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三つの国
三つの国
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「右に並んでください」
「今から歌が始まります」
私達は大きく響く整列させてくれる人の声を聞きながら、頷いた。
「今日も多いね」
「やることは変わらないでしょ」
「歌おう、あみちゃん、ゆあちゃん」
三人が揃って歌う聖女の歌は、中立を決めたナグカルカの二国との境界に作られた劇場に響く。
「こんなにいるのに、やっぱり向こうに戻る人がおおいんでしょう」
「そうね」
傷の手当てが終わったあと、ナグカルカに身を寄せる者は少ない。
ファイスヴェードは人がほとんどを占めていて、セキドガーグは魔人が大半。
「人も魔人も、ともに暮らそうなんて、すぐには無理なんでしょう。だって、自国でさえ揉めるんだから」
「あみちゃん……」
「何よ、本当でしょう」
結愛が麻美を見ながら小さくため息をつく。ナグカルカに連れて帰ると麻美は少しずつだけどもとの強い麻美らしくなってきた。
「そうだね。困ったものだけど、仕方がないよ」
「テト」「テトさん」
赤い髪の男が三人の休憩部屋に顔を覗かせた。
「あ、ヨウもお疲れ様」
私は横に立つ黒い髪に変わっているヨウに気がついて笑いかける。
「すず、ボク以外に歌わないで欲しい」
いつものように文句を言ってくる。
私は三人でいれば、ヨウの助けがなくてもいいことがわかって、最近彼に触れて歌うことが減っていた。
「ヨウ、ごめんね。だけど、わかって」
ナグカルカの実情を、帰ったその日にリーンに聞かされた。
◇
「学園のほとんどが角持ちです。それどころか、王の血族は今すべて角持ちです」
ナグカルカは魔人と人が曖昧になっているのが現状である。そうリーンが教えてくれた。
ナグカルカで産まれた角持ちとセキドガーグで産まれたツノナシをとある場所で交換している。という話もあり、魔人も人も自分の子どもかもしれないという考えから二つの国は適当な距離をおいているそうだ。
学園もまたその交換に一役買っているそう。
成長して、大きくなってから子どもにどちらで暮らすか決めさせる為の施設でもあるのだそう。
「それじゃあ」
「テト君もこの学園を卒業してる。彼もまた角持ちだったからね。彼は未来を自分で自由に決める事は出来ないけれど、やると決めたんだ」
「テトさん……」
テトはそんな事を微塵も感じさせない態度だった。けど彼なりに色んな考えがあったのかもしれない。ヨウに対してそこまで厳しくなかったのはそのせいだったのかな。
「あの、クランさんはどこに?」
結愛が気になったのかリーンに聞いた。学園長の部屋の中にはクランがいない。
「もうすぐ来ると思うよ」
コンコンと扉を叩く音がした。皆がそちらに視線を送るとリーンがすぐに答えた。
「入って大丈夫だよ」
「失礼します」
聞き覚えがある声。なんで? どういう事?
「テトさん……?」
部屋に入ってきたのは、いつものテトだった。
「今から歌が始まります」
私達は大きく響く整列させてくれる人の声を聞きながら、頷いた。
「今日も多いね」
「やることは変わらないでしょ」
「歌おう、あみちゃん、ゆあちゃん」
三人が揃って歌う聖女の歌は、中立を決めたナグカルカの二国との境界に作られた劇場に響く。
「こんなにいるのに、やっぱり向こうに戻る人がおおいんでしょう」
「そうね」
傷の手当てが終わったあと、ナグカルカに身を寄せる者は少ない。
ファイスヴェードは人がほとんどを占めていて、セキドガーグは魔人が大半。
「人も魔人も、ともに暮らそうなんて、すぐには無理なんでしょう。だって、自国でさえ揉めるんだから」
「あみちゃん……」
「何よ、本当でしょう」
結愛が麻美を見ながら小さくため息をつく。ナグカルカに連れて帰ると麻美は少しずつだけどもとの強い麻美らしくなってきた。
「そうだね。困ったものだけど、仕方がないよ」
「テト」「テトさん」
赤い髪の男が三人の休憩部屋に顔を覗かせた。
「あ、ヨウもお疲れ様」
私は横に立つ黒い髪に変わっているヨウに気がついて笑いかける。
「すず、ボク以外に歌わないで欲しい」
いつものように文句を言ってくる。
私は三人でいれば、ヨウの助けがなくてもいいことがわかって、最近彼に触れて歌うことが減っていた。
「ヨウ、ごめんね。だけど、わかって」
ナグカルカの実情を、帰ったその日にリーンに聞かされた。
◇
「学園のほとんどが角持ちです。それどころか、王の血族は今すべて角持ちです」
ナグカルカは魔人と人が曖昧になっているのが現状である。そうリーンが教えてくれた。
ナグカルカで産まれた角持ちとセキドガーグで産まれたツノナシをとある場所で交換している。という話もあり、魔人も人も自分の子どもかもしれないという考えから二つの国は適当な距離をおいているそうだ。
学園もまたその交換に一役買っているそう。
成長して、大きくなってから子どもにどちらで暮らすか決めさせる為の施設でもあるのだそう。
「それじゃあ」
「テト君もこの学園を卒業してる。彼もまた角持ちだったからね。彼は未来を自分で自由に決める事は出来ないけれど、やると決めたんだ」
「テトさん……」
テトはそんな事を微塵も感じさせない態度だった。けど彼なりに色んな考えがあったのかもしれない。ヨウに対してそこまで厳しくなかったのはそのせいだったのかな。
「あの、クランさんはどこに?」
結愛が気になったのかリーンに聞いた。学園長の部屋の中にはクランがいない。
「もうすぐ来ると思うよ」
コンコンと扉を叩く音がした。皆がそちらに視線を送るとリーンがすぐに答えた。
「入って大丈夫だよ」
「失礼します」
聞き覚えがある声。なんで? どういう事?
「テトさん……?」
部屋に入ってきたのは、いつものテトだった。
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