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三つの国
母の子守唄
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「あのね、ヨウ」
「ん?」
忙しくてなかなか会えないけれど、今日は特別。一緒にいられる。一人分の空間が空いてるけど、ベッドに並んで座ってる。だけど、隣の部屋に、いるのだ。赤ちゃんとベルとセレが!
「まあ、しょうがないよね。うーん、どうしようか」
「さすがに、ごにょごにょ」
結婚式の誓いのキスだって、こっちではしないみたいで、「み、皆の前でするのか? 向こうでは」ってヨウが恥ずかしがるんだもの。私も恥ずかしくて、結局二人で真っ赤になってそこまで。だから、あの時キスしてから、私達は止まってる。
両手の人差し指をくるくる回しながら私は困っている。
ギシリとベッドがなる。
ヨウが距離をつめてきた。漆黒の角、赤い髪、それに黒い瞳が目の前を埋める。
「少し疲れてる?」
抱き締める腕の力はあくまでも優しくて、私は自分からヨウに身体を預けた。
「起きたら、歌ってるから」
「だよね、ごめんね。ボクも手伝えればいいのに」
ヨウは抱っこしても怒られないだけで、あの子達は私の歌声じゃないと泣き止まない。だから、かなり体力は削られている。
「ううん、ヨウは私に出来ないことしてくれてる。少しずつだけど、二人とも寝る時間のびてるし、大丈夫だよ」
ヨウはおでこにそっと唇を寄せた。
すぐに離れると今度はお互いの唇を合わせる。緊張して少しかたくなる。ヨウは私の緊張がとけるのを待つようにゆっくりと息を合わせてくれた。
少しして、ポタリと涙がヨウの目から流れた。
「どうしたの? ヨウ」
「あはは、起きちゃったみたいだ」
壁の向こうから小さな泣き声。
「そっか、行かなきゃ」
「待って、もう一度」
私達は軽く唇を重ねると一緒に立ち上がる。
「ゆっくりでいいよね。ボク達はずっと一緒だから」
「そうだよね、一緒に守るって決めたもんね」
正直に言うと、それ以上に進むのって怖かった。
だから、まだこれで良かったのかもしれない。
でも、いつかはヨウと出来るといいな。
「本格的に泣いちゃう前に急がなきゃ」
私は隣の部屋をノックする。
そこには少し申し訳なさそうなセレ達がいた。
「ごめんなさいです。鈴芽様」
謝られるとこっちも困ってしまう。
ヨウが大きく泣いているリリーをあやす。私はティーの手をそっと握る。
「おやすみなさい。はやく大きくなぁれ」
私は二人に子守唄を歌ってあげる。どこかで聞いたことがある懐かしいメロディ。お母さんがたぶん歌ってくれた歌。
……会いたいな。お母さん、今どうしてるのかな。
「ん?」
忙しくてなかなか会えないけれど、今日は特別。一緒にいられる。一人分の空間が空いてるけど、ベッドに並んで座ってる。だけど、隣の部屋に、いるのだ。赤ちゃんとベルとセレが!
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「さすがに、ごにょごにょ」
結婚式の誓いのキスだって、こっちではしないみたいで、「み、皆の前でするのか? 向こうでは」ってヨウが恥ずかしがるんだもの。私も恥ずかしくて、結局二人で真っ赤になってそこまで。だから、あの時キスしてから、私達は止まってる。
両手の人差し指をくるくる回しながら私は困っている。
ギシリとベッドがなる。
ヨウが距離をつめてきた。漆黒の角、赤い髪、それに黒い瞳が目の前を埋める。
「少し疲れてる?」
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「だよね、ごめんね。ボクも手伝えればいいのに」
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ヨウはおでこにそっと唇を寄せた。
すぐに離れると今度はお互いの唇を合わせる。緊張して少しかたくなる。ヨウは私の緊張がとけるのを待つようにゆっくりと息を合わせてくれた。
少しして、ポタリと涙がヨウの目から流れた。
「どうしたの? ヨウ」
「あはは、起きちゃったみたいだ」
壁の向こうから小さな泣き声。
「そっか、行かなきゃ」
「待って、もう一度」
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「ゆっくりでいいよね。ボク達はずっと一緒だから」
「そうだよね、一緒に守るって決めたもんね」
正直に言うと、それ以上に進むのって怖かった。
だから、まだこれで良かったのかもしれない。
でも、いつかはヨウと出来るといいな。
「本格的に泣いちゃう前に急がなきゃ」
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「ごめんなさいです。鈴芽様」
謝られるとこっちも困ってしまう。
ヨウが大きく泣いているリリーをあやす。私はティーの手をそっと握る。
「おやすみなさい。はやく大きくなぁれ」
私は二人に子守唄を歌ってあげる。どこかで聞いたことがある懐かしいメロディ。お母さんがたぶん歌ってくれた歌。
……会いたいな。お母さん、今どうしてるのかな。
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