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後編
姐の務め
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ホテルの中、和室の大広間を使って超一流ホテル嵐山グループの1人娘イデアは踊りの稽古をしていた。イデアが踊るのは鳳凰の舞という踊りだ。他の舞妓が様々な色の着物で踊る中、1人紅蓮の着物に身をまとい火炎のように真っ赤な姿で鳳凰となり舞うのだ。その姿はとても鮮やかで、イデアの美貌が一段と冴え見る者を度々虜にさせた。
イデアが稽古を終えると広間の外で愛羽が立っていた。イデアは目も合わさず通りすぎていく。
『あっ!』
愛羽は急いで追いかけイデアの前に立ちはだかった。
『イデアさん…もしかして、土曜日』
『もちろん参上致します』
全て喋り終える前に言い返されてしまった。
『そんなことを聞きにわざわざここへ来はったんどすか?』
あの陽気で片言のキュートなイデアはどこにもいなかった。
『体は治ったみたいやな。全て終わるまで寝ていればよかったものを』
『イデアさん聞いて、誰かの罠なの。色んなチームの人たちをみんなで潰し合いをさせようとしてるんだよ!意味のない戦いで意味もなく犠牲者が出る。それじゃその人の思うつぼなの!』
『それについては風雅はんにも伝えたはずでっしゃろ?潔白を証明できんのであれば信用などできまへん。あんさんも邪魔するのであれば敵と見なします。わたくしが申せることはそれ以上でもそれ以下でもありまへん。分かったらさっさと消えなはれ』
あまりの言葉に愛羽は悲しくなった。あの夜の楽しかった思い出が頭の中をめぐり愛羽は唇を噛みしめた。
『それか…今すぐあんさんが風矢咲薇の所へわたくしを案内してくれるんどすか?』
イデアは鋭い視線を向けた。
『咲薇ちゃんは白狐なんかじゃない!』
愛羽が言うとイデアは愛羽の胸ぐらをつかみ上げた。
『おどれには耳がないんか!!それをここで証明せぇ!!今すぐや!!』
イデアは怒鳴り散らすと手を放し足早に行ってしまおうとした。
『…分かった。土曜日はあたしも行く!!でもイデアさん。あたしはあたしの友達、必ず守ってみせるから!!』
イデアは何も言わず後ろ姿のまま行ってしまった。愛羽はそれを見て、もうすでに動きだし止められないことなのを肌で感じていた。
だがイデアと戦うなんてできないし、考えたくもなかった。
愛羽が去った後、イデアはまた鳳凰の舞を踊っていた。しかしその手には短刀が握られ、踊りに合わせてそれを振り回していた。
周りの空間を斬り裂くようにしてイデアが斬っていたのは彼女自身の涙である。
斬っても斬っても落ちてくるそれを、彼女はどんな思いで裂いているのだろう。
一緒に過ごした夜を思い出していたのは愛羽だけではなかった。
やりきれぬ思いを振り払い刀を鞘に収めると呼吸を落ち着け広間を出た。
『これが…姐の務めや…』
イデアが稽古を終えると広間の外で愛羽が立っていた。イデアは目も合わさず通りすぎていく。
『あっ!』
愛羽は急いで追いかけイデアの前に立ちはだかった。
『イデアさん…もしかして、土曜日』
『もちろん参上致します』
全て喋り終える前に言い返されてしまった。
『そんなことを聞きにわざわざここへ来はったんどすか?』
あの陽気で片言のキュートなイデアはどこにもいなかった。
『体は治ったみたいやな。全て終わるまで寝ていればよかったものを』
『イデアさん聞いて、誰かの罠なの。色んなチームの人たちをみんなで潰し合いをさせようとしてるんだよ!意味のない戦いで意味もなく犠牲者が出る。それじゃその人の思うつぼなの!』
『それについては風雅はんにも伝えたはずでっしゃろ?潔白を証明できんのであれば信用などできまへん。あんさんも邪魔するのであれば敵と見なします。わたくしが申せることはそれ以上でもそれ以下でもありまへん。分かったらさっさと消えなはれ』
あまりの言葉に愛羽は悲しくなった。あの夜の楽しかった思い出が頭の中をめぐり愛羽は唇を噛みしめた。
『それか…今すぐあんさんが風矢咲薇の所へわたくしを案内してくれるんどすか?』
イデアは鋭い視線を向けた。
『咲薇ちゃんは白狐なんかじゃない!』
愛羽が言うとイデアは愛羽の胸ぐらをつかみ上げた。
『おどれには耳がないんか!!それをここで証明せぇ!!今すぐや!!』
イデアは怒鳴り散らすと手を放し足早に行ってしまおうとした。
『…分かった。土曜日はあたしも行く!!でもイデアさん。あたしはあたしの友達、必ず守ってみせるから!!』
イデアは何も言わず後ろ姿のまま行ってしまった。愛羽はそれを見て、もうすでに動きだし止められないことなのを肌で感じていた。
だがイデアと戦うなんてできないし、考えたくもなかった。
愛羽が去った後、イデアはまた鳳凰の舞を踊っていた。しかしその手には短刀が握られ、踊りに合わせてそれを振り回していた。
周りの空間を斬り裂くようにしてイデアが斬っていたのは彼女自身の涙である。
斬っても斬っても落ちてくるそれを、彼女はどんな思いで裂いているのだろう。
一緒に過ごした夜を思い出していたのは愛羽だけではなかった。
やりきれぬ思いを振り払い刀を鞘に収めると呼吸を落ち着け広間を出た。
『これが…姐の務めや…』
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