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中編

Z2に乗った魔神

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 一方、追いかけていった瞬と咲薇だが着実に白狐との差を縮めていた。特に瞬はもうすでに白狐の後ろを捕えていた。

(さすがや。何乗ってもあんな走りができるんわ、すごいの一言や。いける、これなら白狐を捕まえれる!)

 2人で左右から迫っていけば停めることができる。咲薇がそう思った時、前方に単車が現れた。3台は思わずブレーキを踏んだ。また新たに白狐を追う者だろうか。

 しかしその人物は白狐に向かって言った。

『行っていいわ』

 言われて白狐は少し戸惑ったように見えたがすぐに走りだし一気に加速した。

『待てっ!』

 瞬もその後を追おうとしたが前方の人物は行く手を阻む。

『どいてよ!あの単車を追ってるの!』

 単車に乗る者、興味のある者なら誰もが憧れ1度は乗ってみたいと夢見るであろうカワサキの750、Z2に跨がったその女は落ち着いた様子で言った。

『分かる?あなたたちは今自然保護法違反を犯したのよ』

 こちらを見下しながら妖しく笑うその顔はまるで作り物のように綺麗だった。肌もそうだが顔の作りもだ。どこまで整形すればこんな綺麗な顔になれるのだろう。

 そんな風に思いながらも瞬はこの目の前の女から危険な雰囲気を感じていた。

 すると咲薇が突然青い顔で瞬の腕をつかんだ。

『Z2やと…瞬、あかん。こいつは天王道や』

『天、王道?』

『さっき大阪喧嘩會の5人がおったやろ?その喧嘩會を作ったんが天王道姉妹言うてな、生きる伝説みたいな奴らや。ヤクザもこいつらには手ぇ出されへん言われる位の超大物や。確か去年少年院送りにされた聞いたけど、まさか帰っとったとは…』

 咲薇は完全に恐れをなしているようだが瞬は引かなかった。

『で…その伝説くんがあたしたちになんの用なの?』

 天王道はニッコリ笑って言った。

『あなたたち、今白狐を追ってたでしょ?ごめんなさいね、あの狐はこの辺の天然記念物なの。分かる?狩ったらいけないの。特によそ者にそうやってウロウロされると、とっっても目障り』

『手ぇ出してきてるのはあっちだよ。こっちは友達斬られてる上に単車まで取られてるんだから追うに決まってるでしょ』

 瞬がそう言い返すと天王道は少し意外そうな顔をした。

『…なるほど。彼女もあなたたちを狙っていると。へぇ…』

『分かったらどいて。話してる暇はないの』

 天王道はやれやれという表情で溜め息をつくと、瞬の服をつかんでまるで子犬でも放り投げるかのように単車から引きずり降ろし投げ飛ばした。

『あなたは自然保護法より、まず態度と口の利き方が私の気に障ったわよ』

 天王道は瞬の方へ歩み寄った。

『あれ?おかしいなぁ…少女は最近…言葉遣いや態度に…気をつけていましたが…伝説くんには人間の言葉が…理解できなかったようです…』

 瞬は雪ノ瀬節で喋り立ち上がると天王道と向かい合った。

『ねぇ君、あれのことを彼女って言ってたけど誰だか知ってるの?仲間なのかな?』

『喋りたがるゴミね』

 質問には答えず天王道はしかけた。

(速い!)

 思うのと同時に瞬は強烈な右拳に殴り飛ばされた。

『瞬!』

 咲薇が見ていられず間に入る。

『黙って見ていればケガせずに済むのよ?風矢咲薇。』

『何故あたしの名を…』

『何故って、名前位知ってるわよ。暴走侍は私たちにはたてつかない、お利口さんな暴走族だと思っていたけどあなたも調教されたいの?』

『魔神、天王道煌。(てんのうどうきらめ)なんでや、あんたにはなんも関係あれへんやろ?頼む、ここは勘弁してくれ』

 咲薇はこれ以上この女とモメたくない一心でなんとか説得しようとしたが後ろから肩を叩かれた。

『風矢さん。大丈夫だから、どいて』

 咲薇は振り向いてゾッとした。そこにはあの女の子らしい雪ノ瀬瞬はいなかった。見えたのは狼の目をした少女だ。

『魔神?へぇ…いっぱい名前があるんだね』

『元気がいいのね。殴りがいがあるわ』

 今度は瞬が先に動いた。まず助走をつけ走りだすと飛び上がり空中で3回転し回し蹴りを放った。得意のアクロバットで攻めていく。だが天王道煌は腕で蹴りを受けた。

『へぇ…なかなかやるじゃない』

 瞬はひるまず右の拳を打っていったが腕をつかまれまた投げられてしまった。

『うぁっ』

 今度はおもいきり一本背負いのようにしてアスファルトに叩きつけられ、天王道煌はすかさず蹴りを入れ踏みつけた。その綺麗な顔と裏腹に容赦がない。それに何より想像以上の怪力らしい。

 瞬は地面をグルっと回って跳ね起きると回し蹴りにパンチも加えて連続攻撃にいくが、地下格闘技のチャンピオンである瞬の攻撃を天王道煌は顔色も変えずに受ける。見事という他ないが瞬もわずかな隙を見逃さなかった。

 鋭い裏拳が煌のほほに叩き込まれた。だがその一撃が彼女のプライドを傷つけた。

『ドチビが!この顔に何してくれんねん!』

 どうやら怒ると素が出てしまうらしく初めて彼女の口から乱暴な関西弁が出た。煌は瞬を殴り飛ばすと単車のミラーで顔を確認した。

『アカン…赤くなっとる』

 何やら煌の携帯が鳴っていたようで顔をミラーで覗きながら電話に出た。

『もしもし姉さん?えぇ問題ないわ。えぇ分かった、すぐ行く』

 電話を切ると肩を叩かれ、振り向くとその瞬間拳が飛んできた。

『ぐっ!』

 今度はもろだ。目の斜め上が少し赤くなっている。

『何逃げようとしてんの?まだ始まったばっかりなのに』

 瞬は微かに笑いながらやる気満々のオーラを見せた。ドーピングをしていないとはいえ負けるつもりなど一切ない。

 煌はまるでどこぞの「嬢王様」のように顔を怒りで歪ませたが前には出なかった。

『本当に残念だけど呼ばれてるの。だから今日だけ見逃してあげる。でも忘れないで。今日からあなたは私の大事なターゲットに指定したわ。このまま終わりになんてさせないから覚悟しといてね』

 天王道煌は妖しく笑うとZ2に跨がり去っていった。
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