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第五話 そもそも器用貧乏は褒め言葉じゃない。
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「ちょ、 ちょっと待ってくださいよ!! 」
酒場を出たらキヨウが追いかけて来た。
今更なんだと言うのか。
「ボッチさんはあれでいいんですか!? 」
オマケになんの事を言ってるのかさっぱり分からない。 コイツとは本当に馬が合わなさそうだ。
俺は関わるのも面倒なのでそのまま無視して歩き続けた。
すると。
「ちょ! 待ってくださいって......言ってるじゃないですか! 」
後ろでキヨウが叫んだかと思ったら。
俺の身体が、 宙を舞っていた。
......。
なるほど。
さっきと同じく「ビューム」を使ったな。
しかも無詠唱とは中々やる。
でもまぁそんな事悠長に考えてる場合じゃないな。
俺は竜巻の渦に巻き込まれ地面から舞い上がっている。
このままじゃあ風の刃に切り刻まれ死んでしまうだろう。
しかし何故だかその様子はない。
ただ風に弄ばれグルグルと上空に登っていくだけだった。
そういえばさっき酒場でも誰も怪我をしていなかったな。
これが全力と言われていたが......本来の攻撃魔法の役割を果たせないんじゃないか?
でもまぁいい。 これなら俺にとって好都合だ。
俺はグルグルと乾燥機に掛けられてるような状況で考える。
いくらこの魔法自体に殺傷能力がないとはいえ下手に抵抗するのは危険だ。
手や足を出そうものなら遠心力や勢いで千切れかねないし、 変な力が加われば外側に弾き飛ばされて何処かにぶつかった衝撃で致命傷を負う。
ならば今すべき事は一つ。
何もしない事だ。
魔法の効果が切れれば自ずと風は無くなる。 その時に無理せず脱出すればいい。
それまでに耐えられるぐらいの頑丈さはある。 元最強パーティのリーダーを舐めるな。
俺はそのままグルグルと周り続けた。
目は回っているが慣れてきた。 周囲でこの様子を見て驚いたりしている野次馬たちと目が合う。 それぐらいの余裕はある。
そしてそうこうしているうちに竜巻が消え風が止んだ。 魔法の効果が切れたのだ。
よし。 これで難なく脱出出来る。
そう思って身体を動かし始めたのだが、 そこで予想外の事が起こった。
思ったより高いな、 これ。
どうやら考えていたよりも上空まで運ばれていたらしい。
こりゃ脱出どうこうの話ではない。
俺はそのまま。
ゆっくりと重力に引っ張られ落ちていく。
自然落下だ。
この状態で俺に出来る事は何も無い。
地表が近づく。
目の前には地面。
あれ? 俺これうつ伏せじゃない?
受身を取ろうにも、 落下の勢いと空気抵抗で手足が動かせない。
だから俺は。
ビターン!! と情けない音を立てながら。
地面に激突したのだった。
痛い。
物凄く痛い。
多分あちこち骨や内臓がいってしまっている。
そんな身体に鞭打ち上半身だけでも何とか起こす。
目の前にはキヨウ。
目と目が合った。
やり過ぎた、 そんな表情をしている。
でもその瞳の奥には、 俺がまた逃げたりしたら同じ事をするという確固たる決意を感じられた。
このまま同じ事をすればそのうち殺されるだろう。
心の奥底にゾクリと恐怖が芽生える。
だから俺は。
その湧き上がった気持ちに素直に従い。
「ごめんなさい。 話を聞きます。 だから殺さないで」
そう言葉にした。
するとキヨウは。
「なんか色々ごめんなさい!! 」
慌てて謝ってきたのだった......。
◇◆◇
「すみません、 頭に血が昇ると自分を抑えらえなくて......」
あの後、 俺は彼女が宿泊する宿屋の部屋へと連れて行かれた。
今は治療中。
キヨウは回復魔法を使い、 自分のつけた傷だけじゃなく、 酒場で痛めつけられたものも治してくれている。
(器用だな)
そんな事を思う。
魔法剣士は普通、 物理攻撃と簡単な攻撃魔法、 そして自分の肉体を強化する魔法を主に覚えて使う。
彼女も多分そうなんだろうが、 そこに加えて回復魔法まで使えるとは中々に優秀だ。
きっと名のある冒険者あるいは有名なパーティのメンバーなんだろう。
......そう言えば、 さっきそのパーティメンバーと思わしき連中と揉めてるようだったが......。
「へ、 変ですか? 」
キヨウの回復魔法を見ながら考え事をしていると、 そう問い掛けられた。
変? 何の事を言ってるんだ?
「魔法剣士が回復魔法を使うのは変でしょうか? 」
続け様に聞いてくる彼女の表情は、 どこか曇っていた。
どうしてそんな顔をしているのかは分からないが、 これだけは言える。
「変ではないだろ。 別に誰が回復魔法を使おうとおかしい筈がない」
「っ! あ、 ありがとう、 ございます......」
俺の言葉を聞いて何故か恥ずかしそうに頬を赤らめ俯く彼女。
全くもってこの子の考えてる事が分からない。
まぁいい。 どうせ二度と関わらない相手だ。
「治療をしてくれて助かった。 それじゃあ、 さようなら」
悪い噂が立っている俺と一緒に居てもこの子の為にならない。
回復が終わったようだったので、 俺は部屋から出ようとした。
しかし。
「ちょ、 ちょっと待ってください! 」
何故か腕を掴まれ止められてしまう。
そしてこの子は何度同じ事を言うんだろうか。
「お、 怒ったりしないんですか? 」
? 何の話し合だ?
どこに俺が怒る理由があるのだろうか。
「そ、 その......酒場で無理矢理割って入って話を余計かき乱したり、 さっきみたいに傷つけちゃったりして......怒って、 ないんですか? 」
なるほど、 その事か。
どうやら自分のやった事を後悔出来るくらいは空気が読めるらしい。
一応常識人のようで助かった。
いきなり治療代でも請求されたらどうしようかと思った。
だから俺はホッと胸を撫で下ろし。
「気にしてない。 それで何で怒る必要がある?
酒場では俺の為を思って行動したんだろう?
それにさっきは無視した俺が悪い。 だから怒るような要素はない」
そう返した。
すると彼女は大きな眼鏡の位置を直しながら。
「あ、 あはは。 そうだと分かっていても普通は怒ると思いますよ? 」
苦笑いをするのだった。
やっぱり彼女の考えは理解出来ない。
空気が読めないんだろう。 もしかすると俺もずっとこう思われていたのかもしれない。
「......」
「......」
暫く沈黙が続く。
そしてキヨウは腕を話してくれない。
何だ? まだ何かあるのか?
もしかして治療費がどうこう言ってこなくても、 俺の方から謝礼の話が出るのを待っている?
だとしたら大変だ。
俺は一文無し、 渡せるものが何もない。
身体で払えと言う事か?
そうか、 コイツはそう言うのを求める人種か。
仕方がない。 それなら応えられそうだ。
俺はゆっくりと装備を外して服を脱ぎ始めた。
「あ、 脱がなくても大丈夫ですよ? 治療は装備や服の上からも出来ましたから」
「あ、 はい。 ごめんなさい」
どうやら違うようだ。
勘違いだ恥かしい顔から火が出そう消え去りたい。
向こうも勘違いしてくれて助かった。
しかし何にせよこのままでいる訳にはいかない。
ここは一つ脅しでも掛けておくか。
「キヨウ、 と言ったか。
アンタは知らないと思うが、 俺はボッチ・トワニ・ヒトリミーノと言う者だ。
パーティを厄介払いされて追い出され、 ギルドや他の冒険者からも恨みを買ってる。 俺と関わるとアンタにも迷惑が掛かる。
助けて貰った事は最大限に礼は言う。 けどこれ以上はアンタの為にならない。
分かるな? 」
うん。 俺にしては至極真っ当のセリフだと思う。
自分で言ってて何だか悲しい気持ちになってきたが気のせいだろう。
でもここまで言えば俺と関わろうとなんて考えないだろう。
「ボッチさん、 やっぱり。 そしてあの噂は本当だったんだ......」
俺の言葉に何やらブツブツと呟くキヨウ。
恐らく厄介な人物に関わったと後悔しているんだろうな。
「じゃあ俺はもう行く。 ありがとう。 さようなら」
そう言ってそのまま部屋を出ようとした。
しかし一歩も動けない。
おかしいな。 腕が振り解けないぞ?
「知ってます。 知ってるからこそ助けたんです」
キヨウが何か言っている。
聞き間違いか? 俺だと知って助けたと言ったか?
でも言われてみれば、 確かにあの時酒場にいれば分かる話か。
しかし、 なら何で俺を助けた?
何の目的だ?
そんな俺の疑問に答えるようにキヨウが口を開く。
「お願いです! 少し話を聞いてくれませんか?! 」
嫌だ、 と言いたかった。
この人なんかめんどくさいし、 そんなめんどくさい子でも俺のせいで嫌な思いをするのは申し訳ない。
だからやっぱりその場を去ろうとした。
しかし俺は気づいた。
その瞳の奥に見える覚悟を。
これは、 俺をまた力づくでも止める覚悟だ。
今度こそ、 殺される......!
そう思った俺は、 自然に言葉を漏らしていた。
「はい。 聞きます。 聞くからお願いだから殺さないでください」
それを聞いてキヨウは申し訳なさそうに口を開くのだった。
「あの。 前科については謝りますから、 人を殺人鬼みたいに言わないでください」
◇◆◇
キヨウは語り始める。 俺を助けた理由を。
弱い者虐めのように寄ってたかってボコボコにされてる俺を見て我慢出来なかった。
それが最初の衝動だそうだ。
また弱い者扱いは中々心にくるが、 そんな事ばかり気にしてたら話が進まないので気持ちを切り替える。
重要なのはその先。 何故そんな俺を見て我慢が出来なくなったかだ。
安っぽい......いや素晴らしい正義感故なんだろうが、 話を聞いてる限りそれだけじゃないようだ。
「実は、 最近私もパーティを追い出されたんです。
だから同じような状況で、 しかも仕事も貰えない意地悪をされてるボッチさんを見て、 自分もこうなる可能性があるのかと思ったら放っておけなくて......」
なるほど。 俺に自分を重ねた訳だな。
でも安心するといい。 俺程嫌われてる奴も中々いないだろう。 アンタが同じような扱いを受ける事はないよ。
そう言おうと思ったが、 口を開くと何故か泣いてしまいそうだったのでやめた。
しかしまさかこの子もパーティを押し出されていたとはな。
最近流行っているんだろうか、 パーティ追放。
何だか一昔前に騒がれていたような気もするが......。
けどそんな事よりもだ。
こんな優秀な子を追い出すとは元パーティメンバーは馬鹿なのか?
魔法剣士という、 物理も魔力も操れるただでさえ万能な職業でさらに回復魔法まで使えると言うのに。
......そうかなるほど。
この子も俺と同じぐらい嫌われてるんじゃないか?
きっと本当は性格が悪くて何もしないくせにふんぞり返ってて思い込みが激しくて気付かぬうちに周りに迷惑を掛けているに違いない。
実際空気も読めないしな。
それなら俺を自分と重ねてしまっても無理はないだろう。
だったら先人からアドバイスをしてやらねば。
まずは自分の行いを反省し......。
「あ。 ちなみに私はボッチさんみたいに何もしないくせにふんぞり返って反感買って追い出された訳じゃありませんから」
「あ、 はい。 すみません」
おい、 心の中を読まれたぞ。 そんなに顔に出てたか?
と言うかなんでそんな事まで知ってる。 スリィめ、 他の奴が俺と同じ目に合わないようにと細部まで言いふらしたな。 気が利くいい子。
いやそれにしても酷い言い様じゃないか? 事実だけど。
「私が追い出された理由は、 私の能力にある、 らしいんです」
少なからずショックを受けてる俺なんてお構い無しにキヨウは話を続ける。
らしい? なんで歯切れが悪いんだ?
「聞いたでしょう? 私の通り名。
『器用貧乏のキヨウ』。
どうやら私、 多方面の技術を取り入れ過ぎたせいで、 それぞれの能力が中途半端にしか身に付いてないらしくて......それで役に立たないからって追い出されたんです」
なるほど。 そう言う事か。
確かに酒場でもそんな風に呼ばれていたな。
まぁ確かに。 相手にダメージを与えられない風魔法を使えても役に立たないかもしれない。
よく見れば、 回復してもらった傷も所々治りきっていないし少し痛い。
この調子なら、 剣技の方も少し心許ないんだろう。
「ちなみにそのパーティの名前は? 」
「はい、 『一点突破の集い』です」
おお。 俺が元いた「漆黒の混沌」に次いでNo.2のパーティじゃないか。
そこにいられただけですごいが、 でも確かにそれなら追放の理由も納得がいく。
「一点突破の集い」は、 その名の通り各自極限まで極めた分野を持つ者ばかりが集まるパーティ。
そんな中にいては万能型のキヨウは厄介者扱いされても仕方がないだろう。
しかしそれでもパーティに招かれたのだから、 何かしら彼女に光るものがあったんだと思うが......。
しかしそれ以上に気になる事がある。
そもそも器用貧乏は......。
「私! 許せないんです! 」
思考の途中でキヨウが叫んだ。
おかげでびっくりして頭が真っ白になってしまう。
何を考えてたんだっけ?
「確かに私はあのパーティの趣旨にあっていない人材でした! でも声を掛けてきたのは向こうですよ!?
これからは万能型の力も必要かもしれないからって誘ってきたのは向こうなんです!
それなのに! やっぱりそれぞれの能力が、 それぞれの得意分野を持つものに劣るからって追い出されて......こんなのは不当です!! 」
むぅ。 そういう事があったのか。
確かに彼女の言葉を信じれば、 あまりにも一方的で自分勝手な追放だ。
俺とは違い状況、 憤るのも無理はない。
思わずウンウンと頷いて同意してしまう。
しかし。
「だから私! 彼らを見返したいんです! 」
続く言葉には、 驚きを隠せなかった。
「最初は勢いでした! 虐められてるボッチさんを見て見ぬふり出来なくて勢いでパーティでの仕事を受ける事を提案しました!
でもこれで、 パーティを追い出された二人で仕事を成功させれば! きっと私の事も認めてくれる! そう思ったんです! 」
なるほど。 そこまで考えてのあの行動か。
案外強かなんだな。
確かに言い分は通ってる。
役に立たないと判断されたなら、 行動で示して有能性を示せばいい。
確かにそうだ。
「ね?! いい考えでしょ?! これならボッチさんの信用も取り戻せます! 」
そしてついでではあるが俺の事も考えてくれている。
強かでありながら優しい子だ。
「だから! 二人で任務を遂行して見返してやりましょう! だから私とパーティを組んで下さい! お願いします! 」
しかしだ。
「.......断る」
「え? 」
この考え、 どうにも俺は納得出来ない。
「な、 何でですか?! 私たちを追い出した人たちを見返してやりたくはないんですか?! 」
どうやら彼女も納得出来ていない様子。
だから言ってやる。
「何で見返す必要がある? 」
「......は? え? どういう......」
やれやれ。 ここまで言って分からないか。
俺は動揺するキヨウに対し、 眉一つ動かさず説明してする。
「見返す事に何の意味がある? 見返したところで何だと言うんだ。
意味がない。 気にする必要がない。
何故なら、 冒険者の目指すべき所は魔王討伐だからだ。
それ理由以外に何の意味がある?
自分を認めない人間に認めて貰ったところでどうだと言うんだ。
魔王討伐には何の支障もないだろう? 」
そこまで言うとキヨウは何も言わなくなった。
返す言葉も見つからないと言ったところか。
でもここで固まられても困る。
俺にはもう一つ気になるところがあるんだ。
「お前、 器用貧乏と言われたらしいな? 」
「っ?! そ、 そうです! それなら理由になりますよね?
私は器用貧乏なんかじゃない! 万能型なんです!
そんな不名誉な通り名を付けられては信用も落ちて魔王討伐だなんて......」
「器用貧乏の何がいけないんだ? 」
「っ?! 」
折角饒舌に喋り始めたかと思ったらまた黙ってしまった。
まだ俺の言いたい事は終わってないぞ?
「器用貧乏って事は、 つまり不器用じゃないって事だ。
それの何がいけない? 俺のように不器用で何も出来ないよりはよっぽどマシなんじゃないか?
お前はただ、 自分の『万能型』を信じられてないだけだ。
心の奥底では、 一つの能力を一点手中して伸ばした方がいいと思ってるんだ。
他人どころか自分も信じられてない。
そんな奴が、 何を見返すと言うんだ? 」
そう。
キヨウは追い出されたとか器用貧乏だとか、 そんなものを本当に気にしてる訳じゃない。
ただ他人に言われた事で自分を信じられなくなっているだけだ。
だから自分の事を話す時に歯切れが悪かった。
自分の自信のなさを、 誰かのせいにしようとしているだけなのだ。
「なるほど......アナタが嫌われてる理由、 分かりましたよ」
キヨウは俺を睨みながら呟く。
その事自体はどうでもいいが、 これ以上コイツの話を聞いてやる必要はない。
俺は再び部屋を後にしようとする。
しかし。 続く彼女の言葉が俺の足を止める。
「もう仕事は受けました! 私とアナタのパーティで!
仕事を途中で投げ出せば今度こそ全ての信用を失い、 正当な理由で冒険者を辞めさせられますよ!! 」
コイツ。 本当に性格が悪いな。
けどここは従うしかない。
仕事をウケっれなくなったら魔王討伐どころの話ではなくなってしまうからな。
「......分かった。 その仕事が終わるまで、 パーティを組もう。
お前のその根性、 俺が叩き直してやる」
俺は出来る限り威厳を見せるようにそう言った後。
彼女にこう告げたのだった。
「けどすみません。 俺戦闘能力ないので戦いは任せた。 がんばれ」
「言ってる事色々めちゃくちゃなの分かってます?! 」
こうして。
俺はこのキヨウと共に、 仕事に挑む事になったのだった......。
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