暴走♡アイドル3~オトヒメサマノユメ~

雪ノ瀬瞬

文字の大きさ
上 下
5 / 173
前編

パシリ

しおりを挟む
 哉原樹は相模原に住んでいた。

 今でこそ鬼音姫という神奈川4大暴走族の総長であるこの少女も、最初からその先頭を走ってきた訳ではなかった。

 樹は真面目すぎず不良でもない普通の女の子だった。
 小学校の頃などいつも絵ばかり描いているような子でスポーツなんてやらなかったし、今の豪快なイメージからは程遠く、豹那のようなカリスマという訳でもなければ目立たないどころか友達だって少ないものだった。

 そんな樹が仲良しだったのは白桐優子しらきりゆうこという1人の女の子だった。


『ねぇ樹。放課後どうする?逃げちゃう?』

『どうしよっか…』

 中学1年の時のことだった。樹たちは同学年の不良グループに呼び出されていた。

『カンパかな?なんかパクってこいかな?ホントやんなっちゃうよね』

 大概不良の子に呼び出されるとお金を要求されるか万引きをさせられるかのどちらかだった。

 それを断ったり断らなくても万引きできなかったりすれば殴られる。

 そしてそれはその後もずっと続き、どんどん自分たちの立場が悪くなり学校での生活が脅かされ、そうやって登校拒否になったり転校してしまった子もいる。

 そうなるのが嫌で2人は逆らわずに言うことを聞いてきた。

『この前もCDやらされたじゃん?ウチらもう絶対無理じゃない?いい加減店でも目ぇ付けられてるって。なんとか勘弁してくんないかなぁ…』

『無理だべ。勘弁してほしいなら金持ってこいってなるよ』

 仕方なく2人は呼び出された場所に向かった。そこには何人かの不良少女がタバコを吸ってたむろしていた。

 同じ中学1年だが派手な格好をして髪を染めピアスなどをしている。
 そんな少女たちがたまっているだけで2人は怖くなってしまった。

『あぁ来た来た優子と樹。あのさ、わりーんだけどー先輩からカンパ頼まれちゃってさ、お前らも5000円ずつ集めてくんね?』

 やはりお金の要求だった。優子は顔を青くして困った顔をして言った。

『ごめん…あたし、ちょっと5000円は無理かも…』

『えー?マジ?樹は?』

『…あたしは…1000円位なら』

 樹もなんとか声を絞り出した。

『はー?2人には期待してたんだけどなー』

 不良少女たちは2人がそう言うととても機嫌の悪そうな顔をした。

『じゃーしょうがないね。CDかマンガいっぱいパクってきてよ。それ売って金にするから』

 お金が無理となるとやはりそういう方向に話を持っていかれてしまった。

(やっぱりそうなるんじゃん。って何?あたしたちが一生懸命捕まるか捕まらないかドキドキしながらパクってきたCDとか本ってそれ売っちゃうの?はは、何それ。クソもったいな。マジあのドキドキ返せし)

 樹は気付くと口を開いていた。

『…ごめん。あたしたちパクりとかもうちょっと無理』

 言ってしまった。断ればどうなるかは分かっていた。だがこの時樹は半分テンパっており頭で思うこととは全く違うことを言ってしまっていた。

 言ってすぐに後悔したが言ってしまったものはもうどうしようもなかった。

『え?えっ何?樹もしかしてケンカ売ってんの?』

 そう言って不良少女は樹の目の前まで来ると目で威圧した。

『ケンカなんて売ってないけど、だってあたしたち色んな店でもうマークされちゃってるからマジで捕まっちゃうよ』

 樹は目など合わせられなかったがこの際なのでなんとか嫌だという意思を伝えた。

『へぇ~』

 不良少女は鋭い目を向けるが樹は相手の目を見れなかった。心臓がものすごい早さで動いている。

『じゃあ、お前ケジメね。執行人は優子』

『…え?なんであたしなの?』

 優子は何がなんだか分からないという顔をした。

『こいつ調子乗って生意気なこと言ってんからボコし決定。おい優子、早くコイツぶっとばせよ。それともお前も一緒にケジメ取られたい?』

 優子は泣きそうな顔で首を横に振った。よりによって友達の優子に手を出させようとはなんとも卑劣だ。

『…やりなよ優子。あたしは大丈夫だから』

 樹は優子までやられてしまうのを心配してそう言った。

 優子がやらなければ2人共少女たちにボコボコにされるだけだ。あの人数にやられる位なら樹にしても優子にやられた方が心も体も楽なのかもしれない。

 だが優子はどうだろう。殴らされる方がある意味ツラいのではないか。

『おい優子、早くやれよ』

 不良たちは優子をあおり2人を取り囲んだ。

『優子、いいから早くやりな』

 樹ももうとっくに覚悟を決めてしまっている。

(やだよ…殴りたくなんてない…でも逆らうなんてできない…どうすればいいの?)

『やれよ!』

『やれ!』

『早くしろよ!』

 周りに急かされる中、散々考えたが次の瞬間には手をグーにして樹のことを殴り始めていた。

『もっとおもいっきりやれよ!』

『もういいって言うまでやめんなよ!』

 優子は人のことなど殴ったりしたことなんてなかったが1番仲の良い友達を一生懸命殴っていた。

『もっと顔やれよ!』

『腹いけ!腹!』

 文句を言われながらもおもいきりやっているように見せ、当たる瞬間になんとかブレーキをかけ樹の痛みを少しでも軽くしようとしていた。

 これは樹の感じ方ではあるが、本当は殴りたくないという気持ちや、そんな中で優子ができるせめてもの優しさを感じていた。

 だから樹はただただ耐え続けていた。


 結局それは樹が体中痣だらけになるまで続けさせられた。

『よーし、こんなもんだろ。いい?これからまた生意気なこと言ったらこんなもんじゃ済まさないからね』

 不良少女たちは散々はやし立てたわりに終わるとさっさと行ってしまった。

 すると殴っていた側の優子がその場に泣き崩れた。

『樹ぃ…ごめん…あたし…あたしぃ…』

 地面に突っ伏して涙を流す優子の背中を樹はボロボロの体でさすってあげた。

『優子、気にしないで。あたし、全然大丈夫だから』

 樹は精一杯の笑顔で優子を慰めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

暴走♡アイドル ~ヨアケノテンシ~

雪ノ瀬瞬
青春
アイドルになりたい高校1年生。暁愛羽が地元神奈川の小田原で友達と暴走族を結成。 神奈川は横浜、相模原、湘南、小田原の4大暴走族が敵対し合い、そんな中たった数人でチームを旗揚げする。 しかし4大暴走族がにらみ合う中、関東最大の超大型チーム、東京連合の魔の手が神奈川に忍びより、愛羽たちは狩りのターゲットにされてしまう。 そして仲間は1人、また1人と潰されていく。 総員1000人の東京連合に対し愛羽たちはどう戦うのか。 どうすれば大切な仲間を守れるのか。 暴走族とは何か。大切なものは何か。 少女たちが悩み、葛藤した答えは何なのか。 それは読んだ人にしか分からない。 前髪パッツンのポニーテールのチビが強い! そして飛ぶ、跳ぶ、翔ぶ! 暴走アイドルは出てくるキャラがみんなカッコいいので、きっとアイドルたちがあなたの背中も押してくれると思います。

晩夏光、忘却の日々

佐々森りろ
青春
【青春×ボカロPカップ】エントリー作品  夕空が、夜を連れて来るのが早くなった。  耳を塞ぎたくなるほどにうるさかった蝉の鳴く聲が、今はもう、しない。  夏休み直前、彼氏に別れを告げられた杉崎涼風は交通事故に遭う。  目が覚めると、学校の図書室に閉じ込められていた。  自分が生きているのか死んでいるのかも分からずにいると、クラスメイトの西澤大空が涼風の存在に気がついてくれた。  話をするうちにどうせ死んでいるならと、涼風は今まで誰にも見せてこなかった本音を吐き出す。  大空が涼風の事故のことを知ると、涼風は消えてしまった。  次に病院で目が覚めた涼風は、大空との図書室でのことを全く覚えていなかった……  孤独な涼風と諦めない大空の不思議で優しい、晩夏光に忘れた夏を取り戻す青春ラブストーリー☆*:.。.

おそらくその辺に転がっているラブコメ。

寝癖王子
青春
普遍をこよなく愛する高校生・神野郁はゲーム三昧の日々を過ごしていた。ルーティンの集積の中で時折混ざるスパイスこそが至高。そんな自論を掲げて生きる彼の元に謎多き転校生が現れた。某ラブコメアニメの様になぜか郁に執拗に絡んでくるご都合主義な展開。時折、見せる彼女の表情のわけとは……。  そして、孤高の美女と名高いが、その実口を開けば色々残念な宍戸伊澄。クラスの問題に気を配るクラス委員長。自信家の生徒会長……etc。個性的な登場人物で織りなされるおそらく大衆的なラブコメ。

彼と彼女の365日

如月ゆう
青春
※諸事情により二月いっぱいまで不定期更新です。 幼馴染みの同級生二人は、今日も今日とて一緒に過ごします。 これはそんな彼らの一年をえがいた、365日――毎日続く物語。

春秋花壇

春秋花壇
現代文学
小さな頃、家族で短歌を作ってよく遊んだ。とても、楽しいひと時だった。 春秋花壇 春の風に吹かれて舞う花々 色とりどりの花が咲き誇る庭園 陽光が優しく差し込み 心を温かく包む 秋の日差しに照らされて 花々はしおれることなく咲き続ける 紅葉が風に舞い 季節の移ろいを告げる 春の息吹と秋の彩りが 花壇に織りなす詩のよう 時を超えて美しく輝き 永遠の庭園を彩る

処理中です...