいエピソードを割愛しています。

処理中です...