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前編

CRS

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『キックボクシング?』

『うん。友達も連れてきていいか聞いたら好きにしていいって。だからさ、よかったら優子も一緒にやらない?』

 優子に断る理由はなく、2人は学校も行かずジムにいりびたりひたすらトレーニングと特訓を続けた。

 2人共必死だったので上達も早く、2人でとことん殴り合い蹴り合う毎日だった。

 不良に無理矢理やらされる殴り合いじゃない。

 お互いを強くする為、お互いを守る為の殴り合いだ。

 そう思っていたから痛みもキツいトレーニングも何も苦ではなく、むしろ楽しさしかなかった。

 互いに技を磨き、互いの良い所悪い所などをアドバイスし合い、毎日目に見える程強くなっていった。

 7月から始め夏休みも秋冬もそこで過ごし、2人は2年の新学期から学校へ行き始めることに決めた。

 樹はアッシュの色のモヒカン風ヘアー。優子は金髪のリーゼントでバッチリきめ、2人共制服の上にスカジャンを羽織り堂々と登校した。

 同級生の不良少女たちは2人が前にも増して派手な姿で現れたので案の定2人を放課後呼び出した。

 相手はいつもの5人。場所は学校の裏。いつも2人が呼び出された場所だ。

『お前ら本当に舐めてるよね。久しぶりに来たと思ったら何その格好。死にたいの?』

 5人は2人を囲んでにらみつけた。

 しかし、もう数人の不良程度に負ける2人ではなかった。

『樹。あたしにやらせて』

 優子はそう言うと樹をさしおいて前に出ていく。

『優子…』

『あの日の借り、返したいの。大丈夫、絶対負けないから』

 優子は自分の手で樹を殴らされたあの時の雪辱をどうしても晴らしたかった。

 優子の目から強い意志を感じた樹はその言葉に頷いた。

『1ラウンドKOだよ、優子』

『あったりまえでしょ?見てな!』

 自信ありげな素振りを見せると不良たちが面白そうに優子を囲む。

『何何?そんな格好したら強くなった気になっちゃったの?学校来なさすぎて忘れちゃったのけ。すぐ思い出させてやんよ』

 優子は目を細め握る拳に力を込めた。

(隙だらけ。油断しすぎ。全員間合い。素人が…)

 それはほんの数秒、たった5発だった。

 まず優子は目の前の女のボディに1発打ち込んだ。

『うぅっ!』

 正面の女が腹を抱えひざを着くと右横の女の顔ど真ん中に裏拳を叩きつけた。

『うげっ!』

 鼻を押さえて右の女が後ずさる。続けて左の女に向かって右足をおもいきり蹴り上げた。
 軽々と蹴り倒し背後にいた2人もパンチ1発ずつで沈めてしまった。

『ほら、かかってきなよ。思い出させてくれるんでしょ?』

 不良少女たちは危険を感じたのだろう。優子が近づくと後ずさり、もう何もしてこようとはしなかった。

『けっ、ダッセ。もーいいよお前ら。つまんねーから帰んな』

 言われて5人はビクビクしながら行ってしまった。

 優子も樹も最後の最後までにらみを利かせていたが5人が見えなくなると優子はやっと動き
『っっっしぃ~!!』
 とどや顔で何度もガッツポーズした。

 その喜び方を見て樹は吹き出していた。

『ぷっ!カッコいい~!かかってきなよ、思い出させてくれるんでしょ?だって。あはは!』

 2人はハイタッチし抱き合い、しばらく笑い転げていた。

『へっへ~。やってやったぜ、あのブス共。見たかってんだ!あぁ~気分いい!今日は眠れるわ~』

 それから静火や唯も学校に来させ、2人もジムに来させてキックボクシングをするようになった。

 学校ではとにかくでかい面をした。変に自分からしかけたりはしなかったが売られたケンカは全て買い勝ってきた。

 相手が年上だろうと大人数だろうと樹と優子は負けなかった。

 その内元々敵だった者が下につくようになり2年でありながらその学校のトップになると、そんな2人の名前はすぐに広まり周辺の学校ともやり合い、やっては勝ち、だからといってパシリに使ったり威張り散らしたりしない気持ちのいい2人に仲間はどんどん増えた。

 今の鬼音姫のメンバーのほとんどがそうやってかつて樹と優子にコテンパンにやられた者ばかりだ。

 相模原一家が大きくなっていくにつれ2人が語るようになった夢がある。

『あたしたちもさぁ、中学卒業したら暴走族やりたくね?』

 あの家出した日に暴走族の集会を見てから樹たちは憧れ始めていた。それは2人を慕っている者たちにも広がっていき、どんどん現実のものへと近づいていった。

『でもさぁ、やるならCRSがいいよな』

 この頃相模原周辺を走っていたのはCRSという関東でも歴史の深い暴走族の1つでとても有名なチームだった。
 CはCATS、RはROOT、SはSPECTERの3チームからなる暴走族で、雪ノ瀬瞬の作った東京連合の原型とも言える。

 ただこの頃のCRSは男たちのチームで女はいない。なので自分たちが入ることはできない。
 それだけが悔しかった。

『なんで女のCRSはねーのかなぁ』

『女のCRS?』

 ある日2人で話していると優子が言い出した。

『女のCRSがあったらあたしらも入れるだろ?』

『へぇ~。面白いこと言うなぁ優子は。えーと、白桐優子がCRSのレディースを結成。さて、そのチームとは?Cから!』

『えっ?えっ?ちょっと待ってよ。CCC…』

 優子は紙とペンを持つと色々書きながら考え始めた。

『こんなのどう?CはCRAZYVENUS』

『おっ!カッコいいじゃん。いーよいーよ!じゃあRは?』

『Rかぁ。R、R…』

 優子はペンを走らせREDZONE、REDKINGと書いたが首をかしげ、次にこう書いた。

『キタ。REDQUEENなんてそれっぽくない?』

『おぉ!ぽい!ぽいよ!じゃあじゃあ、Sは?』

『Sはあれだよ』

 優子はSEXYMARIAと書いた紙を見せた。

 SEXYMARIAというのは厚木を拠点とするギャングだ。

 チームのリーダーは歴代外人で、平塚市の七夕祭りでヤクザ相手にケンカを繰り広げたのは伝説である。

 そのチームの名前をも使ってしまおうというのである。

 それがもし実現すれば前代未聞だ。

『うぉぉ!いや、これマジでカッコいいよ!かなりキテるぜ!』

 そんな風に話し始めたらどんどん盛り上がってしまい、2人は毎日のように語り合っていた。

『やろうぜ!あたしと優子ならどこ行ったって負けねーよ!作っちまうべーよ。CRSのレディース』

 2人は地元を中心に相模原周辺を統率していた。だから本当にCRSという女のチームを作ろうとしていた。

 2人ならできると信じていた。
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