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後編
母として 姉として
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豹那は真っ白いテーブルでアイスコーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。
手には中学の頃の写真が飾られたアルバムを持っている。昔よく蓮華と撮った写真のようだ。
今現在、悪修羅嬢王と呼ばれる女の心はページをめくる度に和んでいった。
『ねぇ豹那さん。豹那さん!』
『なんだい?騒がしいねぇ』
小学校の頃の蓮華だ。
『あたしアイドルになりたい』
『またそんなこと言ってるのかい?なりたきゃなりなよ。あたしには関係ないね』
『もう、豹那さん!豹那さんってば!』
『なんだよ、しつこいねぇー』
今度は中学の時の蓮華だ。
『あたしアイドルになりたいの』
『だからさぁ…』
『豹那さんと愛羽と一緒にアイドルになりたいの』
『は?あんたねぇ、なんでこのあたしがあんたたちとアイドルなんてならなきゃならないのさ。やめてくれよ、あたしはアイドルにはなれなかったんだ。もう別になんの未練もないし今更なりたいなんて思ってないんだよ』
『豹那さんの嘘つき』
『嘘?嘘なんてついてないさ』
『ねぇ豹那さん。豹那さんの大切なものって何?』
『さぁね…』
次は現在の蓮華だ。
『大切なものがないって、すごく寂しいことだよね』
『うるさいね』
『だからいつまでもそんな顔してるんでしょ?』
『そんな顔ってのは心外だね。あたしのこの美しい顔に向かって』
また小学生の蓮華に戻った。
『豹那さん。自分のこと、もう許してあげて?豹那さんのせいじゃないんだから。ちゃんと分かってくれてるよ』
『なんの話だよ、ったく。あんたにあたしの何が分かるって言うのさ』
『心配してるよ?』
幼い蓮華は悲しそうに豹那を見つめていた。
『…は?』
『豹那さんのこと、いつも心配してるんだって』
豹那は自分の心臓が動きを早めていくのを感じていた。
『誰が…だい?』
『分かるでしょ?』
豹那はそこまで言われてやっと我に返った。幼かった蓮華も現在の姿に戻っていた。
『おい…お前、なんでここに』
『お願い豹那さん。愛羽のこと、助けてあげて』
『蓮華、お前ケガはどーなった?』
『お願いね。お姉ちゃん…』
『蓮華!!』
叫ぶとそこは自分の部屋のベッドだった。
今のは夢か?豹那は頭を抱えながら呼吸を整えた。
ノーブラにタンクトップにショーツという姿で寝ていたが、玉のような汗をかいていてびっしょりだ。
タバコに火をつけ時計に目をやるともう昼を過ぎている。外は晴れていて雲1つ見えない。暑いわけだ。
それにしても気持ちの悪い夢だった。浅い眠りの中、本当に隣から話しかけられているような、そういう感じだった。そしてその内容もあまりにも生々しいものだった。
豹那はシャワーを浴びようとして裸になると、鏡の前に立ち下腹部に手を添えた。死んだ自分の子を思い出すと豹那はよくそうする。
シャワーを浴びても心の中がまだ気持ち悪いままだったので、豹那は単車に乗ると病院へ向かっていた。
さっきのは夢だったと分かっているのに蓮華の言葉が消せなかった。
病室に入ると当然のように蓮華は眠り続けていて、豹那はベッドの横に座ると蓮華の顔を水を絞ったタオルで拭いてやった。
『お前はいつ目覚めるんだい?』
豹那は勝手に1人で話しかけた。
『あんた、あたしに会いにきてくれたのかい?』
小さく呼吸する蓮華の髪を優しくなでてやる。答えるはずもない妹のその手で力なく握らされている物に目が行った時、豹那は思わず息を飲んだ。
銀髪の女の可愛らしい人形が蓮華の手に確かに握られていた。紫の特攻服を着ていることから、それが自分だということはすぐに分かった。
『…バカ…早く起きなよ…』
豹那の中で何かが切れ、何かがつながっていった。
ポロポロと綺麗な涙を流し、蓮華のその手を両手で包んだ。
もし、この子の為に自分が何かしてあげられるなら、それは…
『…あぁくそっ!分かったよ…やってやるよ!』
豹那は涙をぬぐうと立ち上がった。
『だからあんたも…絶対帰ってくるんだよ?妹…』
手には中学の頃の写真が飾られたアルバムを持っている。昔よく蓮華と撮った写真のようだ。
今現在、悪修羅嬢王と呼ばれる女の心はページをめくる度に和んでいった。
『ねぇ豹那さん。豹那さん!』
『なんだい?騒がしいねぇ』
小学校の頃の蓮華だ。
『あたしアイドルになりたい』
『またそんなこと言ってるのかい?なりたきゃなりなよ。あたしには関係ないね』
『もう、豹那さん!豹那さんってば!』
『なんだよ、しつこいねぇー』
今度は中学の時の蓮華だ。
『あたしアイドルになりたいの』
『だからさぁ…』
『豹那さんと愛羽と一緒にアイドルになりたいの』
『は?あんたねぇ、なんでこのあたしがあんたたちとアイドルなんてならなきゃならないのさ。やめてくれよ、あたしはアイドルにはなれなかったんだ。もう別になんの未練もないし今更なりたいなんて思ってないんだよ』
『豹那さんの嘘つき』
『嘘?嘘なんてついてないさ』
『ねぇ豹那さん。豹那さんの大切なものって何?』
『さぁね…』
次は現在の蓮華だ。
『大切なものがないって、すごく寂しいことだよね』
『うるさいね』
『だからいつまでもそんな顔してるんでしょ?』
『そんな顔ってのは心外だね。あたしのこの美しい顔に向かって』
また小学生の蓮華に戻った。
『豹那さん。自分のこと、もう許してあげて?豹那さんのせいじゃないんだから。ちゃんと分かってくれてるよ』
『なんの話だよ、ったく。あんたにあたしの何が分かるって言うのさ』
『心配してるよ?』
幼い蓮華は悲しそうに豹那を見つめていた。
『…は?』
『豹那さんのこと、いつも心配してるんだって』
豹那は自分の心臓が動きを早めていくのを感じていた。
『誰が…だい?』
『分かるでしょ?』
豹那はそこまで言われてやっと我に返った。幼かった蓮華も現在の姿に戻っていた。
『おい…お前、なんでここに』
『お願い豹那さん。愛羽のこと、助けてあげて』
『蓮華、お前ケガはどーなった?』
『お願いね。お姉ちゃん…』
『蓮華!!』
叫ぶとそこは自分の部屋のベッドだった。
今のは夢か?豹那は頭を抱えながら呼吸を整えた。
ノーブラにタンクトップにショーツという姿で寝ていたが、玉のような汗をかいていてびっしょりだ。
タバコに火をつけ時計に目をやるともう昼を過ぎている。外は晴れていて雲1つ見えない。暑いわけだ。
それにしても気持ちの悪い夢だった。浅い眠りの中、本当に隣から話しかけられているような、そういう感じだった。そしてその内容もあまりにも生々しいものだった。
豹那はシャワーを浴びようとして裸になると、鏡の前に立ち下腹部に手を添えた。死んだ自分の子を思い出すと豹那はよくそうする。
シャワーを浴びても心の中がまだ気持ち悪いままだったので、豹那は単車に乗ると病院へ向かっていた。
さっきのは夢だったと分かっているのに蓮華の言葉が消せなかった。
病室に入ると当然のように蓮華は眠り続けていて、豹那はベッドの横に座ると蓮華の顔を水を絞ったタオルで拭いてやった。
『お前はいつ目覚めるんだい?』
豹那は勝手に1人で話しかけた。
『あんた、あたしに会いにきてくれたのかい?』
小さく呼吸する蓮華の髪を優しくなでてやる。答えるはずもない妹のその手で力なく握らされている物に目が行った時、豹那は思わず息を飲んだ。
銀髪の女の可愛らしい人形が蓮華の手に確かに握られていた。紫の特攻服を着ていることから、それが自分だということはすぐに分かった。
『…バカ…早く起きなよ…』
豹那の中で何かが切れ、何かがつながっていった。
ポロポロと綺麗な涙を流し、蓮華のその手を両手で包んだ。
もし、この子の為に自分が何かしてあげられるなら、それは…
『…あぁくそっ!分かったよ…やってやるよ!』
豹那は涙をぬぐうと立ち上がった。
『だからあんたも…絶対帰ってくるんだよ?妹…』
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