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後編
尾行
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松本は疎井の自宅がよく見える向かい側にそびえ立つマンションの階段の踊り場から双眼鏡で辺りを監視していた。11階と12階をつなぐ階段なので住人もほぼ使うことがなく疎井の自宅がよく見えるのでたまにここを使っている。
疎井はなかなか尻尾をつかませてはくれない。
彼女が外出する時、必ず尾行してきたがどうしても途中で彼女を見失ってしまう。そんな時に限って白狐が現れている。
疎井が周りを気にしたり警戒したりする素振りはなかった。松本だってこの道30年のベテランだ。油断などしていない。
いや、最初は、油断もあったかもしれない。だが疎井をすぐに星とにらんでからは一瞬の気の緩みもなかったのだ。
ショッピングモールやスーパーで買い物をしていたり駅で電車を待っていたはずの彼女が何故か突然消えてしまう。それはまるで狐に化かされたかのように。
気づいているとは考えにくい。いや、というよりそうであってほしくはない。もし仮にそうだとすれば、疎井は最初から分かっていたとさえ思えてしまう。そう考えるのが恐ろしく気持ち悪かった。
考えたくはないが疎井が白狐だとして今この件を追っているのは自分1人。突然襲われることを考えるとかなり危険な気がした。
そんなことを松本が気になりだしたのにはそもそも理由があった。浜田から妙なことを言われた気がしたからだ。
『なぁ…疎井はもう気づいとんのとちゃうか?』
『なんやいきなり。それらしい動きでもあったんか?』
盗聴機のことがバレたのだろうかと松本は思っていた。
『いや、そうやない。お前、例えばいつもここに来る時後ろを気にしたりしてきたか?』
『いや?なんでや?』
松本は何が言いたいのか分からなかった。
『まぁえぇ、まずこれ見てや』
それは浜田が松本に頼まれて書き写した疎井の言葉らしい。
「冬。今日は叶泰くんの命日だね。あたしに任せて、冬は何もしなくていいから。」
これはこの前盗聴機のデータでも聞いた言葉だ。
「おはよう冬。起きてたの?ねぇ聞いて。今日あの女が夢に出てきたの。ホントいまいましいったらありゃしない。今すぐ崖の上から突き落としてやりたいよ。」
それが2番目。
「この入浴剤、とても香りがいいの。冬もたまには出てきて入ったら?」
それが3番目だ。その下に書かれた言葉を見て松本は止まってしまった。その様子を見て浜田が渋々喋りだした。
『実はな、昨日飯食いに行こうとして表出てったらな、マンション出たすぐ目の前に見慣れん女がおったんや。フード被ってマスクしとって怪しい奴やな、誰やねんこいつ思たんやけど、気にせぇへんかったんや。ほんならその女、俺が飯食い終わって戻ってきてもまだおってな、部屋戻って外見たら下からこっち見とんねん。めちゃめちゃ気味悪くてな。あれ、疎井ちゃうか?お前、つけてるつもりがホンマはつけられとったんやないか?』
この道30年のベテラン警部補は言葉を失った。
『…まさか…考えすぎやろ』
『それやったらえぇねん。ただの考えすぎやったらな。でもそう思い始めてから、こいつの声聞くのも気持ち悪いねん。とにかく気をつけてや』
浜田に言われ、さすがの松本も地上レベルをウロウロするのは控えた方がいいと思ったのだ。
それで今日は1番安全に監視できる位置で張り込みをしているという訳である。
『疎井が気づいとるやと?そんなアホな…』
これからはより慎重に張り込まなくてはならない。松本がそんなことを思いながら双眼鏡を覗いていた時だ。誰かが階段を上がってきた。
『あっ、すいませーん。ちょっと通りますね』
女性のようでマスクをしていて恥ずかしそうに顔を軽く手で覆いながら何回も小さく頭を下げながら歩いてくる。
タンクトップに雑な短パンで目のやり場に困り松本は女を通そうと体をかわしながら疎井の自宅を見続けた。
「いい加減目障りね、あの男」
疎井の言葉が頭に浮かんだ。
女が横を通りすぎようとした時、とてもいい匂いがした。
「そろそろ消えてもらおうか」
どこかで似たような匂いを嗅いだ気がしてそれを思い出そうとすると体中に電気が走るような感覚に襲われた。
(あぁ、そうや。この匂いは…)
「こっちがとっくに気づいてること、まだ気づいてないんだから笑っちゃうわよね」
彼女の家に入った時に感じたものだったと気づくと同時に松本は気を失った。
疎井はなかなか尻尾をつかませてはくれない。
彼女が外出する時、必ず尾行してきたがどうしても途中で彼女を見失ってしまう。そんな時に限って白狐が現れている。
疎井が周りを気にしたり警戒したりする素振りはなかった。松本だってこの道30年のベテランだ。油断などしていない。
いや、最初は、油断もあったかもしれない。だが疎井をすぐに星とにらんでからは一瞬の気の緩みもなかったのだ。
ショッピングモールやスーパーで買い物をしていたり駅で電車を待っていたはずの彼女が何故か突然消えてしまう。それはまるで狐に化かされたかのように。
気づいているとは考えにくい。いや、というよりそうであってほしくはない。もし仮にそうだとすれば、疎井は最初から分かっていたとさえ思えてしまう。そう考えるのが恐ろしく気持ち悪かった。
考えたくはないが疎井が白狐だとして今この件を追っているのは自分1人。突然襲われることを考えるとかなり危険な気がした。
そんなことを松本が気になりだしたのにはそもそも理由があった。浜田から妙なことを言われた気がしたからだ。
『なぁ…疎井はもう気づいとんのとちゃうか?』
『なんやいきなり。それらしい動きでもあったんか?』
盗聴機のことがバレたのだろうかと松本は思っていた。
『いや、そうやない。お前、例えばいつもここに来る時後ろを気にしたりしてきたか?』
『いや?なんでや?』
松本は何が言いたいのか分からなかった。
『まぁえぇ、まずこれ見てや』
それは浜田が松本に頼まれて書き写した疎井の言葉らしい。
「冬。今日は叶泰くんの命日だね。あたしに任せて、冬は何もしなくていいから。」
これはこの前盗聴機のデータでも聞いた言葉だ。
「おはよう冬。起きてたの?ねぇ聞いて。今日あの女が夢に出てきたの。ホントいまいましいったらありゃしない。今すぐ崖の上から突き落としてやりたいよ。」
それが2番目。
「この入浴剤、とても香りがいいの。冬もたまには出てきて入ったら?」
それが3番目だ。その下に書かれた言葉を見て松本は止まってしまった。その様子を見て浜田が渋々喋りだした。
『実はな、昨日飯食いに行こうとして表出てったらな、マンション出たすぐ目の前に見慣れん女がおったんや。フード被ってマスクしとって怪しい奴やな、誰やねんこいつ思たんやけど、気にせぇへんかったんや。ほんならその女、俺が飯食い終わって戻ってきてもまだおってな、部屋戻って外見たら下からこっち見とんねん。めちゃめちゃ気味悪くてな。あれ、疎井ちゃうか?お前、つけてるつもりがホンマはつけられとったんやないか?』
この道30年のベテラン警部補は言葉を失った。
『…まさか…考えすぎやろ』
『それやったらえぇねん。ただの考えすぎやったらな。でもそう思い始めてから、こいつの声聞くのも気持ち悪いねん。とにかく気をつけてや』
浜田に言われ、さすがの松本も地上レベルをウロウロするのは控えた方がいいと思ったのだ。
それで今日は1番安全に監視できる位置で張り込みをしているという訳である。
『疎井が気づいとるやと?そんなアホな…』
これからはより慎重に張り込まなくてはならない。松本がそんなことを思いながら双眼鏡を覗いていた時だ。誰かが階段を上がってきた。
『あっ、すいませーん。ちょっと通りますね』
女性のようでマスクをしていて恥ずかしそうに顔を軽く手で覆いながら何回も小さく頭を下げながら歩いてくる。
タンクトップに雑な短パンで目のやり場に困り松本は女を通そうと体をかわしながら疎井の自宅を見続けた。
「いい加減目障りね、あの男」
疎井の言葉が頭に浮かんだ。
女が横を通りすぎようとした時、とてもいい匂いがした。
「そろそろ消えてもらおうか」
どこかで似たような匂いを嗅いだ気がしてそれを思い出そうとすると体中に電気が走るような感覚に襲われた。
(あぁ、そうや。この匂いは…)
「こっちがとっくに気づいてること、まだ気づいてないんだから笑っちゃうわよね」
彼女の家に入った時に感じたものだったと気づくと同時に松本は気を失った。
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