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前編
神奈川一カッコいい女
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次の日、染めたままのカラフルな髪で学校に行くと不良少女たちは樹と優子を当然のように呼び出した。
前日時間がなかったので、その日学校から帰ったら黒染めをする予定だったのだ。
しかし不良少女たちにはそんな事情など関係なかった。
『久しぶりに来たと思ったら何その髪。誰が染めていいっつった?マジでいい加減にしろよ、お前ら』
樹と優子はされるがまま今までで一番ボコボコにされ、起き上がることもできないほど徹底的にやられた。
『お前ら明日までに頭丸めてこいよ!分かったな!』
樹と優子は受け答えすらできなかった。
2人は不良たちが帰ってからも学校の裏でしばらく地べたに転がっていた。
痛いし、力も入らない。更に言えば何故自分たちがここまでされなきゃいけないのか分からなかった。
『…樹ぃ…』
『…な…何?…』
手と手を伸ばせば届く程の距離、2人はやっとの思いで顔を向け合い声を交わした。
『あのさ…タバコある?あたし…あいつらにタバコまで取られちゃって…』
優子はタバコが吸いたい訳ではなかった。
ただ樹と何かがしたいだけだった。
優子は這いずりながら樹の方へ向かう。
『いてて…』
樹はボロボロの体でなんとかタバコの箱を取り出すと、軽くてもう入ってないかもしれないと思ったがまだ1本だけ残っていた。
『あ、あるよ。ラスイチ』
『あっ、じゃあいーや』
ラスイチと聞いて優子は遠慮した。別にタバコが吸いたい訳ではないのだ。
だが樹は惜しげもなく差し出した。
『いいよ。吸いなよ』
『いや、いいって』
『あたし平気だから』
『いや、あたしも別に平気だから』
キリがないと思ったのか樹は少し考えてから言った。
『じゃ~…一吸いずつ吸おっか。半分こしよ』
樹はラスト1本に火をつけると、優子と2人で地面に仰向けになりながら1本のタバコを交互に回しながら一緒に吸っていた。
『あたしたちさぁ…カッコ悪いね…』
『ぷっ!』『ふっ!』
2人共何が面白かったのか吹き出し、そのまま笑い転げた。
『あっはは。あたし、ごめんなさい!ごめんなさい!もうしません許して下さい!だって。ダッサ…』
樹はぶっとばされている最中の自分を思い出し笑いのネタにした。
『そんなこと言ったらあたしだって…そうだね。カッコ悪いね…でも、あの時の樹はカッコよかったよ』
『あの時?』
『ほら。CDパクって捕まっちゃってウチの親呼ばれた時。樹、自分が頼んだんだって言ってくれたでしょ?なんか嬉しかったってゆーか、樹がいてくれてよかったってゆーか…』
別にカッコつけたつもりで言った訳ではない。そうやって言う位しか自分にできることがなかったのだ。
『そんな…あたしあの時なんもできなかったじゃん。優子に全部任せちゃって、そのせいで優子が怒られちゃって。だから、なんか優子に悪くて…』
『あたしの中じゃあん時の樹、神奈川で1番カッコよかったよ』
『はは。嬉しいけど、なんか神奈川一ってビミョー』
『え?そう?神奈川で1番カッコいい女なんて超カッコいいじゃん』
2人は1本のタバコを根元まで大事に吸い続けた。
『だから樹、ありがとね』
そんなこと、もうとっくに分かっていたが、樹は優子のことを本気で友達だと思った。
その友達をせめて守ることすらできないことが悔しかった。
優子の言う通り、神奈川一カッコいい女になって友達の1人位守ってあげられる強さが欲しいと、この時初めて思った。
前日時間がなかったので、その日学校から帰ったら黒染めをする予定だったのだ。
しかし不良少女たちにはそんな事情など関係なかった。
『久しぶりに来たと思ったら何その髪。誰が染めていいっつった?マジでいい加減にしろよ、お前ら』
樹と優子はされるがまま今までで一番ボコボコにされ、起き上がることもできないほど徹底的にやられた。
『お前ら明日までに頭丸めてこいよ!分かったな!』
樹と優子は受け答えすらできなかった。
2人は不良たちが帰ってからも学校の裏でしばらく地べたに転がっていた。
痛いし、力も入らない。更に言えば何故自分たちがここまでされなきゃいけないのか分からなかった。
『…樹ぃ…』
『…な…何?…』
手と手を伸ばせば届く程の距離、2人はやっとの思いで顔を向け合い声を交わした。
『あのさ…タバコある?あたし…あいつらにタバコまで取られちゃって…』
優子はタバコが吸いたい訳ではなかった。
ただ樹と何かがしたいだけだった。
優子は這いずりながら樹の方へ向かう。
『いてて…』
樹はボロボロの体でなんとかタバコの箱を取り出すと、軽くてもう入ってないかもしれないと思ったがまだ1本だけ残っていた。
『あ、あるよ。ラスイチ』
『あっ、じゃあいーや』
ラスイチと聞いて優子は遠慮した。別にタバコが吸いたい訳ではないのだ。
だが樹は惜しげもなく差し出した。
『いいよ。吸いなよ』
『いや、いいって』
『あたし平気だから』
『いや、あたしも別に平気だから』
キリがないと思ったのか樹は少し考えてから言った。
『じゃ~…一吸いずつ吸おっか。半分こしよ』
樹はラスト1本に火をつけると、優子と2人で地面に仰向けになりながら1本のタバコを交互に回しながら一緒に吸っていた。
『あたしたちさぁ…カッコ悪いね…』
『ぷっ!』『ふっ!』
2人共何が面白かったのか吹き出し、そのまま笑い転げた。
『あっはは。あたし、ごめんなさい!ごめんなさい!もうしません許して下さい!だって。ダッサ…』
樹はぶっとばされている最中の自分を思い出し笑いのネタにした。
『そんなこと言ったらあたしだって…そうだね。カッコ悪いね…でも、あの時の樹はカッコよかったよ』
『あの時?』
『ほら。CDパクって捕まっちゃってウチの親呼ばれた時。樹、自分が頼んだんだって言ってくれたでしょ?なんか嬉しかったってゆーか、樹がいてくれてよかったってゆーか…』
別にカッコつけたつもりで言った訳ではない。そうやって言う位しか自分にできることがなかったのだ。
『そんな…あたしあの時なんもできなかったじゃん。優子に全部任せちゃって、そのせいで優子が怒られちゃって。だから、なんか優子に悪くて…』
『あたしの中じゃあん時の樹、神奈川で1番カッコよかったよ』
『はは。嬉しいけど、なんか神奈川一ってビミョー』
『え?そう?神奈川で1番カッコいい女なんて超カッコいいじゃん』
2人は1本のタバコを根元まで大事に吸い続けた。
『だから樹、ありがとね』
そんなこと、もうとっくに分かっていたが、樹は優子のことを本気で友達だと思った。
その友達をせめて守ることすらできないことが悔しかった。
優子の言う通り、神奈川一カッコいい女になって友達の1人位守ってあげられる強さが欲しいと、この時初めて思った。
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