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三つの国

テトと会いたくない人

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 大きな空間。ガラスのような壁の向こう側は緑色の液体。その中に浮かぶのは女の魔人――。

「母さん……」

 私の口からこぼれでた言葉だった。

「こちら側に来だしているな」

 ズハリがガラスに触れると液体に浮かぶ女の魔人がゆっくりと目を開いた。違う、私のお母さんはこの人じゃない。じゃあ、この人はスズのお母さん?

「もうすぐ役目が終わる。片方はすでに抜け落ちた」

 女の魔人には角が一本なかった。そもそも色がないのか角自体が見えにくい。けれどそこにあるのはわかった。
 無色の角。何色でもない透明な角。

 コツコツ

 何かが壁に当たる音がする。
 ズハリは目を閉じて息を吐く。

「やはり、この娘か」
「……何がですか?」

 ズハリは私を見たあとヨウに向かって言った。

「スズは背中の右肩あたりだ」

 ヨウは頷くと、私の肩に手を置いた。

「ここ、見てもいい?」

 え、それってどういうこと? 今見ないと駄目なのかな。そう言いたいけれど、すごく真面目な二人の顔に私は頷いてしまった。
 ゆっくりとヨウに服をさげられる。私は前を見られないようにズハリに背中を向けた。

「あった」
「そうか」
「何があったの?」

 服を直しながら私はヨウに問いかける。すると、今度はヨウが服をお腹が見えるようにめくりあげた。

「あ、何だろう。紋様?」

 ヨウの左脇腹に五百円玉位の大きさの紋様があった。

「そう、魔王候補のね」
「これが私にも?」
「ここにあるよ」

 そう言ってヨウは私の右肩を指で触った。

「私、聖女じゃないの? 魔王候補って?」
「魔王候補だったスズの代わりにここにきたせいだろう。父さん、角はもうすずめを選んでいる?」
「そうだろう。抜け落ちた後から今まで他の全員がこの部屋に入った。あとはスズとお前だけだった。そして今、確かに反応があった」
「魔王って何? いったい何なの?」

 目の前にいる『魔王』は、よくわからない部屋で、水の中に浮かんでいる。生きているみたいだけど、死んでいるようにも見える。

「覚えてないか、スズ――」
「違う、私は……」
「父さん、これ以上はすずめが」
「やはり取り戻すしかない。ヨウ闘技場に行くぞ」
「なっ?!」

 ズハリが手で丸を描くとまた先程のような移動する感覚に包まれる。
 まばたきして次に見た景色は、ずらりと魔人が立ち並ぶ場所だった。そこに見知った二人もいた。

「テト……さん、それに……」

 思い出したくない。リオンに似てる青紫色の髪の女の人。私を牢に閉じ込めた人。フェレリーフがテトの横で妖艶に笑っている。
 ただ、彼女の頭には、あの時にはなかった緑色の角が二本はえていた。
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