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前編
闇
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それから白桐は絵を描く時もそうでない時も美術室によく来るようになった。
彼女は何回言っても教室でタバコを吸うので、ヤニの匂いや色が残ってしまわないようフタ付きの灰皿を用意したり消臭スプレーなどを配備し、タバコを吸う時は窓を開けるというルールを作るなど、私は彼女の為に教師でありながらあるまじきことをしていた。
その内お菓子やポット、インスタントコーヒーまで用意して、彼女をもてなしてさえいた。
だがそんなやり取りが何故か新鮮で、私は彼女と過ごす日々を楽しんでしまっていた。
だから私もほとんど美術室にいた。
だがそもそも彼女は何故描けもしない絵を1人美術室で描いていたのか。
『…なんかさ、1人になれる時間とか場所が欲しかったんだ。そんでここ入ってきて、そしたら紙とかあったから』
彼女のように向かう所敵なしの番長であってもそんな風に思うことがあるのが不思議だった。
その道で生き、強き者として君臨するのであれば逃げも隠れもする必要なんてないように思う。
『疲れるんだよ。あんたら大人には分からないかもしれないけど子供には子供の事情がある』
そんなことを言っていた時があった。
深くは聞かなかったがもしかしたらこの子は好きでこんな風に不良ぶったり恐れられたりしているのではないのかもしれないと私は思ってしまった。
そんな白桐も美術室には私がいようと来たし、それこそいいのかな?と思ってしまう位ずっといてくれた。
彼女にとってここが私のようなオジサンがいてもそういう空間であれているということが私はとても嬉しかった。
私は白桐に絵を描くことについて色々なことを教えた。
彼女は勉強なんてもちろん一切しないが絵のことに関してはとにかく熱心だった。
描く時はいつも真剣だったし、分からないこと迷うことはなんでも聞いてアドバイスを求めた。
最初のネコバスに始まり、人物や風景など様々な絵を描き色を塗り仕上げ、いつしか美術室の中は白桐の作品でいっぱいになった。
今ではもう私の指導など全く必要ない程上達したし、その成長が日々1枚1枚見て取れて教える側としてはこの上ない楽しさだった。
『あたし、中学の時別れちゃった親友がいたんだけどさ、そいつめっちゃくちゃ絵が上手かったんだ。多分先生より上手いぜ?多分あいつは今も絵は描いてるんだろうな…』
『ん?引っ越してきたのは相模原なんだろ?近いじゃないか。なんでそんなもう会えないみたいな言い方なんだ?』
それを聞くのに1年程かかってしまったが、彼女が何故描けもしない絵を1人で描いていたのか、その理由がやっと見えた。
『…子供には子供の事情があるんだよ』
『…そうか…』
私には疑問だった。おそらくこの学校の中で1番強く、そんじょそこらの不良位には負けないのであろうこの白桐が何故かたまにこんな風に言ってみたり、そもそも美術室なんかにずっと居すわったりすることがだ。
そして、全ての上級生をやっつけてしまい誰にも敬語なんて使わない彼女が、時々電話で妙に下手に出ているのを私は知っていた。
白桐は私に知られまいとしていたが、さすがにここまで一緒にいると気付けてしまう。
『先生。1つだけ約束してほしいんだ』
『なんだ?』
『あたしがここにいる時以外は絶対あたしに話しかけないでくれ』
『なんだ。私のようなヒゲメガネと喋っていたら舐められてしまうか?』
『いや、そーゆーんじゃねぇんだけどさ…』
まぁ、気持ちは分かるような気がした。番長が美術の先公と仲良くしていたら変に思われるかもしれない。それは私としても考えてあげたい。それはそう思った。
だが今は、本当はそんな単純な話などではなかったのかもしれないと思えている。
これは単に私の感じ方なのだが、彼女は何かとてつもなく大きなものを背負ってしまっているのではないだろうか。
例えばそれはこんな不良学校などとは比べものにならない位の巨大な闇で、絶対に1人では立ち向かい解決することができない程の問題。
しかし何らかの理由でそれを1人で背負わざるを得なくなり、ずっと苦しんでいるのではないだろうか。
確信はないが私がこんなことを思ったのには理由がある。
白桐が唯一頭を下げ敬語を使っている女。彼女の存在を知ったから。
同時にその人物に嫌なものを感じたから。
そしてもう1つ。
この学校で今流行ってしまっている物。
それが闇の匂いをいっそう強くしているからだ。
彼女は何回言っても教室でタバコを吸うので、ヤニの匂いや色が残ってしまわないようフタ付きの灰皿を用意したり消臭スプレーなどを配備し、タバコを吸う時は窓を開けるというルールを作るなど、私は彼女の為に教師でありながらあるまじきことをしていた。
その内お菓子やポット、インスタントコーヒーまで用意して、彼女をもてなしてさえいた。
だがそんなやり取りが何故か新鮮で、私は彼女と過ごす日々を楽しんでしまっていた。
だから私もほとんど美術室にいた。
だがそもそも彼女は何故描けもしない絵を1人美術室で描いていたのか。
『…なんかさ、1人になれる時間とか場所が欲しかったんだ。そんでここ入ってきて、そしたら紙とかあったから』
彼女のように向かう所敵なしの番長であってもそんな風に思うことがあるのが不思議だった。
その道で生き、強き者として君臨するのであれば逃げも隠れもする必要なんてないように思う。
『疲れるんだよ。あんたら大人には分からないかもしれないけど子供には子供の事情がある』
そんなことを言っていた時があった。
深くは聞かなかったがもしかしたらこの子は好きでこんな風に不良ぶったり恐れられたりしているのではないのかもしれないと私は思ってしまった。
そんな白桐も美術室には私がいようと来たし、それこそいいのかな?と思ってしまう位ずっといてくれた。
彼女にとってここが私のようなオジサンがいてもそういう空間であれているということが私はとても嬉しかった。
私は白桐に絵を描くことについて色々なことを教えた。
彼女は勉強なんてもちろん一切しないが絵のことに関してはとにかく熱心だった。
描く時はいつも真剣だったし、分からないこと迷うことはなんでも聞いてアドバイスを求めた。
最初のネコバスに始まり、人物や風景など様々な絵を描き色を塗り仕上げ、いつしか美術室の中は白桐の作品でいっぱいになった。
今ではもう私の指導など全く必要ない程上達したし、その成長が日々1枚1枚見て取れて教える側としてはこの上ない楽しさだった。
『あたし、中学の時別れちゃった親友がいたんだけどさ、そいつめっちゃくちゃ絵が上手かったんだ。多分先生より上手いぜ?多分あいつは今も絵は描いてるんだろうな…』
『ん?引っ越してきたのは相模原なんだろ?近いじゃないか。なんでそんなもう会えないみたいな言い方なんだ?』
それを聞くのに1年程かかってしまったが、彼女が何故描けもしない絵を1人で描いていたのか、その理由がやっと見えた。
『…子供には子供の事情があるんだよ』
『…そうか…』
私には疑問だった。おそらくこの学校の中で1番強く、そんじょそこらの不良位には負けないのであろうこの白桐が何故かたまにこんな風に言ってみたり、そもそも美術室なんかにずっと居すわったりすることがだ。
そして、全ての上級生をやっつけてしまい誰にも敬語なんて使わない彼女が、時々電話で妙に下手に出ているのを私は知っていた。
白桐は私に知られまいとしていたが、さすがにここまで一緒にいると気付けてしまう。
『先生。1つだけ約束してほしいんだ』
『なんだ?』
『あたしがここにいる時以外は絶対あたしに話しかけないでくれ』
『なんだ。私のようなヒゲメガネと喋っていたら舐められてしまうか?』
『いや、そーゆーんじゃねぇんだけどさ…』
まぁ、気持ちは分かるような気がした。番長が美術の先公と仲良くしていたら変に思われるかもしれない。それは私としても考えてあげたい。それはそう思った。
だが今は、本当はそんな単純な話などではなかったのかもしれないと思えている。
これは単に私の感じ方なのだが、彼女は何かとてつもなく大きなものを背負ってしまっているのではないだろうか。
例えばそれはこんな不良学校などとは比べものにならない位の巨大な闇で、絶対に1人では立ち向かい解決することができない程の問題。
しかし何らかの理由でそれを1人で背負わざるを得なくなり、ずっと苦しんでいるのではないだろうか。
確信はないが私がこんなことを思ったのには理由がある。
白桐が唯一頭を下げ敬語を使っている女。彼女の存在を知ったから。
同時にその人物に嫌なものを感じたから。
そしてもう1つ。
この学校で今流行ってしまっている物。
それが闇の匂いをいっそう強くしているからだ。
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