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中編
優子の絵
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優子の担任が申し訳なさそうな顔をしていた。
『すまない…私が掃除に出た時にはまだ白桐は来ていなかったんだが、まさか君と会ってこんなことになるとは…』
『いや、いいんすよ。こうなることは見えてた』
『何故だい?』
『いや、何故って…確かに昨日関わるなって言ってたことは聞いてたし、元々とっくにあたしはあいつに切られちまってるんすよ』
『切られる?』
『あ、はい…』
担任の男はタバコを取り出し火をつけた。
『…先生が、いいんすか?』
『ははは。ここはもうずいぶん前から私と白桐だけの部屋なんだ。君も吸うんだろ?』
男はそう言ってタバコを差し出した。樹は自分のタバコがあったが遠慮するのも悪い気がして1本引き抜き頭を下げる。
『コーヒーでいいかい?』
『ど、どうも』
男はポットでインスタントコーヒーを淹れた。
『君のことは白桐から聞いているよ』
『優子から?』
優子がさっきはあんな言い方をして出ていったというのに、学校の先生に自分のことを話しているというのは想像がつかなかった。
『すごくカッコいい親友がいる。自慢するように言っていたかな。だけど今は事情があって一緒にいることはできないんだ、とも言っていた』
(事情?)
『それから君は絵が上手いんだろ?』
『いや、まぁ描くのは好きですけど…』
男は手を広げてみせた。
『この部屋見てごらん』
樹は言われて周りを見回した。何枚もの絵が飾ってある。
それは別に美術室としては当たり前の風景に思えた。
『ここにある絵はね、全部白桐が描いたんだ』
『優子が?』
『初めて会った時、あいつここで絵を描いていたんだ。1人で』
そう言うと男は1枚の絵を持ってきた。
『あいつが初めて描いた絵さ。これ、なんだか分かるかい?』
『…えっと~…』
なんだこれは?樹は30秒程じっと絵をにらみ考えたが全く分からなかった。
『分かんねっす』
それを聞いて男は「やっぱりね」とでも言うように頷いた。
『これはね、ネコバスにメイと姉ちゃんが乗ってピョンピョン走ってるとこ、だよ』
『ぶっ!』
樹はおもわず吹き出してしまった。あまりにも画力がひどすぎる。
『あれを見てごらん』
指を差された方を見ると、それはもう立派なネコバスにメイとお姉ちゃんのサツキが乗っている様子が描かれた絵が飾ってあった。こちらはかなり上手い。
『あれも白桐が描いたんだ』
『えぇっ!うそぉ!』
それが1番ビックリした。とても同一人物が描いた物とは思えない。
『ここでね、白桐に絵を教えていたんだ。彼女学校に来るとだいたいここにいてね、いたらいつも絵を描いてた。私はね、本当はずっと君に会いたかったんじゃないかと思うんだよ』
樹にそれは頷けなかった。優子の態度はお世辞にもそうと思えるものではなかった。
『この絵、ちょっと見てくれるかい?』
それを見て樹は目を疑った。
その絵の中に自分がいたからである。
ロケットカウルの付いた族車、CBXのようだ。それに優子と自分が2人乗りしているところだった。
2人の着ている特攻服はちらほらCRSの文字が見え、優子がハンドルを握り樹が後部でCRSの旗を掲げている。
『この絵、間違いなく君だろう?だから最初君を見た時はビックリしたよ。絵から出てきたのかと思ってね』
樹は何かとても気持ちがもどかしくなってしまった。
何故優子はこんなにも自分を避けるのだろう。
自分だけではない。旋と珠凛のこともそうだ。
親友だと認め合った自分を切り、守ってあげていた後輩の2人を裏切り、CRSを結成し総長になったかと思えば自分と2人でいる絵を描いていたりする。
4大暴走族と戦い神奈川を制覇すると言いながら鬼音姫は標的にしなかったり、しかし会えば冷たく突き放し関わるな忘れろと言う。
樹は静火と唯の言葉を思い出した。
自分たちをかばっている?そうするしかなかった?
そういえば綺夜羅たちとも優子は揉めるのを避けようとしていた風にも聞こえた。
一体優子は何を考えているのだろう。
『私の思ったことを話してもいいかい?』
樹が考えこんでいると男が喋りだした。
『昨日も白桐の後輩という子たちが来てね。さっきみたいな態度をとっていたよ』
話は昨日聞いているだけにその様子がよく分かった。
『ここで3年彼女と過ごしてきたけど、彼女は私に全てを話す訳じゃない。でもさっきの態度も昨日のことも私は嘘じゃないかって思うんだ。それは第三者の私だから分かるのかもしれないし、これは根拠のない話なんだけど、彼女は何かを1人で抱えこんでいるんじゃないかって時々思ったりしてね』
『1人で、抱える?』
今の自分の思考に直結しそうなワードが飛び出してきた。
『もしそうだとして、それが何かは分からないんだけどね、白桐を見ているとどうしてもそういう風に感じてしまうことがあるんだ。そもそも学校にいる時はほとんどここにいる。まるで周りとの関わりを嫌がっているようにね。本当はこの学校にあまり馴染んでないんじゃないかと思えたりするんだよ』
馴染んでない?厚央の頭でCRSの総長である優子がその仲間と実はうまくやれてないということか?まさか…
そんな中で優子があんな風に神奈川制覇に向かっていく理由がない。そんなことは考えにくい。
だがもしそれが本当だとしたら、優子は何の為に?
『1つ気になることがあってね。白桐は間違いなくこの学校の番長格だろう。でもその白桐が唯一敬語を使う相手がいるんだ』
樹はなんとなくその人物像が浮かんだ。おそらくそれはヤクザだろう。
昨日豹那がバックがどーのと言っていたし、旋と珠凛が厚木中央で覚醒剤が流行っているらしいことを言っていた。
流行る程の覚醒剤の出所も暴力団しかまずありえない。
やはりこのCRSには思っているよりも深く暴力団の存在が根付いていると考えて間違いない。
『先生、今日はありがとうございましたっす』
そこまで聞いて樹は学校を出た。なんにせよ今はCRSと優子の動きを待つ他自分にできることはなさそうだ。
『すまない…私が掃除に出た時にはまだ白桐は来ていなかったんだが、まさか君と会ってこんなことになるとは…』
『いや、いいんすよ。こうなることは見えてた』
『何故だい?』
『いや、何故って…確かに昨日関わるなって言ってたことは聞いてたし、元々とっくにあたしはあいつに切られちまってるんすよ』
『切られる?』
『あ、はい…』
担任の男はタバコを取り出し火をつけた。
『…先生が、いいんすか?』
『ははは。ここはもうずいぶん前から私と白桐だけの部屋なんだ。君も吸うんだろ?』
男はそう言ってタバコを差し出した。樹は自分のタバコがあったが遠慮するのも悪い気がして1本引き抜き頭を下げる。
『コーヒーでいいかい?』
『ど、どうも』
男はポットでインスタントコーヒーを淹れた。
『君のことは白桐から聞いているよ』
『優子から?』
優子がさっきはあんな言い方をして出ていったというのに、学校の先生に自分のことを話しているというのは想像がつかなかった。
『すごくカッコいい親友がいる。自慢するように言っていたかな。だけど今は事情があって一緒にいることはできないんだ、とも言っていた』
(事情?)
『それから君は絵が上手いんだろ?』
『いや、まぁ描くのは好きですけど…』
男は手を広げてみせた。
『この部屋見てごらん』
樹は言われて周りを見回した。何枚もの絵が飾ってある。
それは別に美術室としては当たり前の風景に思えた。
『ここにある絵はね、全部白桐が描いたんだ』
『優子が?』
『初めて会った時、あいつここで絵を描いていたんだ。1人で』
そう言うと男は1枚の絵を持ってきた。
『あいつが初めて描いた絵さ。これ、なんだか分かるかい?』
『…えっと~…』
なんだこれは?樹は30秒程じっと絵をにらみ考えたが全く分からなかった。
『分かんねっす』
それを聞いて男は「やっぱりね」とでも言うように頷いた。
『これはね、ネコバスにメイと姉ちゃんが乗ってピョンピョン走ってるとこ、だよ』
『ぶっ!』
樹はおもわず吹き出してしまった。あまりにも画力がひどすぎる。
『あれを見てごらん』
指を差された方を見ると、それはもう立派なネコバスにメイとお姉ちゃんのサツキが乗っている様子が描かれた絵が飾ってあった。こちらはかなり上手い。
『あれも白桐が描いたんだ』
『えぇっ!うそぉ!』
それが1番ビックリした。とても同一人物が描いた物とは思えない。
『ここでね、白桐に絵を教えていたんだ。彼女学校に来るとだいたいここにいてね、いたらいつも絵を描いてた。私はね、本当はずっと君に会いたかったんじゃないかと思うんだよ』
樹にそれは頷けなかった。優子の態度はお世辞にもそうと思えるものではなかった。
『この絵、ちょっと見てくれるかい?』
それを見て樹は目を疑った。
その絵の中に自分がいたからである。
ロケットカウルの付いた族車、CBXのようだ。それに優子と自分が2人乗りしているところだった。
2人の着ている特攻服はちらほらCRSの文字が見え、優子がハンドルを握り樹が後部でCRSの旗を掲げている。
『この絵、間違いなく君だろう?だから最初君を見た時はビックリしたよ。絵から出てきたのかと思ってね』
樹は何かとても気持ちがもどかしくなってしまった。
何故優子はこんなにも自分を避けるのだろう。
自分だけではない。旋と珠凛のこともそうだ。
親友だと認め合った自分を切り、守ってあげていた後輩の2人を裏切り、CRSを結成し総長になったかと思えば自分と2人でいる絵を描いていたりする。
4大暴走族と戦い神奈川を制覇すると言いながら鬼音姫は標的にしなかったり、しかし会えば冷たく突き放し関わるな忘れろと言う。
樹は静火と唯の言葉を思い出した。
自分たちをかばっている?そうするしかなかった?
そういえば綺夜羅たちとも優子は揉めるのを避けようとしていた風にも聞こえた。
一体優子は何を考えているのだろう。
『私の思ったことを話してもいいかい?』
樹が考えこんでいると男が喋りだした。
『昨日も白桐の後輩という子たちが来てね。さっきみたいな態度をとっていたよ』
話は昨日聞いているだけにその様子がよく分かった。
『ここで3年彼女と過ごしてきたけど、彼女は私に全てを話す訳じゃない。でもさっきの態度も昨日のことも私は嘘じゃないかって思うんだ。それは第三者の私だから分かるのかもしれないし、これは根拠のない話なんだけど、彼女は何かを1人で抱えこんでいるんじゃないかって時々思ったりしてね』
『1人で、抱える?』
今の自分の思考に直結しそうなワードが飛び出してきた。
『もしそうだとして、それが何かは分からないんだけどね、白桐を見ているとどうしてもそういう風に感じてしまうことがあるんだ。そもそも学校にいる時はほとんどここにいる。まるで周りとの関わりを嫌がっているようにね。本当はこの学校にあまり馴染んでないんじゃないかと思えたりするんだよ』
馴染んでない?厚央の頭でCRSの総長である優子がその仲間と実はうまくやれてないということか?まさか…
そんな中で優子があんな風に神奈川制覇に向かっていく理由がない。そんなことは考えにくい。
だがもしそれが本当だとしたら、優子は何の為に?
『1つ気になることがあってね。白桐は間違いなくこの学校の番長格だろう。でもその白桐が唯一敬語を使う相手がいるんだ』
樹はなんとなくその人物像が浮かんだ。おそらくそれはヤクザだろう。
昨日豹那がバックがどーのと言っていたし、旋と珠凛が厚木中央で覚醒剤が流行っているらしいことを言っていた。
流行る程の覚醒剤の出所も暴力団しかまずありえない。
やはりこのCRSには思っているよりも深く暴力団の存在が根付いていると考えて間違いない。
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