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第八話 そもそもパーティと呼べない程合わない。
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「うわわわわん! 嫌だ! こんな所で! 誰も見返せずに死にたくない!! 」
泣き喚きながら俺の脚にしがみつくキヨウを無視し考える。
俺は足の小指に何かをぶつける事しか出来ない。
しかし、 ここにはそれが出来る物がない。
さっきまで使っていた草も燃え尽きてしまった。
今の俺には、 何も出来る事などないのだ。
ありゃもうこれ死んだな。
「どうして私がこんな目に! 器用貧乏だから?! 一つの能力に固執しなかったから?! なんでなんでなんで! 」
いいかげんキヨウの声がうるさい。
相当動揺しているな、 コイツ。
......そう言えば。 俺はこの女の根性を叩き直そうとしていたんだっけ。
そして言わずもがな、 このままでは俺だけでなくコイツも死ぬ。
「どうでもいい後悔」をしながら死ぬんだ。
それはあんまりかもしれない。
何より、 あの世で「俺のせいだ」と文句を言われても嫌だ。
この女は苦手だ。
でもこのまま死なせる訳にはいかない。
俺が弱いからと、 何も出来ないからと。
最初から諦めれば冒険者の名折れだ。
俺は、 魔王を倒す為にこの世界に転生した。
それはこの世界で苦しんでる人をたくせる為だろう。
だったら、 目の前で泣いているコイツに諦めた姿を見せてはならないのだ。
「おい。 俺を見ろ。 そして聞け」
足元に縋り付く相手を、 振り払ってから言い放つ。
「やっぱり、 器用貧乏って褒め言葉だよな? 」
「この状況でズレた発言するのやめてもらえます?! 」
なんだよこっちは真面目に聞いてるのに。
でもまぁこんな状況でもツッコミを入れる余裕はあるのか。
少し安心した。
俺は続ける。
「何がそんなに気に食わない? 」
キヨウの表情が歪むのが分かったが、 それでも続ける。
「俺は『小指角師』に囚われている。 これは呪いのようなものだ。
他にも出来る事はないか試したさ。
だが、 剣技も拳技も体術も魔法も回復も補助も盗みも商売もありとあらゆる事を試した。 しかしどれも身につかなかった。
全てにおいて、 『足の小指に角をぶつける』という事柄が関わらないと身につかないんだ。
こんな不器用な俺を見ても、 それでも器用貧乏は褒め言葉じゃないと言えるか?
色々な事が同時に出来ていいじゃないか」
俺の言葉を聞いて彼女の顔が少し俯いた。
メガネのレンズが反射して目が見えない。
今は、 どんな表情をしているんだ?
「なんですかそれ。 説教のつもりですか? 」
だが、 身体が震えているのは分かった。
「そうですね! ボッチさんに比べたら、 色んな方面に手を出して中途半端にでも技術を身につけられてる私の方が恵まれてますね!
でもだからなんだって言うんです!!
結局はボッチさんはソレの才能があったってことでしょ?! 上手く活用すればさっきみたいな強力な技にだって出来る! でも私は違うんです! 全部中途半端! そこまで昇華出来ない!
だったらやっぱり、 ボッチさんのように、 『一点突破の集い』の人たちのように! 何か一つの才能を突き抜けて鍛えなきゃ意味がないんですよ! 私には、 そんな才能がないんですよ! 」
そして続け様に溢れ出す彼女の言葉。
自暴自棄のような自分に言い聞かせているような、 そんな言葉だった。
俺は、 そんな必死に彼女を見て。
「ははは」
乾いた笑いをこぼした。
「な、 何がおかしいんですか!? 」
それに怒りを露わにするキヨウ。
だから俺も言ってやる。
「才能? 俺のどこに才能がある?
あったとしてなんの役に立つ? 足の小指に角をぶつける能力だぞ? 」
「そ、 それは......」
途端に口ごもる彼女。
いやそこは少しは否定して欲しいんだが。
「お前は囚われてる。 俺と同じだ」
「え? 」
腹立たしいから続ける。
「俺はこの能力から抜け出す事は出来ない。
そしてお前も、 器用貧乏と、 一つの能力への才能に囚われている。
その中で悩み苦しみもがいている。
同じなんだよ。
しかし同じは同じでも決定的に違う所がある。 分かるか? 」
キヨウが何を言ってるか分からないような表情を見せる。
ここまで言って分からないか。
これだから空気の読めない奴は困る。
仕方がないのでハッキリと言ってやった。
「それは前提だ。
俺はありとあらゆる事を試しても無理だった。 だから今の力を伸ばす事にした。
しかしお前は器用貧乏と才能と言うものに囚われ、 そこに固執している。
固執せざるを得ないか、 固執に依存しているか。 その違いだ。
何故それ以外の可能性を見つけようとしない? 」
「っ!? 」
俺の言葉から逃げるように俯くキヨウ。
しかし、 地面に置かれた手には力が入り、 土を抉っていた。
そして。
「ボッチさんに何が分かるって言うんですか! 」
そう、 怒号が飛んできたのだった。
「私は! 普通なんです! 何の才能もなければ、 色んな事を人並み以上にこなせるような人じゃない! でもそんなの悔しいじゃないですか!!
認められたい! 見返してやりたい!! そう思って何が悪いんですか!!
私は普通なんです! 『一点突破』のメンバーや、 ボッチさんとは違う!
何かに固執するしかない! 分かりやすい目標に向けて走るしかない! そんな普通の人間なんです!
そんな人間が夢を見て悪いんですか!? なんでも出来る人や! 一つの才能を持ってる人に憧れて何が悪いんですか!?
私はそんな人になりたい! ならなきゃいけないのに!! 」
悲痛の叫び。
それはキヨウの心からの言葉だろう。
流石に俺の心にも届いた。
だから、 俺はそれに応えるように一言返してやった。
「だから何? 」
「......は? 」
目を丸くして怒りすら忘れた表情が目の前にある。
今までの俺ならここで話を切り上げていただろう。
でもそれが反感を買うと知った今、 この大事な場面でそれはしない。
俺だって学習する。
「何度でも言ってやろう。 だから何? それが魔王討伐と何が関係ある? 冒険者を続けるのになんの意味がある? 」
「そ、 そんなの! 自分を高めようとして何が......! 」
流石に反論してきたか。
しかしだな。
「根本的に間違っている」
「はぁ?! 」
話は最後まで聞け。
俺は飛びかかってきそうなキヨウを無視し、 話を続ける。
「夢も持つ努力する憧れる。 大いに結構だ。
でもお前は、 そいつらと同じ人間なのか?
お前は固執しすぎだ。 何故そこしか見ない?
一つの能力を伸ばす才能がない事、 器用貧乏な自分。
それを知っていながら何故認めない?
どうして他の可能性を見ようとしない?
どうして才能のなさすら、 器用貧乏すら長所にしない?
俺は認めた。 認めるしかなかった。
だからパーティを追い出されても文句の一つのなかった。
周りに疎まれ、 スリィに厄介払いされそうになっても仕方ないと思った。
全てを受け入れ前に進もと思った。
でもお前はどうだ?
現状に、 自分に文句を言うだけ。
そんな事になんの意味がある?
何故、 前に進もうとしないんだ? 」
「っ! そんな、 正論、 ばかり......」
メガネの奥の瞳に涙が溜まっていた。
泣けばいいと思ってるのか? 卑怯なやつだ。
しかし俺の話はまだ終わっていない。
「何故その他にたくさんの物を持ちながら、 それを見ようとしないんだ」
「え? 」
お願いだから泣くなよ? 俺がいじめてるみたいだからな。
「分からないと言うのなら言ってやる。
お前は俺に真摯に向き合っている。 誰もが馬鹿にする俺を対等として扱う。
そしてお前は俺の言葉や行動にチャチャをいれる。
的確に。 真っ直ぐにだ。
それらはお前が濁りなき眼を持っているからじゃないのか?
正確な観察眼を持っているからじゃないのか?
他にも、 俺を見捨てられない優しさや。
自分の能力の低さを知りながらも敵に立ち向かっていく勇気。
状況を正しく判断する冷静さを持っている。
これだけいいものを持ちながら、 何故才能と器用貧乏に囚われているんだ? 」
「私に、 そんな風に? ......と言うか、 この少ない期間で私を見ててくれたんですか? 」
ウルウルと涙を滲ませるキヨウ。
だから泣くなって。
「いいんですか? 私は、 器用貧乏で何か一つの能力を伸ばせなくても、 いいんですか? 」
遂に涙が溢れ流れてきた。
泣いてしまった。
も、 もう知らん!
「知るかそんな事。 自分で決めろ」
そう言いながら構える。
いいかげんハイゴブリンも襲ってくる頃合いだろう。
火を防いだり避けたりするのに体力を使い、 それを回復する為にこっちを威嚇しながらも動かなかったんだろうな。
こっちとしては都合が良かったが、 もうそれも限界だ。
ウジウジしてるキヨウの話をいつまでも聞いている訳にはいかない。
「酷い! 自分でベラベラ喋っておいて今更突き放すんですか?! 」
「う、 す、 すみません」
彼女の勢いのある指摘に思わず謝ってしまう。
それでもキヨウの気持ちは治らないようだった。
「なんなんですか! いきなり説教かと思えば優しくして突き放して! 何がしたいんですか! 」
ど、 どうしよう。
良かれと思って言い出した事で彼女を怒らせてしまった。
しかもめちゃめちゃ泣いてるし。
もうハイゴブリンも襲って来そうだし。
「そもそも! 私と同じで弱いボッチさんに何言われても説得力無いんですよ!! 」
「あ、 はい。 ごめんなさい。 あのね」
「嫌だ嫌だ! もう何も聞きたく無いです!! 」
泣きじゃくって耳を塞いでこっちの言い分も聞いてくれない。
思わず敵から視線も身体も外して彼女に向き直ってしまう。
このままじゃ戦闘どころじゃ無い。
根性を叩き直すとか諦めた姿を見せたく無いとかそんな事考えてる場合じゃなくなった。
泣かしちゃった。
しかもかなり大きめの地雷を踏み抜いちゃったみたいだ。
泣き方が取り乱し方が半端じゃ無いもの。
流石の俺も、 寡黙な態度を保っていられない。
「な、 なぁ今は戦闘中だから......」
「知らない知らない! もうどうせ誰も見返せないからこのまま死ぬ! ボッチさんなんかに説教されてプライドが傷ついたから死にます! 」
おいおい。 さっきまで死にたくないって言ってたのはどこのどいつだ。
そしてついでのように俺を傷つけるな。
「アハハハ! こうなったらアレですよ! ゴブリンなんかに殺されるの嫌だから自殺してらりますよ! そしてボッチさんも道連れだァ! 」
やばいやばい。 どんどん自暴自棄になってる。
「ほらほら死ねぇ! ビュームぅ!! 」
「え、 ちょっ......! 」
キヨウの掌が俺の方を向く。
自殺するとか言って俺に「ビューム」を飛ばしてきやがった。
というかそれじゃ誰も死なないぞ? 威力弱いからな。
でもそんな事言ってる場合じゃない。
咄嗟に俺も掌を前に出し、 「小指角術」で魔法を受け止め上空に上げて固定する。
あ、 危なかった。 いくら威力は低くてもこんな至近距離で受けたらただじゃ済まなかっただろう。
しかしこのままずっと耐えられる訳じゃない。
「小指角術」は誰かの足の小指にぶつけるという結果に向けなければ簡単に崩れる。
数秒と持たないだろう。
このままキヨウの小指に落とすか?
いやそれじゃ結局俺も巻き込まれる。
やばい。 そろそろ保てなくなってきた。
どうしようどうしよう。
「ギガガガガッ!! 」
そんな時。 後ろから空気の読めない叫び声が聞こえた。
なんだこんな時に。
ただでさえ集中力を使ってるし色々考えてるのに邪魔だな。
「ガガァ!! 」
その声は激しい足音とともに背中に迫って来ている。
ああもう! 揺らすな! 集中力を乱すな!
あ、 やば。 もう限界......ビューム食らうこのままじゃ。
「ギギギギィ!! 」
ああもう! うるさい! これだから......!
「空気を読めない奴は! 嫌いなんだよォ!! 」
俺はそんな事を叫びながら後ろに向けて腕を振り下ろした。
自分でも己を棚に上げて何言ってるんだと思う。
しかしこっちは取り込み中で......。
「......あっ」
それは静かな中に響いた声だった。
いつの間にか聞こえなくなっていた叫び声と地響きの代わりに聞こえてきた小さな声だ。
その発信者はキヨウ。
俺の後ろを見て目を丸くしている。
なんだ? 急に喚かなくなってどうした?
そんな事を思いながら後ろを振り向く。
「......え? 」
思わず声が漏れた。
そこにはハイゴブリンがいる。
キヨウをどうにかしようとしてすっかり存在を忘れていた相手だ。
奴は腕を振りかぶって俺に攻撃しようとしてきている。
それだけでも驚きなんだが、 それ以上にコイツは全く動かず固まっている。
そしてさらに驚いたのは、 ソレが頭から血を流していた事だ。
いや、 血が出ているだけじゃない。
頭から、 右足の小指にかけて。
竜巻のように渦巻く空気の槍が。
奴に突き刺さっていたのだ。
時が止まる。
何が起こったか分からない。
しかしそれは唐突に終わりを告げる。
ハイゴブリンは。
そのまま仰向けに大きな音を立てながら倒れて。
絶命したのだった。
「......」
「......」
思わず無言で顔を見合わせる俺たち。
そして、 どちらからともなく。
「「ええぇぇぇぇええええっ?! 」」
悲鳴のような驚愕のような叫び声を上げたのだった。
俺たちのそんな声は。
しばらく森の中で響き渡っていた......。
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