暴走♡アイドル ~ヨアケノテンシ~

雪ノ瀬瞬

文字の大きさ
上 下
47 / 59
後編

夜明けの空に天使の羽

しおりを挟む
『花を?』

 玲璃の突然の言葉に一同は疑問を抱いた。

 ベイブリッジに残された玲璃たちは、琉花と千歌から愛羽が聞かされたように都河泪という少女の存在と東京連合となった経緯など全てを聞いていた。

『だからって、なんだってその病院に行くなんて言い出したんだ?おい麗桜、説明』

『えっ!俺!?』

 樹の疑問はもっともで、さすがにその場にいた誰もが理解に苦しんだ。都河という少女がかわいそうなのは分かる。だが自分たちこそ、その少女と同じことを仲間にされ蘭菜と蓮華は全く同じ状況に陥っている。

 愛羽が何を思ったのかは不明だし、わざわざ都河泪に会いに行く理由はない。麗桜にそれを説明しろと言ってもそれは無理だった。

『目の前で起きてることを見て、あいつの中で優先順位が変わっちまったんだ。蘭菜と蓮華やられたことじゃなくて、その泪って奴のこと考えられてないことに腹立ててたから』

 玲璃には愛羽のそういう所がなんとなく分かっているようだ。

『全く、おかしな奴だねぇ。それで、どうするんだよ。この後』

 豹那はやる気なさそうにタバコを吹かしまくっている。

『あいつが正しいと思ってそうするなら、あたしもそれでいいと思う。だからちょっとみんなにお願いがあるんだけど…』

 玲璃が言い出したのは、各自なんでもいいしどこかで咲いていたものでもいいから花を持ってきてほしいということだった。

『やれやれ、まだ寝かせてくれないのかい?暴走愛努流。あたしの人件費いくらだと思ってんだい?アフター料金払ってもらうようだよ』

 神楽は風雅に肩を組み絡んでいる。風雅は笑ってやり過ごしている。

『はっはっは!いいじゃねぇかよ。こんなの正月位しかないんだぜ。いい記念じゃねーか』

 樹は相変わらず機嫌が良さそうだ。

『それじゃあ、今日はこのまま青空集会ね。素敵だわ』

『いや、伴さん、そうじゃなくて。今日はお見舞い集会っす』

 そうして暴走愛努流、夜叉猫、悪修羅嬢、覇女、鬼音姫、そして東京連合の合同青空集会改め、お見舞い集会が行われることになった。

 それは近年例を見ない、いや、歴史上でも類を見ない程の盛大な集会になり、途切れることのない超長蛇のもはや竜のような列になっていった。

(行くぜ、愛羽。待ってな!)

 玲璃は2本の向日葵を大事そうに持っていた。






 病室に琉花と千歌が花を抱えて入ってきた。

 3人共なかなか最初の言葉が出なかったが、そこは瞬が口を開いた。

『2人共、聞いて。泪がね、動いたんだ…頑張ってるんだって。まだ戦ってくれてるんだって…』

 瞬が声にならない声で言うと、琉花と千歌は2人で瞬の肩を抱いてあげていた。

 愛羽はそれ以上そこにいれない気持ちになってしまい、静かに部屋を出ていった。

 病院を出ると、玲璃たちと4大チームの総長たちが待っていた。

『どうだアホ羽!演出、主演、共にあたしだ。最高だったろ!』

 愛羽は痛む体でできるだけ走って玲璃に抱きついていった。

『痛って!痛てーなボケ!体中ボロボロなんだからちっとは遠慮しろよ!』 

 玲璃は言うが愛羽はもうそんなの関係なしに抱きしめる。

『おい。確かに考えたのはお前だけど、今日の主役はどう考えてもあたしだろ』

 玲璃の「演出、主演、共にあたし」という言葉を豹那は聞き逃さず、我こそはと名乗りを上げた。

 完全に敵の裏をかいたベイブリッジからの参上、そしてあの雪ノ瀬瞬と想像を超える死闘を繰り広げた緋薙豹那。

 蓮華への思いからチームとしての壁を壊し戦うことを決心した。闘いの神阿修羅の如く戦うその美しい姿が甦る。

『あら。あなたは途中参戦でしょ?そういうのサブって言うのよ?私は今日あの橋を戦いながら渡ったわ。主役というのなら私の方じゃないかしら』

 この件でもうすっかり豹那に心を許してしまっている如月伴。その数およそ100対500の戦いに正面から真っ向勝負をしかけていった。

 その強さはおしとやかな外見と言葉遣いからは全く想像がつかず、今日1人で1番多くの敵を倒したのは間違いなく彼女だ。

『聞き捨てならないねぇ。おい、風雅。あんたボッとしないで話に加わってちゃんと説明しなよ。「覇女の神楽さんのおかげで今日は勝てました」ってさ』

 周りに聞こえるだけの大きな声で風雅に言うと、豹那が同じ位大きな声で言う。

『ババァはすっこんでなよ』

『うるっさいね!あたしゃあんたらと同い年だよ!あんたこそあのガキに負けといてよく偉っそーに言えたもんさね!こんなことならあたしが最初っからそっち行ってりゃよかったよ』

『てめぇ、もう1回言ってみなよコラ』

 豹那は絶対に納得しないだろうが、覇女の参戦により戦況は絶対的に変わった。樹たち鬼音姫だけでは闇大蛇と飛怒裸の大群に勝つのは厳しかっただろう。

 大黒に現れてからの圧倒的な存在感。そしてケンカの強さには正直東京連合側は恐れをなしたはずだった。なので神楽絆の言っていることは全く大ゲサではない。

 もちろんそれはそこにいるみんなが分かっていることだ。

『愛羽、聞いてくれよ。樹さんって神奈川で1番カッコいい人なんだぜ』

『おい麗桜。お前、今神楽が喋ってたの聞いて無理矢理言ってねぇか?』

『そ、そんなことないよ!今日は樹さんたちのおかげだって俺はちゃんと思ってるぜ!』

『あーそーかよ。だったら1番最初に喋ってほしかったね』

『…』

 麗桜は本当に思っている。ただもう本当に眠いし疲れている。気の利いた言葉がすぐに出てこない。

『ま、いい試合させてもらったけどな、麗桜の代わりに。あたしもチームもよ。おうチビ。麗桜の夢守ってくれてありがとな。鬼音姫を代表して言っとくぜ』

 愛羽は嬉しかった。

 ほんの何日か前まで敵だった者たちと、こんな風に話せていることが。

『暁愛羽!!』

 病室の窓から誰かが愛羽を呼んだ。見上げると雪ノ瀬瞬が花を抱えて窓から身をのり出している。

 たくさんの花の中に2本だけ向日葵が見えた。それを抱えながら雪ノ瀬は何かを言いたそうにこちらを見ている。

 それを見て愛羽たちはとっさにガッツポーズを決めた。愛羽には瞬が少し笑ったように見えた。

『…帰ろうか』

 8人はエンジンをかけると順々に病院を出ていった。

『あ…』

 単車に乗って走り出した愛羽の髪が風になびいた。瞬にはそれが一瞬羽ばたきだした翼に見えていた。

 姿が見えなくなってからもしばらく単車の走る音とコールが聞こえていた。

 それも聞こえなくなってから瞬はやっと言いたかったことを言葉にできた。

『…ありがとう…』

 もう時間は10時を過ぎた。空は青空集会の名にふさわしい程晴れ渡り激闘の夜はこうして幕を閉じた。

 都河泪の病室に久しぶりに花が飾られ、それとは別に小さな花瓶に向日葵が2本飾られていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

暴走♡アイドル3~オトヒメサマノユメ~

雪ノ瀬瞬
青春
今回のステージは神奈川です 鬼音姫の哉原樹 彼女がストーリーの主人公となり彼女の過去が明らかになります 親友の白桐優子 優子の謎の失踪から突然の再会 何故彼女は姿を消したのか 私の中学の頃の実話を元にしました

8年間未来人石原くん。

七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。 「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」 と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず) これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

暴走♡アイドル2 ~ヨゾラノナミダ~

雪ノ瀬瞬
青春
夏だ!旅行だ!大阪だ! 暁愛羽は神奈川の暴走族「暴走愛努流」の総長。 関東最大級の東京連合と神奈川4大暴走族や仲間たちと激闘を繰り広げた。 夏休みにバイク屋の娘月下綺夜羅と東京連合の総長雪ノ瀬瞬と共に峠に走りに来ていた愛羽は、大阪から1人で関東へ走りに来ていた謎の少女、風矢咲薇と出会う。 愛羽と綺夜羅はそれぞれ仲間たちと大阪に旅行に行くと咲薇をめぐったトラブルに巻きこまれ、関西で連続暴走族襲撃事件を起こす犯人に綺夜羅が斬られてしまう。 その裏には1人の少女の壮絶な人生が関係していた。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

処理中です...