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三つの国
クランの独り言と日記(結愛視点)
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「だぁーー、もう!」
クランは朝から叫んだ。その大きな声が二人でいる部屋に響く。
「なんで、オレ様がこんな事しなきゃなんねーんだよ!! テト様のバカヤローーーーー! っつか、ヨウが帰ってくりゃ全部解決しねぇか? しねぇなぁ」
「クランさん」
横で私、結愛はクスクスと笑う。テトがしていた仕事をすべてクランがしているのだ。成績上位だった彼には別に苦ではない事ではあるけれど、責任はやはり重く感じるのだろう。ファイスヴェードでは国の上部が混乱していて、ナグカルカとの国交に色々と支障が出ている。これは国に戻ったフェレリーフが関わっているそうだけど、クランは私には教えてくれない。なのに、一緒に苦労を分かち合える同士を求めているようだ。名前が出たテトの弟、ヨウは今魔人の国で王様代理をしている。この国で王子の仕事なんてしてる場合じゃない。
「私も手伝うから」
「あ、悪い。聖女様に、そんな事させられないだろ」
「何言ってるの。私はあなたのパートナーなんだから何だって話して欲しいし、何だって頼って欲しい」
あれ? と私は少し考える。もしかして、これがすずちゃんの言っていたもとになった人の気持ち。
クランのパートナーだったのかなと、少し複雑な気持ちになる。
「あ、結愛、その……なんだ」
「はい?」
「結愛のもとになった人物のこと知りたいか?」
突然そんな事を聞かれた。戸惑っていた私の表情から読み取られたのかもしれない。クランが答えを提示してきた。
「…………知りたいです」
「そうか……。今日の仕事が終わったら、あとで話すよ」
クランはそう言うと、今度は無言になって仕事を片付け始めた。
私はそれを見ながら、隣の席に座り、彼のお手伝いを始める。
◇
外が暗くなってきた夕刻、クランの部屋に私は招かれる。
「あの……これは」
クランから差し出されたのは、絵と日記だった。
「これが結愛の入れ替わった人物だ」
絵には少し赤みがある金色の綺麗な髪、青い瞳を持つ女の人が描かれていた。
「名前はカラーリャ。オレ様のライバルだったらしい」
「らしい?」
「記憶にないんだ。記録はあるのに……」
「そうなんだ」
彼女は入れ替わった私という人物に記憶が改ざんされていくんだろう。だけど、少し覚えている場合もあるらしい。覚えている人と覚えていない人、いったい何が違うんだろう。
「その日記に、俺様と約束した事や何があったか書いてある」
「見ていいの?」
他人の日記帳なんて、見てはいけないものだと私は思った。
「オレ様はもう読んだ。だが、全然覚えてやれてない。もし、結愛が読んで何かわかったら聞きたいんだ」
「……思い出してあげたいの?」
「――わからない」
「……読んでみるね」
「あ、あぁ」
私はクランの部屋の中に足を進める。驚く彼を横目に一人がけソファーに座る。
ぱらっとページを開くと赤い花の栞がはさんであった。
「この花、学園の?」
学園のどこかでこの花が咲いているのを見た気がする。
「たぶんそうだと思う」
クランはもう一脚のソファーにドサリと腰をおろした。だいぶ疲れているのか、ふぅーと長いため息をついている。
「入学してからずっとつけてたらしいから長いぞ?」
「うん、少しだけ、ここで読んでいく」
赤い花の栞を膝に置き、私はカラーリャの日記をのぞいた。
クランは朝から叫んだ。その大きな声が二人でいる部屋に響く。
「なんで、オレ様がこんな事しなきゃなんねーんだよ!! テト様のバカヤローーーーー! っつか、ヨウが帰ってくりゃ全部解決しねぇか? しねぇなぁ」
「クランさん」
横で私、結愛はクスクスと笑う。テトがしていた仕事をすべてクランがしているのだ。成績上位だった彼には別に苦ではない事ではあるけれど、責任はやはり重く感じるのだろう。ファイスヴェードでは国の上部が混乱していて、ナグカルカとの国交に色々と支障が出ている。これは国に戻ったフェレリーフが関わっているそうだけど、クランは私には教えてくれない。なのに、一緒に苦労を分かち合える同士を求めているようだ。名前が出たテトの弟、ヨウは今魔人の国で王様代理をしている。この国で王子の仕事なんてしてる場合じゃない。
「私も手伝うから」
「あ、悪い。聖女様に、そんな事させられないだろ」
「何言ってるの。私はあなたのパートナーなんだから何だって話して欲しいし、何だって頼って欲しい」
あれ? と私は少し考える。もしかして、これがすずちゃんの言っていたもとになった人の気持ち。
クランのパートナーだったのかなと、少し複雑な気持ちになる。
「あ、結愛、その……なんだ」
「はい?」
「結愛のもとになった人物のこと知りたいか?」
突然そんな事を聞かれた。戸惑っていた私の表情から読み取られたのかもしれない。クランが答えを提示してきた。
「…………知りたいです」
「そうか……。今日の仕事が終わったら、あとで話すよ」
クランはそう言うと、今度は無言になって仕事を片付け始めた。
私はそれを見ながら、隣の席に座り、彼のお手伝いを始める。
◇
外が暗くなってきた夕刻、クランの部屋に私は招かれる。
「あの……これは」
クランから差し出されたのは、絵と日記だった。
「これが結愛の入れ替わった人物だ」
絵には少し赤みがある金色の綺麗な髪、青い瞳を持つ女の人が描かれていた。
「名前はカラーリャ。オレ様のライバルだったらしい」
「らしい?」
「記憶にないんだ。記録はあるのに……」
「そうなんだ」
彼女は入れ替わった私という人物に記憶が改ざんされていくんだろう。だけど、少し覚えている場合もあるらしい。覚えている人と覚えていない人、いったい何が違うんだろう。
「その日記に、俺様と約束した事や何があったか書いてある」
「見ていいの?」
他人の日記帳なんて、見てはいけないものだと私は思った。
「オレ様はもう読んだ。だが、全然覚えてやれてない。もし、結愛が読んで何かわかったら聞きたいんだ」
「……思い出してあげたいの?」
「――わからない」
「……読んでみるね」
「あ、あぁ」
私はクランの部屋の中に足を進める。驚く彼を横目に一人がけソファーに座る。
ぱらっとページを開くと赤い花の栞がはさんであった。
「この花、学園の?」
学園のどこかでこの花が咲いているのを見た気がする。
「たぶんそうだと思う」
クランはもう一脚のソファーにドサリと腰をおろした。だいぶ疲れているのか、ふぅーと長いため息をついている。
「入学してからずっとつけてたらしいから長いぞ?」
「うん、少しだけ、ここで読んでいく」
赤い花の栞を膝に置き、私はカラーリャの日記をのぞいた。
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