歌うすずめとクロツノ魔王

花月夜れん

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三つの国

白角の街

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「待って、ヨウ」
「すずめ、こっちだ」

 大きな街が見える丘。ヨウはこの国に入った途端私の事をすずめと呼ぶようになった。
 セレとイソラはあの街にいる。

「ここに怪我人はあまりいないから、気負わなくていいよだってさ」
「そっか。ヨウいい?」
「今日はこのままでいい?」

 ヨウはどうやらネコになってはくれないみたいだ。少し意識をしながら黒い角にふれる。
 すぅと息を吸い込んで、私は歌いだした。

「緊張してる?」

 びくりとしてしまう。まさか角に触られるのがあんな感じだったなんてと戸惑ってしまったのがばれたのだろうか。

「大丈夫。気にしないで。すずめに触れてもらえるとすごく嬉しいから」

 やっぱりバレてる。
 背中から見るヨウの横顔、なんだか嬉しそうに笑ってた。

「気にしない方が難しいよ」
「あ、やっぱり気にしてたんだ」

 あははと笑われてしまった。

 歌い直しながら私はテトの事を思い出した。

「テトさんは、ここにいたりしないかな」
「どうだろう。父さんは今中央に呼ばれているだろうから……一緒についていったかも」
「そっか」

 ここは、私と入れ代わった魔人が住んでいた街、ホワイトホーン。
 白角の領主が代々治める土地なのだそうだ。

「あの人は……」

 私がここにきたせいで、自分の子どもがいなくなってしまった。

「すずめのせいじゃない。すずめはこの世界の都合に巻き込まれて呼び出された、だろ?」
「でも……」

 あの人からも、ヨウからも大切な人を奪っている。私がここにきたせいで。

「行こう、イソラ達と落ち合わないと」
「うん」

 ヨウはゆっくりと立ち上がり、振り向いた。

「ボクのあと、ちゃんとついてきてね」
「わかってる!」

 ヨウの住んでる街でもあるあの場所に歩きだした。

「まだ戻ってない?」
「みたいだね。もしかして難航してるのかな」
「見に行こうよ」

 戻って落ち合う予定の場所はヨウのお家。一人暮らしにはちょうどいいくらいのお部屋だけど、皆で集まるとちょっと狭い。二人がいないので、そう、いまヨウの部屋で二人きりなんです。
 そわそわしながら何度も外を見に行こうとする。
 その度に、アイツに会うと面倒だからと引っ張られる。
 アイツっていうのは前にヨウが魔法でどこかに飛ばした魔人のことだ。
 あの魔人はもう少し先の街の住民なのだけど、ぱっと思い浮かんだ場所がここだったのでここに飛ばしてしまったそうだ。

「父さんに文句言ってないといいけど。……もしかしたらそっちに行ってるかもね。探知魔法には反応しないから」

 そう言ってヨウは私をひっぱってベッドに座らせ、自分はその横に座った。

「すずめ」
「何? ヨウ」
「まだ、アイツの事が好き?」

 まっすぐにヨウが見てくる。

「ボクはすずめが好きだよ」
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