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中編
龍玖と神楽
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『そうか…色々と世話になってるとは聞いてたけど、そこまでとは知らなかったよ』
伴は愛羽の兄龍玖を自宅へ招待し、愛羽と出会ってからのことを話していた。携帯で撮った写真の画像を見せながら身振り手振りも交えて、これでもかというほど伴は喋り続けた。
『血は争えないなんて言うけど本当ね。あなたもきっとあぁだったんでしょう?』
『いや、俺は…』
龍玖はまだ出所してきたばかりだからなのか元気がないように見える。伴が何時間も積極的に話を盛り上げてきたのにどこか上の空に感じてさえいた。
『伴、あのさ』
『はい!』
突然名を呼ばれ伴はあることを思った。
(そ、そろそろかしら?)
朝、樹に言われた言葉が脳裏に甦る。
「1発でも10発でもやらせてやってみ?」
(あぁ、ついにその時なのね。)
「あ?バカヤローSEXだよSEX」
(私もとうとう大人に1歩近づくんだわ)
「SEXだよSEX」
(哉原…)
「SEXだよセ…」
(哉原うるさいわよ!)
伴は覚悟を決めようとしたが聞こえてきたのは思っていた言葉とは違った。
『ちょっと連れてってほしい所があるんだ』
(…え?どういうこと?ここではダメだったかしら?ま!まさかラブホテル!?)
『え、えぇ。どこに行きましょうか…』
『神楽絆の所に連れてってくれないか』
(…へ?)
『か、神楽の?え?え?え、えぇいいわ。でも多分仕事中だと思うけど…』
(え?何?神楽とどういう関係?ま…まさか元カノ!?聞いてないわ!あぁいうのがタイプだったのかしら?意外だわ…)
伴の頭はかなり混乱していたが2人は神楽の店へ向かうことになった。
『いらっしゃいませ』
clubKは横浜にあるキャバクラで神楽が経営者兼ママを務める店である。
入り口のドアを開けるとスーツの女が出迎えた。
『あー!伴さーん。絆ママですか?呼んでくるんでVIPルームで待っててください!』
2人はまるで元から予約でもしていたかのように簡単に通されるとVIPルームでしばらく待たされた。
伴はここに来るのは4回目だ。あれから1人で3度飲みに来ている。
神楽はその度に額を押さえたが店の他のスタッフや女たちには意外と伴のキャラはウケた。完全に心を開ききっている伴に神楽も文句は言えず、その内に伴のペースにハマってしまった。
だが今日はさすがの伴もいつもの調子で言葉を発せずにいた。龍玖からも何か言ってくれそうな気配はなく、伴はおもいきって聞くしかなかった。
『…あの、龍玖?神楽とは、そのお知り合いなの?』
『…そうだな。よく知ってる』
(やっぱり元カノだったのね…)
どういう関係かも聞かない内に伴が肩を落としていると神楽の声が近づいてきた。
『ったく…如月の奴、今日は一体なんの用だっていうんだよ。あたしゃ忙しいっていうのにさ~』
部屋の中まで聞こえてくるだけの声で文句を言いながら歩いてくるのが聞こえた後、ドアが開き神楽がドレス姿で現れた。
神楽も龍玖もすぐにお互いのことを確認したようだが伴は驚きを隠せなかった。
龍玖が神楽を見るなり床にひざを着いて土下座しようとしていたからである。伴にはそれが何を意味することなのか分かる訳もなく、その場は数秒沈黙が続いていた。
だが1番信じられないという顔をしていたのは神楽だった。
『…何しに来た…』
神楽は体と声を震わせ、抑えられない怒りをなんとかこらえているという様子である。
『すまなかった…』
龍玖は振り絞るような声を出して額を床に押しつけた。
『なんの真似だ…どの面下げて来たんだよ!!』
『ちょっと神楽、そんな言い方…』
『お前は黙ってな!!』
店が思わず静まり返ってしまう程の声で怒鳴り散らされ、伴は入り込む隙間もなく立ち尽くしていた。
『…絆。お前には本当に申し訳ないと思ってる。あの時俺がいれば、あいつは死んだりしなかった』
『それらしいこと言って…』
神楽は怒りよりも憎しみを表情に出していた。体の震えはずっと治まらずにいる。
『それらしいこと言って片付けようとしてんじゃねぇよ!!悪いと思ってんだったら死ね!!死んで詫びれクソが!!』
伴は聞いていく中で、そもそも自分がとんでもない勘違いをしていたことにようやく気がついた。
『なんであいつが死ななきゃならなかったと思う?お前の身代わりになったのさ。散々てめぇが盛り上げてきたチームのせいで、そのケツ拭かされて死んだんだ。てめぇが何しようとどう思おうと、もうあいつは帰ってこないんだよ!!』
神楽は龍玖につかみかかると全力で殴り倒した。それから蹴り、踏みつけ、壁に頭を叩きつけ無抵抗な龍玖をとことん引きずり回した。
『お前が死ぬはずだったんだ!!お前が死ねばよかったんだよ!!』
普段ケンカする時でさえ声を荒らげる方ではない神楽が珍しく感情をむき出しにして呼吸を乱している。
『…絆、愛羽のこと助けてやってくれてありがとうな』
龍玖が地面に突っ伏したまま言うと神楽は哀しげに苦笑した。
『おかしいだろ…あたしはあたしでお前の妹なんて助けちまってさ。笑えてくるよ…まぁ、あいつには何の罪もないけどさ。あたしの運命がどーかしてんだろうね…』
龍玖は立ち上がりまた頭を下げる。
『絆、俺にこれからの人生でお前の為に何かできることをさせてくれ。頼む、この通りだ』
『いらねぇよ。てめぇになんて何1つだってしてほしくないね!2度と面見せるな!横浜にも2度と来るな。あたしが言えるのはそれだけだ。』
『…せめて、あいつの墓の場所だけでも教えてくれないか』
龍玖の頭を下からおもいきり蹴り上げた。
『ふざけんじゃねぇよ!!てめぇ聞いてたのか!?2度と横浜に来んなっつってんだよ!!』
『…俺は、それを約束できない。これからお前に何かあれば俺は必ず飛んでくる。お前が幸せになれるように妹と同じ位考えていくつもりだよ。それがあいつへの俺の誓いだから、それを約束することはできない。ただ…なるべく顔を見せない努力はする』
『帰れ。言いたいことが済んだらとっとと消えな』
『分かった…』
龍玖は言われた通りにするしかなかった。こうなることは最初から分かっていた。その上で伴に無理を言って連れてきてもらったのだ。
これ以上いても神楽に申し訳ないだけだった。
龍玖が出ていき、伴も何も言えないままその場を後にした。
伴は愛羽の兄龍玖を自宅へ招待し、愛羽と出会ってからのことを話していた。携帯で撮った写真の画像を見せながら身振り手振りも交えて、これでもかというほど伴は喋り続けた。
『血は争えないなんて言うけど本当ね。あなたもきっとあぁだったんでしょう?』
『いや、俺は…』
龍玖はまだ出所してきたばかりだからなのか元気がないように見える。伴が何時間も積極的に話を盛り上げてきたのにどこか上の空に感じてさえいた。
『伴、あのさ』
『はい!』
突然名を呼ばれ伴はあることを思った。
(そ、そろそろかしら?)
朝、樹に言われた言葉が脳裏に甦る。
「1発でも10発でもやらせてやってみ?」
(あぁ、ついにその時なのね。)
「あ?バカヤローSEXだよSEX」
(私もとうとう大人に1歩近づくんだわ)
「SEXだよSEX」
(哉原…)
「SEXだよセ…」
(哉原うるさいわよ!)
伴は覚悟を決めようとしたが聞こえてきたのは思っていた言葉とは違った。
『ちょっと連れてってほしい所があるんだ』
(…え?どういうこと?ここではダメだったかしら?ま!まさかラブホテル!?)
『え、えぇ。どこに行きましょうか…』
『神楽絆の所に連れてってくれないか』
(…へ?)
『か、神楽の?え?え?え、えぇいいわ。でも多分仕事中だと思うけど…』
(え?何?神楽とどういう関係?ま…まさか元カノ!?聞いてないわ!あぁいうのがタイプだったのかしら?意外だわ…)
伴の頭はかなり混乱していたが2人は神楽の店へ向かうことになった。
『いらっしゃいませ』
clubKは横浜にあるキャバクラで神楽が経営者兼ママを務める店である。
入り口のドアを開けるとスーツの女が出迎えた。
『あー!伴さーん。絆ママですか?呼んでくるんでVIPルームで待っててください!』
2人はまるで元から予約でもしていたかのように簡単に通されるとVIPルームでしばらく待たされた。
伴はここに来るのは4回目だ。あれから1人で3度飲みに来ている。
神楽はその度に額を押さえたが店の他のスタッフや女たちには意外と伴のキャラはウケた。完全に心を開ききっている伴に神楽も文句は言えず、その内に伴のペースにハマってしまった。
だが今日はさすがの伴もいつもの調子で言葉を発せずにいた。龍玖からも何か言ってくれそうな気配はなく、伴はおもいきって聞くしかなかった。
『…あの、龍玖?神楽とは、そのお知り合いなの?』
『…そうだな。よく知ってる』
(やっぱり元カノだったのね…)
どういう関係かも聞かない内に伴が肩を落としていると神楽の声が近づいてきた。
『ったく…如月の奴、今日は一体なんの用だっていうんだよ。あたしゃ忙しいっていうのにさ~』
部屋の中まで聞こえてくるだけの声で文句を言いながら歩いてくるのが聞こえた後、ドアが開き神楽がドレス姿で現れた。
神楽も龍玖もすぐにお互いのことを確認したようだが伴は驚きを隠せなかった。
龍玖が神楽を見るなり床にひざを着いて土下座しようとしていたからである。伴にはそれが何を意味することなのか分かる訳もなく、その場は数秒沈黙が続いていた。
だが1番信じられないという顔をしていたのは神楽だった。
『…何しに来た…』
神楽は体と声を震わせ、抑えられない怒りをなんとかこらえているという様子である。
『すまなかった…』
龍玖は振り絞るような声を出して額を床に押しつけた。
『なんの真似だ…どの面下げて来たんだよ!!』
『ちょっと神楽、そんな言い方…』
『お前は黙ってな!!』
店が思わず静まり返ってしまう程の声で怒鳴り散らされ、伴は入り込む隙間もなく立ち尽くしていた。
『…絆。お前には本当に申し訳ないと思ってる。あの時俺がいれば、あいつは死んだりしなかった』
『それらしいこと言って…』
神楽は怒りよりも憎しみを表情に出していた。体の震えはずっと治まらずにいる。
『それらしいこと言って片付けようとしてんじゃねぇよ!!悪いと思ってんだったら死ね!!死んで詫びれクソが!!』
伴は聞いていく中で、そもそも自分がとんでもない勘違いをしていたことにようやく気がついた。
『なんであいつが死ななきゃならなかったと思う?お前の身代わりになったのさ。散々てめぇが盛り上げてきたチームのせいで、そのケツ拭かされて死んだんだ。てめぇが何しようとどう思おうと、もうあいつは帰ってこないんだよ!!』
神楽は龍玖につかみかかると全力で殴り倒した。それから蹴り、踏みつけ、壁に頭を叩きつけ無抵抗な龍玖をとことん引きずり回した。
『お前が死ぬはずだったんだ!!お前が死ねばよかったんだよ!!』
普段ケンカする時でさえ声を荒らげる方ではない神楽が珍しく感情をむき出しにして呼吸を乱している。
『…絆、愛羽のこと助けてやってくれてありがとうな』
龍玖が地面に突っ伏したまま言うと神楽は哀しげに苦笑した。
『おかしいだろ…あたしはあたしでお前の妹なんて助けちまってさ。笑えてくるよ…まぁ、あいつには何の罪もないけどさ。あたしの運命がどーかしてんだろうね…』
龍玖は立ち上がりまた頭を下げる。
『絆、俺にこれからの人生でお前の為に何かできることをさせてくれ。頼む、この通りだ』
『いらねぇよ。てめぇになんて何1つだってしてほしくないね!2度と面見せるな!横浜にも2度と来るな。あたしが言えるのはそれだけだ。』
『…せめて、あいつの墓の場所だけでも教えてくれないか』
龍玖の頭を下からおもいきり蹴り上げた。
『ふざけんじゃねぇよ!!てめぇ聞いてたのか!?2度と横浜に来んなっつってんだよ!!』
『…俺は、それを約束できない。これからお前に何かあれば俺は必ず飛んでくる。お前が幸せになれるように妹と同じ位考えていくつもりだよ。それがあいつへの俺の誓いだから、それを約束することはできない。ただ…なるべく顔を見せない努力はする』
『帰れ。言いたいことが済んだらとっとと消えな』
『分かった…』
龍玖は言われた通りにするしかなかった。こうなることは最初から分かっていた。その上で伴に無理を言って連れてきてもらったのだ。
これ以上いても神楽に申し訳ないだけだった。
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