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中編

面会

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 咲薇はその後調査といういわゆる取り調べを受け事情を説明し、3日間の単独室での反省という処分になった。

 四畳半程の部屋でトイレはあるが囲いはなく使用する時は衝立てで隠す。
 考えようによってはちょっと広いトイレに住んでいると言っても言いすぎではない。

 反省の期間は朝から夕方までただ正座をして座っているだけだ。
 だがそんな時でも考えてしまうのは自分のことなどではなく綺夜羅たちのことだった。

『あたしは、こんなことしとる場合か…』

 自分にできることは何もない。せいぜい手紙を書くこと位しか。
 自分が助けに行けるのは少なくとも1年後だ。

『それじゃ遅すぎんねん!』

 どうすればいい?

 詰まるところ咲薇の脳裏に浮かんだ答えは1つだった。

 丁度そこへ職員が来るとドアを解錠した。

『風矢咲薇、面会だよ』

『…面会、ですか?』

 綺夜羅が来てくれたのだろうか?それなら願ってもないことだが真朧が暴れて反省部屋に入れられてるなんて情けない報告をしなければいけないのかと思うと肩が重くなった。

 だが面会室に入って待っていた人物の面々を見て咲薇は凍りついた。

『いよぉ~!風矢ぁ!元気でやっとるかぁ!?』

 そこに座っていたのは天王道眩だったのだ。それだけではない。その後ろ、少し離れた壁際に妹の煌とあの疎井冬がこちらに目もくれず寄りかかって立っている。

『ほな、まぁ座りぃや~』

 眩は非常に軽い感じで言った。

『…なんで…あんたたちが…』

 咲薇は嫌な汗が止まらなかった。緊張のあまり頭が真っ白になってしまっている。次の言葉がなかなか出てこない。

『なにボッとしとんねん。時間も限られとんのやから早よ座ってや。ほれ、お菓子とジュースもぎょうさん買うたんや。全っ部食うてや!』

 咲薇は何がなんだか分からずとりあえず眩の向かいに座った。
 死神。魔神。白狐。この3人が揃うともう口では言い表せない迫力がある。
 何より冬がいることに軽くパニックだ。

『さぁ食うて食うて。中やとそう滅多に食えへんのやから』

『…い、いただきます』

 咲薇は頭を下げると用意されたお菓子に手をつけた。つけたというよりとりあえず手をつけるしかなかった。

『どーや調子は?どーやなんて言うてあたし君と話すん初めてやんな。あっはっは!』

 眩は能天気な調子で喋り続けた。だが咲薇からしたら逆に怖い。一体何の用があってこんな所に?ひょっとして自分はここでやられるのか、とさえ思ってしまう。

『いや、まだ来てすぐやし、どうと言われても…』

『ちょっと風矢咲薇、姉さんには敬語を使いなさいよ。ぶっ殺すわよ?』

 そこまで全く目もくれなかった煌が鋭い視線を向けてきた。
 そうだ。天王道煌は大阪一のシスコン。下手をすれば日本一のお姉さん大好き人間だった。

 いつだったか眩に敬語を使わなかった女たちが手にアロンアルファを塗りつけられ横一列になって手をつながされ実写版ムカデ人間にさせられた挙げ句、そのまま全員半殺しにされたという恐ろしい伝説がある。
 1ミリも盛った話ではないというのだから怖い。

『まぁまぁ、えぇやないか煌』

『もう…姉さんは甘いのよ』

 それに対し眩はそんなこと屁とも思わない気さくでおおらかな性格だった。
 しかしそんな眩の怒りに触れた者は間違いなく命を取られるということから死神と呼ばれている。

『なんや、あんまりえぇ顔してへんな。元気ないやんか。君具合悪いんか?』

『いや、その…』

 咲薇が口ごもっていると眩は閃いた。

『分かった!さてはお前いじめられとんのやろ!』

 咲薇は仕方なく真朧が出てきて暴れてしまったことを話した。

『あっひゃっひゃっひゃ!何しとんねん!こんなとこでそんなんしてアホのすることやぞ!』

『いい気味ね。一生反省してなさいよ』

 眩が腹を抱えて大声で笑うと煌もここへきて嫌味ったらしく笑う。

『いや、あたしは真面目に頑張りたいねん。でもこんな風に出てこられたらそれもできんから、どうしたらえぇか悩んどる所で…』

『なんやそいつ、そんなに言うこと聞かれへんのか?見てみぃ、冬なんてしょっちゅう妹と2人で喋って笑てんねんで?端から見たらちょっと頭のイカれてる女や思われるかもやけどな、でも冬と殺はいっつも楽しそーやでー?なんでお前んとこはそんなつまらん顔しとんねん』

 そうは言っても仮にも自分の愛した男を死なせた人物となど仲良くなれるとは思えない。
 できることなら自分の中で消滅するか、ずっと閉じこめておきたいと思っているのだ。

『姉さん。そんなことよりそろそろ本題に入った方がいいんじゃない?』

『あ、そうやった!いや~、肝心なこと何も聞けへんで終わるとこやった』

『肝心なこと?』

『そやねん。風矢、お前これ誰のか知っとるやろ!?』

 眩は指輪を取り出すとそれを親指と人差し指でつまみ咲薇の顔に近づけて見せた。

『この指輪?』

『そや、これや』

 眩はニコニコしながら咲薇の答えを待っているが咲薇は何も思い当たらなかった。

『え?…知らんねんけど』

『えぇぇ!?嘘や!ほら神奈川から来よったあのトサカの姉ちゃんか2つに縛っとった子かどっちかやねん!見覚えあるやろ!?』

 眩は知らないと聞いて半分泣きそうになって言った。

『あぁ~、それやったら樹さんと琉花さんのことや。え?じゃあ、あの時から持ってたゆーこと?…なんで今更?』

『えっ!?ま、ままま、まぁ色々あんねん。ほな、その子らどこにおるか知っとるか!?』

『どこって神奈川ですよ。でもあたしかてみんなの家に行ったんと違うし樹さんと琉花さんは大阪で関わっただけやし、ちょっと分かれへんかなぁ…』

『いぃ~?んなアホな…』

 眩は肩を落としグッタリしてしまった。

 どうやら彼女たちは何も知らないままに大阪を飛び出してきてみたものの、すぐに迷宮入りしたようだ。
 そんな行き当たりばったりな姿を見て、夏に大阪へ何の予約もなしに飛びこみで旅行にやってきた綺夜羅たちのことを思い出した。
 後方では煌と冬が額を押さえ小さく溜め息をついたのを見て咲薇はおかしくなってしまったが笑ってしまいそうなのをぐっとこらえた。
 どうやらこの2人も振り回されているらしい。

『それやったら小田原ってとこで愛羽たちを探してみてください。それが1番分かりやすくて確実やと思いますよ』

『アイハて、誰や?』

『ほら、前髪パッツンのポニーテールの子覚えてません?背の小っさい。あの子たちならその2人のことよぉ知ってるんで絶対力になってくれますよ。すぐ見つかるやろうし』

『ホンマか!?うわ~助かるわ~。こっちに来たはえぇねんけど何も手がかりがなくてな。もー少し簡単に見つけられる思てたんやけど、ほんなら冬がお前がここにおる言うてな。そんで来た訳なんや。小田原?アイハやな?上の名前も教えてくれるか?』

『うん。暁愛羽や。あの子あぁ見えてケッコーすごい子やから多分同い年位の子なら知ってるはずや』

『よっしゃ!ほんなら早速小田原や!ありがとな風矢、おおきに』

『あ…それで、その…』

 席を立ち上がろうとした眩を咲薇は呼び止めた。

『ん?なんや、まだおってほしいんか?』

『いや…実は今、気になってることがあるんです』

 眩は座り直すとあごで促した。

『なんや言うてみぃ』

『実は最近神奈川で物騒なことが多いんです。なんか嫌な予感が少し前からずっとしとるんです。神奈川の子たちはあたしを助けてくれた大切な姉妹や。それやのにあたしはここを出られません。これも何かの縁やと思って、もし力を貸してあげられることがあったら助けてあげてもらえませんか?』

『ちょっと風矢、図々しいわよ。私も姉さんも大阪での決着だってつけられてないのよ?それが助けろですって?あなたよりにもよって冬さんを前にしてよくそんなこと言えるわね!』

 煌は軽く怒鳴りつけた。

 しかしその直後眩が言葉を返す。

『よし分かった。えぇで任せや』

『ちょっと姉さん!?』

『なんやねんな~。あたしが呑んだだけや。お前らなんもせんかったらえぇやないかい。助けてもろたお礼や。お相子やろ?』

『も~…姉さんはホント甘すぎるわ』

 煌は頭痛そうにしている。

『そーゆーことや風矢。この2人は知らんけどあたしはあたしのできることはすると約束する。せやからお前ここ抜け出して神奈川行くなんてアホなこと考えるのはもうやめときや』

 咲薇は驚いた。別に今日明日にでも脱走しようと思っていた訳ではない。
 ただ心の奥底では、いざという時はたとえどんな手段を使ってでも綺夜羅や愛羽、瞬たちを助けに行くという気持ちがあった。

『なんで…そんなこと…』

『なんでって、顔に書いてあるからや。もしあたしが断ったらその決意を固めます、てな。まぁ安心せぇや。何がそんな気になるんかは知らんけど、お前の予想通りやったらあたしはちゃんと約束守ったる。せやからお前はここで自分のことちゃんと考えとったらえぇ』

 眩はそう言うとニカッと笑った。
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