上 下
46 / 173
中編

メデューサ

しおりを挟む
 前から人が歩いてくる。視線が間違いなくこちらを向いている。

 琉花は瞬と別れた後、自宅までの道のりを歩いていた。

 前から来るのはずいぶんファンキーな女のようだ。頭中何本もの三つ編みで、シルエットだけならまるでメデューサだ。

 元からそういう目なのか目つきが悪く、琉花からは完全に睨んでいるように見える。

(ちぇっ、何こいつ。コスプレ?気持ち悪っ!)

 そう思ったのはその女が青い学ランを着ていたからだ。

 琉花は視線を外し、さっさとすれ違おうとした。
 だが…

(来る!)

 すれ違う間合いに入った時直感が走った。

 豪速球のようなパンチが顔をかすめた。

 殺気というか、そういうものが相手からあまりにも滲み出すぎていたおかげかギリギリよけることができた。

『へぇ?さすがボクサー。よくよけたな。すごい反射神経だ』

 反射神経もそうだが危機回避能力というべきだろう。直感、繰り出されるパンチの匂い、放つオーラ、そういう目では見えない何かを琉花は感じたのだ。

(危なかった…まともにくらってたら多分、なかなかヤバかった)

『誰あんた。いきなり何すんのさ』

 しかし女は答えず続けて攻撃を繰り出してきた。
 大振りのパンチが何発も放たれる。琉花はそれを冷静によけていく。

『ほーう、動きはまぁまぁだな。さすがは元チャンピオン』

 琉花はゾッとした。何故そんなことを知っている?いや…知っていて自分に挑んでくる意味も分からない。

 するといつの間にか囲まれていることに気がついた。

(ちっ、そういうことか。まずい…多いな)

 今度は三つ編みの女の他に四方から何人もの学ラン女たちがつかみかかってきた。
 琉花はつかみにくる女たちを殴り飛ばしながら三つ編みともやり合う。
 その対応力は正に天才的という他なかった。

『はっ!やるじゃねぇか!だが、いつまでもつかな!?』

 四方からの攻撃に対応していた琉花だったが真後ろからつかみに来られ、あえなく羽交い締めにされてしまった。

『放せ!』

 必死にもがくがこれでは力が入らない。そこに三つ編みの拳が容赦なく打ち込まれていく。

『いいぜ、まだ寝るなよ?あたしのスパーリングに付き合ってもらう』

 三つ編みはそう言うとボクシングの真似をし始め琉花に近づいてきた。ケンカは慣れているようだがボクシングの動きではない。琉花にはそれがすぐに分かった。

『何そのへなちょこパンチ。そんなんでボクシングの真似すんのやめてくれる?』

 この状況で相手を挑発している。

『あ?てめー、いい根性してんな』

 三つ編みは大振りのパンチを琉花の顔面に叩きこんだ。
 脳が揺れる。やはり打撃はなかなか思い。続いて次の拳は腹に連打だ。

『オラ!オラ!え!?まだ!起きてろ!よ!』

 やりたい放題やられ、さすがに琉花は相当効いてはいるがまだ全てを諦めている訳ではなかった。
 だから痛みも意識が飛びそうなのも屈辱もギリギリ耐えて踏ん張っていた。

『はぁっ…はぁっ…え?おい七条琉花。まだ生意気な口きけんならきいてみろよテメー』

 何十発にも渡りサンドバッグにされ、殴っていた三つ編みの息が上がっている位だが、まだかろうじて琉花は意識があった。
 プライドが傷つく程ボコボコのその顔でニヤリと笑って琉花は言った。

『へへっ…ヘナチョコ…』

『この野郎!』

 挑発に乗せられた三つ編みがまた琉花の顔面に向かっておもいきり振りかぶってパンチにきた。

 その瞬間琉花はすれすれ首の動きだけでそれをかわすと三つ編みの拳はすり抜け琉花をつかんでいた女にクリーンヒットした。

 深く踏み込んでくる渾身の一撃をずっと待っていたのだ。

 それを見逃さず琉花は羽交い締めから逃れた。

 すぐに構え三つ編みに拳を叩きつける。

『うっ!』

 琉花の拳は完全にクリーンヒット。更に琉花は三つ編みに強い眼差しを向けた。

『…あんた、あたしと殴り合う覚悟できてんの?』

『あ?』

 三つ編みは琉花の勢いに思わず足を1歩引いてしまった。
 散々タコ殴りにされておきながら見せたその気迫には正直背筋を冷たくさせる何かがあった。

(この野郎…)

 この時三つ編みは天才七条琉花を少し舐めていたことを思っていた。
 彼女には負けるはずのない理由があったがそれを持ってしてもこの琉花とここからまだ殴り合うことは正直気が引けた。

 体はかなりダメージを受けているが琉花は下がらず三つ編みの女に向かっていく。

(…あぁ、悔しい。こんなクソッタレ共にこんなにされて…瞬、あたし決めたわ。やっぱりも1回、ボクシングやるわ…)

 琉花はそのまま倒れてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

second dice

N&N
青春
悪いがオレは オムライスは駅前の『えぬたま』と決めているんだ ※twice diceの続編です  先にそちらを読むことをオススメします(゚皿゚)d

とよとも
エッセイ・ノンフィクション
約50年生きて、自分の人生を振り返ると10歳頃から40歳過ぎまでハチャメチャだった。 18歳の時にヤクザとして生きる事を選び、殺されそうになった過去も当然ある。 7年間程ポン中として狂っていたがロングに行くことになり、出所してからは興味を持たなくなったがやはり後遺症はある。 10代の頃の出来事、少年院や刑務所での思い出を交えながら、ヤクザをやめてサラリーマンとして生きている自分を綴った。

例えば、こんな学校生活。

ARuTo/あると
青春
 ※学校が一回変わります。  ※底辺学校から成り上がります。  東京の地、『豊洲』を舞台に繰り広げられる斜め上の青春群像劇。  自意識過剰な高校一年生、夜崎辰巳(やざきたつみ)は底辺学校で退屈な青春を迎えようとしていた。  しかし、入学式に出会った男子生徒、壱琉(いちる)に誘われた『妙なテスト』により、彼の運命は180度変わる事となる。  ひょんな出来事で第二の高校生活を始める事になった主人公。『特別候補生』という一般生徒とは違う肩書きを付けられながらも、新たな地で次第に馴染んでいく。  目先の問題に対して反論する主人公。青春格差目次録が始まる。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

名称不明なこの感情を表すために必要な2万文字。

春待ち木陰
青春
 高校一年生の女の子である『私』はアルバイト先が同じだった事から同じ高校に通う別のクラスの男の子、杉本と話をするようになった。杉本は『私』の親友である加奈子に惚れているらしい。「協力してくれ」と杉本に言われた『私』は「応援ならしても良い」と答える。加奈子にはもうすでに別の恋人がいたのだ。『私』はそれを知っていながら杉本にはその事を伝えなかった。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

スキル【疲れ知らず】を会得した俺は、人々を救う。

あおいろ
ファンタジー
主人公ーヒルフェは、唯一の家族である祖母を失くした。 彼女の葬式の真っ只中で、蒸発した両親の借金を取り立てに来た男に連れ去られてしまい、齢五歳で奴隷と成り果てる。 それから彼は、十年も劣悪な環境で働かされた。 だが、ある日に突然、そんな地獄から解放され、一度も会った事もなかった祖父のもとに引き取られていく。 その身には、奇妙なスキル【疲れ知らず】を宿して。

タビスルムスメ

深町珠
青春
乗務員の手記を元にした、楽しい作品です。 現在、九州の旅をしています。現地取材を元にしている、ドキュメントふうのところもあります。 旅先で、いろんな人と出会います。 職業柄、鉄道乗務員ともお友達になります。 出会って、別れます。旅ですね。 日生愛紗:21歳。飫肥出身。バスガイド=>運転士。 石川菜由:21歳。鹿児島出身。元バスガイド。 青島由香:20歳。神奈川出身。バスガイド。 藤野友里恵:20歳。神奈川出身。バスガイド。 日光真由美:19歳。人吉在住。国鉄人吉車掌区、車掌補。 荻恵:21歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 坂倉真由美:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 三芳らら:15歳。立野在住。熊本高校の学生、猫が好き。 鈴木朋恵:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 板倉裕子:20歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 日高パトリシアかずみ:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区、客室乗務員。 坂倉奈緒美:16歳。熊本在住。熊本高校の学生、三芳ららの友達・坂倉真由美の妹。 橋本理沙:25歳。大分在住。国鉄大分機関区、機関士。 三井洋子:21歳。大分在住。国鉄大分車掌区。車掌。 松井文子:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区。客室乗務員。

処理中です...