上 下
63 / 173
中編

放火犯

しおりを挟む
『なんやお前ら』

 咲薇の手紙を受け神奈川を目指すことを決めた椿原萼と誘木浬はある人物の所を訪ねていた。

 それは大阪喧嘩會の二代目、藺檻槐いおりえんじゅの所だった。

『アホが揃って何の用や』

 大阪、京都、兵庫と同盟を結ぶとなった時、槐だけは最後まで自分たち大阪喧嘩會は他に屈しないと言い張っていたのだが、チーム初代の天王道眩が一つ返事をしてしまったことに加えある理由で従わざるをえなくなってしまった。

『誰がアホや。アホは浬だけじゃ』

『コラァ!萼えぇ加減にせぇよ!』

『うるっさいねん!お前らのおもんない漫才なんて聞きたないねん。他行ってやれや』

『誰が美人芸人や』

『誰も言うてへんわ!』

 2人は槐に一緒に神奈川に来てくれるよう協力を求めたが槐の返事は早かった。

『…断る』

『はぁ?』

『嫌な奴やなぁ~』

 当然のように槐は首を縦には振らなかった。

『神奈川を潰しに行く言うんならまだ分かるけどな、なんで助けに行かなあかんねん。お前ら頭おかしんちゃうか?何が悲しくてついこないだケンカした奴らに手ぇ貸さなあかんねん。アホや、あたしはお断りや』

『どうしてもか?』

『あぁ』

 萼は念を押したが槐は断固拒否だ。萼と浬は顔を見合わせて意味深な溜め息をついた。

『仕方ないな浬さん』

『そやな萼ちゃん』

 萼は携帯を取り出すとダイヤルを押し始めた。

『槐。あんたがそうやって言うことは分かってたわ』

『それやったら最初から来るなて』

 槐はとてもめんどくさそうに言った。

『せやからあたしらも不本意やけど2択に絞らせてもらうわ』

『2択?』

 萼は携帯の画面を見せると急に勝ち誇ったような見透かしたような顔で笑った。
 画面には110の番号が見えている。

『知っとるか?放火てなかなか罪が重いねんで。お前が火ぃつけたあの工場、丸焼けの全焼やったな。幸い廃工場やったけど持ち主もおんねん。何千万という賠償金払わされるやろな。それに中に人がおるの分かってて火ぃつけとんのやから最悪放火殺人未遂や。ある弁護士の先生いわく7~8年の実刑というんは間違いないらしい』

 槐は急に小さくなってしまった。

『さて、そこでや。あたしが今から警察に電話して、あの火事の真相を話したらお前は全国指名手配や。一応時効もあって15年逃げきれば成立やけど、どうする?リアル人生逃亡ゲームしてみるか?』

 槐はさすがに青くなり固まっていた。

 あの時は頭に血が昇り衝動的に火をつけガソリンを撒いて回ったが、あれだけの大火災になってしまいさすがに噂がたっていた。
 その後警察も火事のことで動きだし、さすがにまずいことを察し、もし捕まったらどうなるということも自分で調べた結果「少年院で1年」だけではそうそう済まないらしいことを知った。

 実際に火をつけた現場を見ていた般若娘のメンバーには強く口止めをしたがさすがに誰が見ても犯人は一目瞭然で、槐はあれ以来それまでのような傲慢な振る舞いを控え、どこかでつまらない恨みを買ってチクられたりしないようおとなしく過ごしていた。

 内心では毎日、明日の朝警察が逮捕状を持ってやってきたらどうしようとビクビクしながら生きているのだ。

 槐はさっきよりも更にめんどくさそうな顔をして大きく溜め息をついた。

『…あたしは行くだけや。なんもせぇへんからな…』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

暴走♡アイドル ~ヨアケノテンシ~

雪ノ瀬瞬
青春
アイドルになりたい高校1年生。暁愛羽が地元神奈川の小田原で友達と暴走族を結成。 神奈川は横浜、相模原、湘南、小田原の4大暴走族が敵対し合い、そんな中たった数人でチームを旗揚げする。 しかし4大暴走族がにらみ合う中、関東最大の超大型チーム、東京連合の魔の手が神奈川に忍びより、愛羽たちは狩りのターゲットにされてしまう。 そして仲間は1人、また1人と潰されていく。 総員1000人の東京連合に対し愛羽たちはどう戦うのか。 どうすれば大切な仲間を守れるのか。 暴走族とは何か。大切なものは何か。 少女たちが悩み、葛藤した答えは何なのか。 それは読んだ人にしか分からない。 前髪パッツンのポニーテールのチビが強い! そして飛ぶ、跳ぶ、翔ぶ! 暴走アイドルは出てくるキャラがみんなカッコいいので、きっとアイドルたちがあなたの背中も押してくれると思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

暴走♡アイドル2 ~ヨゾラノナミダ~

雪ノ瀬瞬
青春
夏だ!旅行だ!大阪だ! 暁愛羽は神奈川の暴走族「暴走愛努流」の総長。 関東最大級の東京連合と神奈川4大暴走族や仲間たちと激闘を繰り広げた。 夏休みにバイク屋の娘月下綺夜羅と東京連合の総長雪ノ瀬瞬と共に峠に走りに来ていた愛羽は、大阪から1人で関東へ走りに来ていた謎の少女、風矢咲薇と出会う。 愛羽と綺夜羅はそれぞれ仲間たちと大阪に旅行に行くと咲薇をめぐったトラブルに巻きこまれ、関西で連続暴走族襲撃事件を起こす犯人に綺夜羅が斬られてしまう。 その裏には1人の少女の壮絶な人生が関係していた。

処理中です...