鈍感勇者は気にしない。 ~ 最強パーティを追放されたので不当解雇かと思ったら理由が正当だった。でも正直どうでもいい。 ~

ジョーカー

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第六話 そもそもゴブリンにすら手こずる。

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 ーーーーーー

「ビューム!! 」

 森の中。
 キヨウの声が響く。
 目の前では竜巻が起こり、 「ゴブリン」たちを上空に舞い上げていた。
 しかし相変わらずその魔法自体に殺傷能力はない。
 精々体勢を崩し、 空中での身動きを取れなくさせるぐらいだ。
 しかしそんな事は彼女も分かっているだろう。
 すかさずショートソードを引き抜き、 自分の起こした竜巻に向かって駆けて行く。
 そして。

「っ!! 」

 そのまま風の渦の中に突っ込んだ。
 自分が放った魔法とはいえ、 そこに竜巻があるのは確か。
 そんな中に入って行ってはキヨウ自身も身動きが取れなくなってしまだろう。
 そう思ったのだが。

「シッ! ハッ! 」

 彼女はそれを逆に利用し、 竜巻の中で動けなくなっているゴブリンに斬り掛かる。
 どうやらこれがキヨウの戦法のようだ。 風の中での動きに慣れている。
 身体の何処を動かせばどう風に影響されどう運ばれるか知り尽くしているようだった。
 キヨウはそのまま、 竜巻の中の五体のゴブリンを攻撃し、 魔法を解いた。

「ふぅ」

 彼女は呼吸を整えながら地面に綺麗に着地する。
 それに対し、 風で巻き上げられた挙句に斬られたゴブリンたちは魔法をいきなり解かれた事も合わさり翻弄され、 受け身も取れずに地面に叩きつけられるように落下して来た。

「グ、 グギギ......」

 しかしだ。
 ゴブリンたちはそれでも立ち上がる。
 それもその筈。
 先程のキヨウのショートソードの攻撃では、 致命傷どころか身動きが取れなくなる程の傷を与えられていないからだ。
 傷が浅すぎる。
 それだけでは生命力の高い魔物相手を倒す事は出来ない。

「グガガァァアアアアッ! 」

 当然のように。 中途半端に傷つけられ、 それでも動けるゴブリンたちは怒りを露にする。
 先程の攻撃は戦意喪失させる程の威力もなかったという事だ。
 奴らは怒りに任せてキヨウに飛び掛った。

「っ! せいっ! せやぁ! 」

 キヨウは気合いの入った掛け声と共に剣を振るう。
 それは確実にゴブリンを捉え、 吹き飛ばしていく。
 しかしやはりその一撃一撃には決定打がなく、 奴らは飛ばされても再びキヨウに飛び掛かって行った。
 それに焦りも見せず対応するキヨウ。
 こんな状況も慣れているという事だろう。
 暫くそんな攻防が続く。

 しかし見事なものだ。
 ゴブリンという、 駆け出し冒険者でも普通は一撃で倒せる相手を屠れないのは問題かもしれないが、 同時に五体を相手にしているのにも関わらず攻撃を全て躱している。
 普通ならば、 相手を倒しきれない事に動揺し、 五体の動きを読み切れずに何発かもらってしまったり、 避け切れずに防御してしまうだろう。
 それを彼女は、 冷静さを失わずに全てギリギリで避けているのだ。
 しかもギリギリで躱す事により、 己の隙を小さくしそのままカウンターへと繋げている。
 まぁゴブリンの攻撃なんて大した事ないから避ける必要もないし、 そもそも避けられて当たり前なんだが......奴らを倒し切れない駆け出し以下の戦闘力だという事から考えれば、 凄い事なんだろう。 多分。

 まぁ何にせよ。 彼女の実力は分かった。
 防御回避はそこそこ。 魔法や剣の腕は初心者並み。
 何ともアンバランスな実力だ。
 器用なんだか不器用なんだか。
 これが器用貧乏というやつなんだろうか。

「これで!! 」

 そんな事を考えてるうちに、 キヨウは最後のゴブリンに止めを刺していた。
 何度も同じ事を繰り返し、 やっと五体を全滅させたようだ。

「はぁ、 はぁ」

 随分と息が上がっているな。
 確かに派手で魅せられる戦い方をしていたが、 相手はゴブリンだぞ?
 並の冒険者なら苦戦すらしないし、 No. 1No.2の実力者の「漆黒の混沌」や「一点突破の集い」のメンバーなら瞬殺出来る筈だ。
 そのレベルのパーティにいたというのにそんな状態になっているとは......追い出されたのも仕方ないと思ってしまう。

 まぁしかし。 実力はどうあれ「討伐対象」を倒したのは事実だ。
 ここはこのパーティのリーダーとして労ってやらなければ。

「ご苦労さま。 よくやった。 流石は俺のパーティのメンバー」

 これだけ言ってやれば頑張りに見合った言葉を掛けられただろう。

「貴方は何もしてないですけどね!! そして勝手に自分のパーティにしないでください! リーダー面が腹立ちます!! 」

「あ、 はい。 ごめんなさい」

 どうやら言葉の選択を間違ったようだ。
 ふむ。 ここは一つ、 アドバイスでもしてやるか。

「しかしゴブリン相手には手数が多すぎないか? もっと一撃一撃が決定打になるように......そうだな。 キヨウの場合は力で押し切らず急所を狙って......」

「どの立場で言ってるんですか!? 何か役に立ってから口を開いてくださいよ!! 」

 また怒られてしまった。
 折角アドバイスしたのに......やっぱりこの子性格悪いな。

 ......いや待て。
 アツイたちに言われた事を思い出すんだ。
 俺はリーダーのくせに何もせずに後ろで突っ立っていただけだからパーティを追い出されたんじゃないか。
 それならばキヨウが怒る理由も分かる。

 危ない。
 また同じ過ちを繰り返すところだった。
 それを教えてくれてありがとう、 キヨウ。

「グギャア! 」

 そうこうしてるうちに再びゴブリンの群れが現れた。

「次! 来ましたよ! 今度こそお願いしますね! 」

 キヨウか叫ぶ。
 あんな事を言いつつも俺に期待してくれてるようだ。 本当はいい子なのかもしれない。

 だから俺は。
 その思いに答えるように言い放つ。

「よし。 頼んだ。 お前ならやれる」

「話聞いてました!? 」

 また怒られた。
 だって仕方ないだろう。
 初心者並のお前の方が、 俺よりも余っ程強いのだから......。


 キヨウがスリィから受けてきた仕事は、 「ゴブリンの討伐」だった。

 ゴブリン。
 冒険者の多くが最初に出会う魔物だろう。
 一体一体はさほど強くはないが、 集団行動をし知恵を持っている為、 雑魚と油断していると囲まれて痛いに目に合う。
 駆け出し冒険者にとって、 初めて魔物を倒したという自信に繋がる体験を与えたり、 逆にボコボコにされて冒険者の厳しい世界を知るといった様々な意味でお世話になる相手だ。
 今回の仕事は、 そんなゴブリンが街近くの森に大量発生している為全滅させてほしいというものだった。

 俺はこの依頼の内容を聞いた時衝撃を覚えた。
 追い出されたとはいえ、 俺とキヨウはギルド内でNo.1No.2を誇る実力を持つパーティのメンバーだった。
 そんな俺たちに初心者向けの仕事を与えるとは......なんていい子なんだろうか!
 恐らく、 俺たちの実力が心もとない事を加味し自信をつけさせる為に簡単なものを回してくれたんだろう。
 その気遣いにプロとしての仕事と優しさを感じた。

 まぁしかしだ。
 そこまで気遣ってくれても俺の実力ではゴブリンすら倒せない。
 だからキヨウの力に頼るしかない訳だが......。

「もう! 本当にこの人仕事しない!! 」

 ただ突っ立ってるだけの俺にキヨウが愚痴を漏らす。
 そしてまたゴブリンの群れに「ビューム」を放った。
 先程同じように奴らは上空に舞い上がって行く。
 このままだと同じ事の繰り返しだが......。

「ゴゥカ!! 」

 キヨウは竜巻に向けて火球の魔法を何発か打ち込む。
 火球は風の流れにより渦に巻き込まれグルグルと回っている。
 しかし。

「当たれぇ! 」

 彼女の気合いの入った掛け声と共に軌道を変えた。
 そして次々とゴブリンに命中していく。

「ギギャアアアアっ!! 」

 魔物の悲鳴が風の中から響き渡る。
 恐らくその一つ一つはこの風の魔法と同じように威力は低いだろう。
 けど火球は風を取り込みどんどん大きくなる。
 やがて竜巻自体が炎の渦となり、 ゴブリンたちの身体を焼き尽くしていった。
 そして彼女は頃合を見て、 二つの魔法を解除する。
 その場には、 もはや塵一つも残ってはいなかった。

「......よしっ! 」

 キヨウが小さく拳を握り締め勝利に浸る。
 俺はそんな彼女に近づき声を掛ける。

「いい戦いだった。 応用が素晴らしい。 もっと誇って喜んでいいんじゃないか? 」

「相変わらず何もしてない人に言われても説得力がありません」

「あ、 はい。 ごめんなさい」

 相変わらず手厳しい。
 せっかく褒めてやったのに。

「それに、 『一点突破の集い』のメンバーならもっと簡単に片付けてる筈です......」

 ふむ。 やっぱりそこが気になるか。
 まぁそもそもそんな実力者じゃなくてももっも時間がかからない筈だ。
 けど今は、 先程よりも倒せた事を素直に喜べばいいのに。
 そんな事を思ってしまう。

「グギギィ! 」

 そうしてる間にまた別のゴブリンたちが現れる。
 大量発生と言うのは伊達じゃないようだ。

「また来ました。 お願いします」

 俺はなるべく丁寧にキヨウにお願いする。
 何も出来ない立場なのだから、 相手を敬わねば。

「全く! 毎回いい加減に......っ!? 」

 しかしその瞬間、 ゴブリンに向かっていこうとした彼女がよろけた。

「す、 すみません。 魔力が尽きました......」

 おうふ。 このタイミングでか。

 人は、 魔法や魔力を込めた何かをする際に消費する魔力を誰もが内包している。
 しかしそれは無尽蔵では無いのだ。
 個人差はあるし、 鍛えればその量も多くなるがキヨウはそれが底をついた訳だ。
 魔力が0になったからと言って死ぬ訳ではないが、 直後は立ちくらみ等の症状で動けなくなる場合がある。
 彼女はそんな状態という事だろう。

 おいおい。 低級の魔法を何発か放っただけだろ。
 魔力量ですら中途半端なんだな。
 そんな言葉が口から出掛けだが、 そもそも魔法が使えない俺に文句を言う資格はない為飲み込んだ。

「ふふ、 ふふふ! 」

 こんなピンチな状態だと言うのにキヨウが笑う。
 気でも狂ったか?

「これで、 ボッチさんが戦うしかなくなりましたね? 」

 なるほど。 そういう事か。
 俺の活躍に期待してる訳だな。
 なんと可哀想な奴。
 俺みたいな何も出来ない奴に頼ったら死ぬぞ?
 ここで全滅だ。 残念だったな!
 ......あれ? なんだろ、 なんだか切なくなってきた。

「......はぁ」

 俺は短くため息をつく。
 俺の能力では勝つのは絶望的だと言っても、 何もせずに死ぬ程馬鹿じゃない。
 俺の目的は魔王討伐。
 それが始まってすらいないのに簡単にくたばる訳にはいかないのだ。

「仕方ない」

 キヨウの前に立ってゴブリンたちに睨みをきかせる。
 勿論それだけで奴らが止まってくれる筈もない。
 だから俺は。
 仕事用に羽織っていたポンチョ型のローブから両手を出し。
 奴らに向かって構えたのだった......。
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