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前編

会いたい

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 旋は1人屋上でタバコを吹かしていた。

『…なんでかなぁー。あれもこれも全部、忘れてたはずなのに…』

 空は晴れて雲はあんなに淀みなく白いのに、彼女の心は晴れない。

 あれから本当はずっと旋の中は曇っている。

『たまにさ…人は忘れて生きることができるなんて、それらしいこと言う奴いるけどよ』

 声の方に振り向くと綺夜羅が1人で立っていた。

『綺夜羅…』

 今の独り言を聞かれていただろうと思うと恥ずかしくなったが、綺夜羅は何も言わず旋の隣まで来るとタバコを取り出した。

『人は忘れない生き物だとあたしは思うけどな』

 そう言ってからタバコを咥えるとZIPPOで火をつけた。

『お前が忘れたいのは自分がツラいからか?』

『…知ってたの?』

『いや、知らなかったよ。さっき初めて聞いたんだ』

『そっか…』

 何年も言わずにいてくれた珠凛。そのせいで彼女にも負担をかけていたのかもしれないと思うと申し訳なかった。

『あいつは墓まで持っていくつもりだったんだろうけどな。苦しそうなお前のこと、見てられなかったんだぜ、多分』

『うん…』

『めぐ、あのな、1つだけ言っとくぞ。大切なものを忘れられる人間になんてなるなよ』

『……え?』

 旋は言われたことが思っていた言葉と違って思わず綺夜羅を見た。
「仕方ねぇじゃん」とか「忘れちまえよ」なんて慰められたり説得されるものとばかり思っていた。

『人によって思うことは違うかもしれねーけどな、あたしはそれでいいと思うぜ?お前は間違ってなんかない』

『…そ…そうかな?』

『あぁ』

 綺夜羅は嘘言わない。あの日から今日まで綺夜羅は1回だって嘘言わなかった。

 あの日の燃の言葉が甦る。

『…本当に?』

『あぁ』

 綺夜羅は旋の目を見てしっかりと頷いた。

 旋は何故か涙が零れそうになりそれをこらえた。

 青いリボンの金髪ポニーテールの少女は真っ直ぐな眼差しで旋のことを見ていた。

『綺夜羅…あたしさ、あの人に…会いに行きたいんだ』

 旋は目を赤くして綺夜羅に本音を打ち明けた。

 綺夜羅は今度は少し優しく笑って頷いた。

『あぁ。会いに行けばいいと思う。あたしは賛成だぜ』
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