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前編
メリケン
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蘭菜と綺夜羅に掠は近くの市民病院に来ていた。
蘭菜はテキパキと受付を済まし綺夜羅の状態を説明するなど、まるで綺夜羅の母親かのように立ち振る舞う。
『整形外科は…あ、あっちね。ほら、行くわよ綺夜羅ちゃん』
そんな蘭菜に手を引かれ綺夜羅は恥ずかしがっていた。完全に子供扱いされているので掠がそれを後ろから見てクスクス笑っている。
『テメー掠ぇ。何がそんなおもしれーんだよ』
『べーつーに~』
『ほら、大きな声出さないの。周りの人の迷惑になるでしょ』
『わ…分かってるよ』
掠の笑いは止まらなかった。
『月下さ~ん。月下綺夜羅さ~ん』
『ほら、呼ばれたわよ』
『分かってるよ、もう…』
診察室に入っていくと医師がすぐに口を開いた。
『あー、ひどいねぇ。どうしたのこれ。痛いでしょー』
『まぁ…はい』
もちろん痛いから来ている。
『ちょっとまずレントゲンから撮りましょうね』
言われるがままにあっちへこっちへと歩き回らされ、レントゲンの結果を待って改めて綺夜羅は診察室に呼ばれた。
『これ君、実際どうしたの?ひび入ってるよ左の頬。これ見てよ』
見せられた頭蓋骨の写真には確かに小さいがはっきりとひびが見えた。
『いや、転んじゃって』
『いや…いやいやいや、どんな転び方したの?はっきり言って顔から車にはねられたとか建物の2階とか3階から顔から落っこちたとかそういうレベルの話だよ?あるいは鉄の大っきいハンマーとかで顔ひっぱたかれた、とかね』
まぁ、感覚としては間違ってない気がした。
『はぁ…そうすか』
『と言っても頬なんでね。そんなに動かす所じゃないから顔にギプスとかはやらないにしてもとりあえず腫れが引くまで2、3日入院しようか』
『は?入院?』
『当たり前でしょ。当分は絶対安静。ちゃんと治さないと歪んじゃって右と左が違う顔になっちゃうよ?元の綺麗な顔に戻したいでしょ?』
『やー、入院は困るよ。そんな場合じゃないんだって』
『どんな場合ですか。病院だって顔にひびが入ってるのに無責任なことできないんですよ。何かあったらそれこそ責任取れないからね』
医者もただでは帰らせてくれなさそうだった。
『じゃあ、入院でお願いします』
そう言ったのは蘭菜だった。蘭菜はペコリと頭を下げて言った。
『なっ、何勝手に決めてんだコラ!』
『あら、顔面ギプスがよかったの?仕方ないじゃない。諦めなさい、入院よ』
『大丈夫だって。こんなの放っときゃ治るって』
綺夜羅はどうしても入院が嫌らしい。
『ダ・メ・よ。あなた、ただでさえ大きな傷残してるのにこれ以上傷を残せられないわ。全く、無茶しすぎなのよ』
『っ…』
『じゃあその方向でいいのかな?早く治す為にはそれが1番の判断だよ』
ということで今回も綺夜羅の入院が決定した。
綺夜羅がアジラナに殴られた瞬間に見えた物。それは拳に装着されたメリケンサックと呼ばれる道具だった。
あの鉄の塊で殴られた故の骨折という訳だ。
だがアジラナの力もそれは凄まじいものだった。
あれだけの力を持っていながら道具を使ってきたことが綺夜羅はどうしても気にくわなかった。
(あのアメリカ野郎…)
蘭菜はテキパキと受付を済まし綺夜羅の状態を説明するなど、まるで綺夜羅の母親かのように立ち振る舞う。
『整形外科は…あ、あっちね。ほら、行くわよ綺夜羅ちゃん』
そんな蘭菜に手を引かれ綺夜羅は恥ずかしがっていた。完全に子供扱いされているので掠がそれを後ろから見てクスクス笑っている。
『テメー掠ぇ。何がそんなおもしれーんだよ』
『べーつーに~』
『ほら、大きな声出さないの。周りの人の迷惑になるでしょ』
『わ…分かってるよ』
掠の笑いは止まらなかった。
『月下さ~ん。月下綺夜羅さ~ん』
『ほら、呼ばれたわよ』
『分かってるよ、もう…』
診察室に入っていくと医師がすぐに口を開いた。
『あー、ひどいねぇ。どうしたのこれ。痛いでしょー』
『まぁ…はい』
もちろん痛いから来ている。
『ちょっとまずレントゲンから撮りましょうね』
言われるがままにあっちへこっちへと歩き回らされ、レントゲンの結果を待って改めて綺夜羅は診察室に呼ばれた。
『これ君、実際どうしたの?ひび入ってるよ左の頬。これ見てよ』
見せられた頭蓋骨の写真には確かに小さいがはっきりとひびが見えた。
『いや、転んじゃって』
『いや…いやいやいや、どんな転び方したの?はっきり言って顔から車にはねられたとか建物の2階とか3階から顔から落っこちたとかそういうレベルの話だよ?あるいは鉄の大っきいハンマーとかで顔ひっぱたかれた、とかね』
まぁ、感覚としては間違ってない気がした。
『はぁ…そうすか』
『と言っても頬なんでね。そんなに動かす所じゃないから顔にギプスとかはやらないにしてもとりあえず腫れが引くまで2、3日入院しようか』
『は?入院?』
『当たり前でしょ。当分は絶対安静。ちゃんと治さないと歪んじゃって右と左が違う顔になっちゃうよ?元の綺麗な顔に戻したいでしょ?』
『やー、入院は困るよ。そんな場合じゃないんだって』
『どんな場合ですか。病院だって顔にひびが入ってるのに無責任なことできないんですよ。何かあったらそれこそ責任取れないからね』
医者もただでは帰らせてくれなさそうだった。
『じゃあ、入院でお願いします』
そう言ったのは蘭菜だった。蘭菜はペコリと頭を下げて言った。
『なっ、何勝手に決めてんだコラ!』
『あら、顔面ギプスがよかったの?仕方ないじゃない。諦めなさい、入院よ』
『大丈夫だって。こんなの放っときゃ治るって』
綺夜羅はどうしても入院が嫌らしい。
『ダ・メ・よ。あなた、ただでさえ大きな傷残してるのにこれ以上傷を残せられないわ。全く、無茶しすぎなのよ』
『っ…』
『じゃあその方向でいいのかな?早く治す為にはそれが1番の判断だよ』
ということで今回も綺夜羅の入院が決定した。
綺夜羅がアジラナに殴られた瞬間に見えた物。それは拳に装着されたメリケンサックと呼ばれる道具だった。
あの鉄の塊で殴られた故の骨折という訳だ。
だがアジラナの力もそれは凄まじいものだった。
あれだけの力を持っていながら道具を使ってきたことが綺夜羅はどうしても気にくわなかった。
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